なでしこグループ全勝か、初黒星か V候補スペインは強者揃い…“最大の危険人物”は世界屈指の10番ストライカー【コラム】

グループ首位突破をかけて日本とスペインが対戦【写真:ロイター】
グループ首位突破をかけて日本とスペインが対戦【写真:ロイター】

グループリーグ3戦目でスペインと激突、優勝候補チームの顔ぶれは?

 なでしこジャパン(日本女子代表)はオーストラリアとニュージーランドの共催で行われている女子ワールドカップ(W杯)で、ここまでザンビア、コスタリカを破ってグループリーグ2連勝。早々と決勝トーナメントのラウンド16進出を決めた。グループC最終戦の相手は同じく2連勝で突破を決めている優勝候補のスペインだ。

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 スペインはコスタリカに3-0、ザンビアに5-0で勝利しており、得失点差が+7の日本を上回るため、引き分けなら日本は2位通過となる。ラウンド16で対戦するA組が大混戦で、スイス、ニュージーランド、フィリピン、ノルウェーの全チームにグループ突破のチャンスがあるため、首位通過と2位通過のどっちがプラスかは分からないが、強豪スペインに勝利して、自信を付けて同じウェリントンでラウンド16に臨むほうが良い流れであることは間違いないだろう。

 スペインはクラブレベルの躍進が際立ち、FCバルセロナがUEFA女子チャンピオンズリーグの過去3大会で2度の優勝を果たすなど、ここ数年で大きく成長。昨年のU-20女子W杯では日本を破って優勝した。当時の主力選手だった藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)は「絶対に勝ち切りたい相手というか、U-20の時に決勝で負けて、親善試合でも勝てなくて。個人としても勝った印象がない」と語り、だからこそ倒し甲斐があることも主張する。

「でも、強い相手と分かっていて、楽しくないわけないと思います。自分は劣っているところがあるので、出し惜しみせずに、積極的に戦っていけるかなという部分もあるので。相手の勢いに圧倒されずに、自分の良さを出していくことが大事だと思います」

 スペインは4-3-3と4-2-3-1を使い分けるが、ベースはバルセロナと同じ4-3-3だ。バルセロナ所属で、昨年のバロンドーラーでもある司令塔のアレクシア・プデジャスが左のインサイドハーフから攻撃を組み立てて、レアル・マドリードの攻守の要であるテレサ・アベレイラがアンカーのポジションから躍動的にサポートする。テレサはザンビア戦で先制点を叩き出したように、強烈なミドルシュートも備えている。

 右インサイドハーフのアイタナ・ボンマティは得点能力の高いバルセロナ所属のMFで、パスワークからスペースが空いたと思えば、鋭く飛び出してフィニッシュに絡める。コスタリカ戦で記録した貴重な2得点目は右サイドで味方が作ったチャンスでボックス内に潜り込むと、右足のインサイドカットで相手ディフェンスをかわして、左足で技巧的なシュートを決めた。

U-20女子W杯決勝のリベンジへ、奮起に期待の選手は?

 そして、なんと言っても危険なのは10番を背負うジェニファー・エルモソ。現在はメキシコのパチューカでプレーするが、バルセロナ在籍時の2020-21シーズンに31得点を挙げるなど、出場試合数を超えるゴールを記録している世界屈指のストライカーだ。ザンビア戦でも2得点しているが、ポジショニングが抜群で、1点目はアレクシアからの左クロスにファーからヘッドで叩き込むと、2点目は味方のシュートのこぼれ球を押し込んだ。

 もう1人、特に注意したいのはバルセロナ所属のウインガーであるサルマ・パラジュエロだ。174センチのサイズと抜群のスピードを生かしたドリブル突破から左足でゴールを狙う。藤野が語ったU-20女子W杯の決勝で、まさに日本から2ゴールを奪ったのがサルマだった。アタッキングサードでボールを持って前を向かせたら、最も危険な選手だ。日本のディフェンスリーダーだった石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)にとっても悔しい経験だろう。

 ほかにも、ここまで2試合とも途中出場ながら2得点を挙げているバルセロナ所属のアルバ・レドンド、2アシストのエバ・ナバーロ(アトレティコ・マドリード)など、危険な選手がいる。すでに突破を決めての3試合目ということで、ホルヘ・ビルダ監督も決勝トーナメントを見据えて、さらに多くの選手にチャンスを与えるかもしれない。

 日本側で注目したいのはやはり藤野だ。ザンビア戦では日本人として初めて10代で女子W杯のゴールを記録したなか、強豪スペインのA代表を相手にどこまで通用するのか。もし壁に当たったとしても、ここからの糧にして行けば良いが、池田太監督も彼女の持ち味として挙げるように、恐れることなく積極果敢にチャレンジしてもらいたい。

 また、スペインの良質な中盤に対してなでしこジャパンの心臓である長谷川唯(マンチェスター・シティ)と長野風花(リバプール)がいかに守備で規制をかけながら、攻撃の起点を作っていけるか。その意味では背後で3バックを統率する熊谷紗希(ASローマ)の統率力は不可欠だが、左右のストッパーがどれだけスペインの圧力に耐えられるか。左は南萌華(ASローマ)だろう。右に関しては池田監督が石川を抜擢するのか、コスタリカ戦から引き続き三宅史織(INAC神戸レオネッサ)を起用するのか不明だが、やはりU-20W杯の再戦という意味では石川の奮起に期待したい。

 左右ウイングバックは状況に応じて、5バックにして守備を固める時間帯も多くなるはずだが、右サイドの清水梨紗(ウェストハム・ユナイテッド)などの攻撃参加が藤野など、前目の選手の推進力を押し出す形で得点の鍵を握る。試合展開にもよるが、ラウンド16を見据える意味でも5枚の交代枠は使い切るだろう。

 サイドのジョーカーとして、池田監督の信頼を高めている清家貴子(三菱重工浦和レッズレディース)やスタメンの可能性もある植木理子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)はもちろんだが、初戦の後半アディショナルタイムに出ただけの“千葉の千葉”こと千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)や負傷明けの浜野まいか(ハンマルビーIF)も、スペインとの試合でピッチを踏んでおくことで、ここから躍進のキーマンになって行く期待も高まる。

 もちろん勝利は大事だが、ここで優勝候補の相手に良い戦いをすることで、先に向けた手応えを得るという意味でも重要であり、何よりニュージーランドから日本にW杯の熱を届ける戦いを期待している。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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