名門校・静岡学園でエースナンバーを背負った高校時代を回想

　令和5年度全国高校サッカーインターハイ（総体）は今夏、北海道で熱戦が繰り広げられる。「FOOTBALL ZONE」では高校サッカー特集を展開するなかで、かつて静岡の名門・静岡学園高校で10番を背負ったジュビロ磐田MF古川陽介に、当時を振り返ってもらった。全国から実力者が集う名門校で、いかにエースナンバーを背負う存在へ上り詰めたのか。（取材・文＝FOOTBALL ZONE編集部・橋本 啓）

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　J2ジュビロ磐田でプロ2年目を迎えた古川は、高校サッカーを経てプロへ進んだ。小学校時代は地元・滋賀県のAZUL滋賀フットボールクラブで技を磨きながら、複数のサッカースクールをかけ持つほど熱を入れて取り組み、京都サンガF.C.のスクールに在籍した小学6年時、卓越したテクニックがクラブ関係者の目に留まり、京都U-15へと進んだ。

　ただ、そこからの3年間で壁にぶつかる。持ち味であるドリブルで敵をかわすプレーは影を潜め、「自分の武器を出せなかった」と悩み抜いた。高校進学を前に、古川は選手権で2度の優勝を誇る静岡の名門・静岡学園高校へ行くことを決意。結果的に、この決断が古川のキャリアにおいて分岐点となった。

　Jユースから高体連へ。親元を離れて洗濯や掃除を自らこなし、甘える環境がない寮生活を送る日々に、戸惑いは決してなかったわけではないが、同じ関西出身の仲間が多く、「毎日が楽しかった」と当時を回想する。一方でピッチ内では激しいサバイバルが展開された。全国から選りすぐりの実力者が集い、目の色を変えて主役の座を狙った。

「僕らの時はA、B、C、Dチームとその下に1年生チームとカテゴリー分けされていたんですが、常にみんなバチバチでしたね。1年生の頃は全然試合にも絡めないくらい。ただ、日々の練習での出来次第でスタメンは変わるんですよね。その前の週に活躍していても、今週の練習で駄目だったら入れ替えは全然あり得る。毎日セレクションをやってるような感覚で練習していました」

　仲間との厳しい競争を勝ち抜き、古川にエースの10番が託されたのは3年時。“サッカー王国”静岡の名門校に数えられる静岡学園のエースに抜擢されたのは、2年生になって自らの意識にある変化が芽生えたことがきっかけだったという。古川は当時をこう振り返る。

「Aチームに入って試合にも絡み始めたなかで、秋頃にアルティマリーグ（全国の高校5チーム参加の大会）でスタメンとして出させてもらった時、そこで評価を得られたんです。そこからですね、先発に定着したのは。ただ、その年の選手権予選で負けてしまって。その悔しさを上手くパワーに変えて、『次の夏に引っ張るのは俺しかおらん』という意識が自然と芽生えました」

　高校3年になって、新人戦で10番に指名された古川。「俺が引っ張る」という気持ちに変わりはなく、チームは2021年度の夏のインターハイ、冬の選手権への出場を果たした。インターハイではベスト4、選手権ではベスト8の成績。目標とする日本一には届かなかったが、古川自身は自慢のドリブルで沸かせるなど特大なインパクトを放った。

夏のインターハイ準決勝で青森山田に完敗、悔しさバネにチーム一丸に

　昨年のプロ入りから1年半近く経った今、10番を背負った最高学年での後悔はなかったかを問うと、「それに関しては本当にないですね」ときっぱり言い放った。日本一を達成できなかったことに古川は「上手くいかない時もあったし、自分の実力不足だった」と反省を口にしつつも、ある情景を思い浮かべながら、高校3年のシーズンに触れた。

「インターハイで青森山田に0-4で負けてから、全員で絶対、選手権で借りを返してやろうって言って、本当にそこから変わったんですよ。1つの目標に向かって、全員で選手権に挑んだ。結局勝てなかったんですけど、あれがなかったら僕たち、選手権であそこまで結果を残せなかったですし、自分がゴールを決めることもなかったと思います」

　2021年インターハイ準決勝で、静岡学園はMF松木玖生（現・FC東京）擁する青森山田に0-4と完敗。その悔しさを噛みしめながら冬の選手権へ向かったチームは、青森山田相手にリベンジを果たす機会を掴む前に涙をのんだ。それでもチーム一丸で「やり切った」思いが自ずと勝り、夏からの成長を実感した事実に胸を張った。

「もっとできた、もう少し練習しておけば良かったなって悔やむことは絶対にしたくないと常に思っていましたし、高校生なら練習すればするほど上手くなる。インターハイから選手権までの4か月間、すべてを懸けて挑んだことで、チーム全員が変わったと思います」

　高校3年の冬、当時磐田入りが内定していた古川は、選手権で観る者の度肝を抜くプレーで沸かせた。ファンを唸らせるドリブラーに脚光が当てられた大舞台。そこに至るきっかけを作った“屈辱の夏”は、古川にとって決して忘れずにはいられない1つのストーリーとして胸に刻まれている。

[プロフィール]
古川陽介（ふるかわ・ようすけ）／2003年7月16日生まれ、滋賀県出身。AZUL滋賀FC－京都サンガF.C.U-15－静岡学園高－磐田。2021年度の高校サッカー選手権で静岡学園のベスト8入りに貢献。切れ味鋭いドリブル突破を武器に、その名を全国へ轟かせた。高校卒業後は磐田へ加入し、22年3月2日のルヴァンカップ湘南ベルマーレ戦でプロデビュー。今後の飛躍が期待されるパリ五輪世代の1人。