全国制覇ゼロの高校、なぜインハイで日本一に? 明秀日立、強さの訳…青森山田撃破は「サプライズではない」

明秀日立がインターハイで“快進撃”【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
明秀日立がインターハイで“快進撃”【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

静岡学園、青森山田の強豪撃破で注目、明秀日立がインターハイで“快進撃”

 真夏の北海道で行われた令和5年度全国高校サッカーインターハイ(総体)で、大会初制覇を果たした明秀日立(茨城)は、文字どおり内容、結果ともに主役になった。過去の全国大会では、選手権ベスト8、インターハイベスト16が最高成績。今大会ではノーマークの存在だったが、1回戦でプレミアリーグWEST首位の静岡学園(静岡)を2-1で破り一気に注目を集めると、3回戦ではプレミアリーグEAST首位の青森山田(青森)を1-0で撃破してベスト8進出。この2つの金星で大注目の存在となった。

「このまま明秀日立が行くこともあると思うよ」と大会中に関係者から声が出ていたように、この2つの勝利は決して偶発的なものではなく、緻密な戦略とそれを実践する選手たちのクオリティーが噛み合ってのものだった。

 特に守備から攻撃の切り替え、攻撃に入る時に全体の立ち位置と関わりは素晴らしいものがあった。県リーグ1部でプレーする明秀日立にとって、プレミアリーグ勢はプリンスリーグを挟み、2カテゴリー上の相手だ。

 そんな格上の相手に対して守備の枚数を増やしてひたすら耐えるという守備は一切せずに、横と縦のスライドを繰り返しながら、守備の奪いどころを明確にし、奪ったボールを裏だけではなく、MF吉田裕哉(3年)とMF大原大和(3年)の2ボランチに当てて組み立てながら試合を運ぶという狙いを持った攻撃を展開した。

 だからこそ、静岡学園を相手に2ゴールを奪うことができ、2回戦の関大一(大阪)戦も相手のシュートを1本に抑え、逆にシュート10本を浴びせて2-0快勝となった。青森山田戦ではDF山本凌(3年)とDF飯田朝陽(3年)のセンターバックコンビを中心としたチャレンジ&カバーなど、上手く統率された守備が最後まで崩れず、終了間際にカウンターから交代出場のFW根岸隼(3年)がスピードに乗ってDFを振り切って執念の決勝ゴールを叩き込んだ。

 ここで萬場努監督が「静学、青森山田に勝ったことで必要以上に浮かれてしまってはいけない」とチームを引き締めただけではなく、選手自身が「まだ何も成し遂げていない」と謙虚であり続けたことが、この後の偉業達成につながっていった。

 準々決勝では組織的なサッカーをしてくる高知(高知)の狙いを封じ、1点を奪い切って勝利。準決勝では日大藤沢(神奈川)を相手に前線からのプレスを仕掛け、前半だけで2点のリードを奪って、3-1で勝ち切った。

 そして、決勝では桐光学園(神奈川)を相手に流れるようなパスワークとダイレクトプレーから2点を先行。その後、相手の両ワイドを起点とした攻撃の前に2点を奪われたが、同点になってからは相手にボールを持たせつつ、細かいチャレンジ&カバーを繰り返して、中央へのパスを通させず、フィニッシュまで持ち込ませなかった。

6試合を通じて感じられた「全員がリーダー」という意識づけ

 6試合を通じて感じたのは個々がピッチの中で独立していること。その理由は今年採用した「全員がリーダー」という意識づけだった。

「実はインターハイの直前までキャプテンを決めていなかったんです。その理由として去年は突出した個を持つ選手に頼り切りになってしまったので、それを避けたかったから。毎日、日替わりでリーダーを変えて、その時々のリーダーが責任感を持ってやるようにしました。インハイ出場が決まってからゲームキャプテンは山本に固定しましたが、チームは誰かに頼ることはなくなったと思います」(萬場監督)

 ピッチにいる全員がリーダーを経験したことで、試合中の声かけや全体を見るという意識が植え付けられた。それを彼らは萬場監督の緻密な戦術に対応しながら、チームに還元して行った。実際に明秀日立の試合を見ると最後まで声が途切れないし、うしろの選手がしっかりと前の動きを見てコーチングをしているからこそ、後方に人数を割けなくてもしっかりとしたブロックを構築し、鋭い攻守の切り替えからゴールを決め切るカウンターを繰り出すことができた。

 決して勢いだけではない、本物のチーム力があったからこそ、栄冠は明秀日立の下に輝いた。それはもはやサプライズではなかった。

(FOOTBALL ZONE編集部)



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