女子W杯初戦で2得点、日本を勝利に導いた宮澤ひなた 模索の末に見つけた「新たな道とスピード感」【コラム】
女子W杯初戦ザンビア戦、宮澤ひなたが先制点を含む2ゴールの大活躍
田中美南のゴールで沸きに沸いたピッチだったがVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)により取り消され、水を差される展開のなか、宮澤ひなたの一撃が嫌なムードを打ち払った。女子ワールドカップ(W杯)初戦ザンビア戦、前半43分と時間はかかったが、後半への布石となる歓喜の先制点だった。そしてその後、後半17分にも宮澤自身2ゴール目をマークするなど、5-0の勝利に貢献する大活躍を見せた。
ワールドカップの予選を兼ねていた女子アジアカップでは、トップスピードで左サイドを駆け上がり、アーリークロスで得点をお膳立て。宮澤が持つスピードが得点を生み出していた。しかし、その後池田太監督はシステムを3バックへ変更。ウイングバックにスピードのある選手が起用され、3トップの一角に入る宮澤の持つスピードを生かしたプレーは出しにくくなった。
「今までだったら前を向いてスピードを使って自分で仕掛けるっていうのが多かったんですけど、3バックになって抜ける角度も違うし、仕掛けられる角度も変わった」(宮澤)ことで、どう自分を生かすのか、どう周りを生かすのか、模索しているうちに宮澤の出場時間は限られていった。
そんな彼女に変化が見えたのは本大会直前に行われたパナマとの壮行試合だ。相手が格下であることを差し引いても、宮澤のプレーにこれまでとは一味違う“スピード感”を見ることができた。長い距離をスピードでぶち抜くことはないが、彼女が見つけた道だ。
「ちょっと戻ってきましたよね?(笑) パナマ戦で裏に抜けた時の中にえぐるスピード、ボランチから間に抜けてターンした時の一歩目、“スピード”を使うところが変わってきてるんです」
今、彼女と同サイドを組むことが多い遠藤純。彼女の武器もまたスピードだ。2人のスピードをどう融合させるのか――そこについてもすでに宮澤のなかでは解決しているようだ。
「もともと合わせるのは苦手ではないんです。純だったら左足でスピードもあるので、自分が中間で受けた時にここに出したら彼女のスピードを生かせるかなとか、(杉田)ヒナさんだったら自分が裏に走って中でもう一回もらったり、そういうバリエーションは増やせていると思います」(宮澤)
新たなスピード感に必要なものは「立ち位置。相手をどう食いつかせるか」
新たな彼女のスピード感に必要なもの、それは「立ち位置です。相手をどう食いつかせるかでどっちに走れるか、中にスピード感を持って入れるシーンもあるので、そこは上手く相手を見つつ楽しみたいです」(宮澤)。
初戦前の宮澤からはどこか余裕すら感じさせる言葉が発せられていた。「だからこそ裏へのボールにどんどんチャレンジしていきたい」との言葉どおり、ザンビア戦の1点目は藤野あおばからのクロスを信じてDF裏へ走り込んだ。2点目も田中美南がラインぎりぎりのところからの折り返しを見越して動いていた。
すべて“立ち位置”を生かしたものだ。DFの死角に入り込み、最後の寄せにも入れない位置でのインパクトだった。この感覚、強度が上がっていくなか、今後の対戦でどこまで通用するか。試合ごとに宮澤流の“スピード感”が出てくれば、日本の攻撃に彩りが加わることは間違いない。
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。