旗手怜央はセルティックで一際目を惹く存在 高い技術でチームを生かす“独創性”とは?【コラム】
【カメラマンの目】一際目に留まった旗手怜央、ハットトリックの前田とは異なる魅力に迫る
試合開始前から日産スタジアムには強い風が吹いていた。その風は爽快とまでは言えなかったが、ピッチでプレーする選手たちにとっては、少しだが夏場の試合の消耗を和らげる役割を果たしていたのではないだろうか。
日本人選手5人が所属するスコットランド1部セルティックとJ1の横浜F・マリノスが対戦した国際親善試合は、合計10ゴールが決まる大味の展開となった。シーズン真っただなかの横浜FMと、これからチーム構築をしていくセルティックとではコンディションの違いがあり、この試合での勝敗に大きな意味はない。
お互いに相手を激しくマークする場面も少なく、当然だが公式戦に向けての調整といった意味合いの強い試合だった。それでも横浜FMは相手の守備陣の寄せが甘ければ、確実にゴールを奪取する選手個々の技術とチーム戦術を兼ね備えていることを6ゴールという大量得点で示した。
対してスコットランド覇者のセルティックである。ブレンダン・ロジャース新監督が目指すスタイルは少ない手数でサイドを突破し、ゴール前にラストパスを供給。そこに詰めた選手がゴールを決めるというサッカーが、新シーズンに向けての最大の武器になるようだ。
そのカウンターサッカーが嵌り、最前線の前田大然はハットトリックを達成。サイドからのラストパスに点でコンタクトしゴールネットを揺らす冷静なシュート技術が光った。
ただ、ゴール裏から望遠レンズを装着したカメラのファインダーに写るセルティックの選手たちのなかで、もっとも目に留まったのは旗手怜央だった。
旗手の活躍は前田のように前線からの守備をこなす豊富な運動量と、相手守備陣の動きを瞬時に察知し、その背後を突く得意のプレーをさらにチームスタイルに順応させて飛び切りの存在感を発揮しているのとは少し異なる。
もちろん旗手もチーム戦術のなかで戦っているのだが、ほかの選手とはひと味違った独特のプレーでチームを活性化させる役割を担っている。
旗手に漂う“南米の香り”…セルティックで替えの利かない選手へ
スピードサッカー主体にあって、旗手のプレーには“南米の香り”がする。相手にマークされている状況で味方からボールを受けた際なども、素早いターンで敵を瞬時に振り切り、狙い澄ましたスルーパスを前線へとつなぐ。ボールタッチの技術も自在でドリブルの動きも力強く多彩だ。そうした旗手から生まれるプレーは、多くのセルティックの選手とは違ったリズムを作り出し、チームにアクセントを加えていた。
選手たちは監督の目指すスタイルを理解し、その実現に向けてプレーする。しかし、攻撃で言えば一定のリズムをひたすら繰り返しているだけでは単調になり、相手の守備の対応を容易にさせてしまう。そこに旗手は高い技術で変化を付け攻撃の幅を広げていた。
チームの規律を守りながらも、こうした違いを作り出すことは簡単なことではない。横浜FM戦に出場したセルティックの中盤の選手たちを見渡しても、替えの利かない選手であることを新指揮官は確認したのではないだろうか。
セルティックは22日にジャパンツアーの第2戦としてガンバ大阪と対戦する。この日スタジアムに吹いていた風のように、対G大阪戦でもセルティックの日本人選手たちが疾風のようにピッチを駆け抜け好プレーを見せてくれることを期待したい。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。