川崎が「正攻法の激しさ」で真っ向勝負 ドイツ王者バイエルンの好ゲームを演出できた訳【コラム】
【カメラマンの目】川崎のプレーに呼応し、バイエルンも心置きなく実力を発揮
結局のところ、そういうことなのだ。どういうことかと言うと、パスを出して走る。パス&ゴー。攻撃に関してこのサッカーの基本中の基本をドイツの強豪バイエルン・ミュンヘンもスタイルの根幹としている。
パスを出した選手がその場にとどまらず、さらに前線へと進出すればボールを受けた選手はドリブルで仕掛けるのも良し、またパスを出すにしても近くにより多くの味方がいれば選択肢が広がる。攻撃に厚みが出てゴールへのチャンスも生まれやすくなる。高い個人技術を持った選手がサッカーの基本を堅実にこなす姿は、まさにドイツサッカーの真骨頂と言え、世界のトップレベルのチームでも複雑で特異なことをやっているわけではないのだと実感する。
このリーグ11連覇を達成しているドイツの皇帝チームを川崎フロンターレが迎え撃った90分は、ここまでゴール裏からカメラのファインダーを通して見てきた海外チームが参加した親善試合のなかで最も充実した内容となった。
何より川崎の選手たちのモチベーションが高く、ドイツの絶対王者に対して怖気づくことなく果敢に勝負を挑んでいた。この川崎の勝利への強い姿勢は、さすがのバイエルンでも簡単には振り払えないほどで、おのずと両チームともに力のこもったプレーを見せることになる。
両チームは後方でボールをつないで相手守備網を揺さぶって突破し、前線ではドリブルと素早いパス交換で敵ゴールを攻略するという、奇しくも類似したスタイルをピッチで展開する。
それでも個人技で勝るバイエルンに対して、劣勢となる時間が長かった川崎はカウンターでの反撃も試みる。そのカウンターから繰り出されるスルーパスは前がかりとなったバイエルンの急所を突き刺し、得点へのチャンスを作り出していった。さらには随所で負けじと本来のつなぎのサッカーも見せ、相手ゴールへと迫った。
改めて説明するまでもないが、川崎は鬼木達監督が打ち出すスタイルを選手たちが習得し、戦術を最大の武器として戦うチームだ。選手がパス、トラップといった基本プレーを正確にこなすことができればチームは機能する。そのため誰がピッチに立っても一定の水準のサッカーができるところが川崎の強みだ。バイエルンを相手にしてもシステムとしての完成度の高さが存分に発揮され、改めて川崎は手ごわい集団であると感じた。
それに川崎のサッカーの激しさは正攻法のため野蛮さがない。二重、三重の守備でバイエルンの選手を包囲してクリーンにボールを奪っていた。バイエルンの選手もこの激しさに呼応し、心置きなくプレーできたことが好ゲームへとつながった一因だろう。
あとは両チームのフィニッシュプレーの場面で、精度が高くゴールの奪い合いとなればさらに見応えのある試合となったのだが、それでも4万5289人の観客は両チームが長所を出し合って戦った親善試合を堪能したのではないだろうか。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。