「歴代日本人FWスピードスター」10選 現役日本代表からレジェンド、パリ五輪世代まで…異次元の速さの持ち主は?
【FW編】現役、レジェンドの年代を問わない歴代スピードスターに注目
世界中には“スピードスター”と呼ばれる選手が多く存在する。「FOOTBALL ZONE」では日本サッカー、森保ジャパン第2次政権でもキーワードになる「スピード」に注目した特集を展開。今回は日本人FW編をお届けする。(文=河治良幸/全3回の1回目)
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■前田大然(25=セルティック/スコットランド)
欧州に名を轟かせる日本を代表するスピードスターであり、さらなる飛躍も期待される。今では風貌と穏やかな振る舞いから「大然和尚」などとも呼ばれる。大学進学の予定だったが、松本山雅がほぼ一本釣りするような形で高卒ルーキーとなった。本格的に頭角を現したのは期限付き移籍した水戸で、13得点を記録した。
松本に復帰後は反町康治監督(現JFA技術委員長)の指導でハイプレスを磨き、攻守両面でスピードを生かすベースを築き上げる。2019年夏、ポルトガル1部マリティモに移籍し、まずまずの1シーズン目を送るが、新型コロナウイルスの影響で帰国。横浜F・マリノスで得点力が開花し、2年目には23得点を記録。“恩師”アンジェ・ポステコグルー監督が率いていたセルティックに移籍した。Jリーグ時代はスプリント回数で上位ランキングのほとんどを前田大然が占めるなど、異次元のスピードと持久力を誇る。
■横山歩夢(20=サガン鳥栖)
名前は歩夢だが、走るスピードはJリーグのトップレベルだ。「もろこし」の愛称で知られたMF横山博敏を親に持つが、中学時代は世田谷区の街クラブFCトッカーノの中心選手ですらなく、高校年代でもほぼ無名だった。しかし、50m走を5秒台で走るという俊足と非凡なセンスを前田大然の古巣である松本山雅のスカウトに見出された。加入1年目はなかなか才能を発揮できなかったが、2年目に名波浩監督(現日本代表コーチ)の下でストライカーとして覚醒的な活躍を見せて、J3で11得点を記録した。その才能が認められてJ1の鳥栖に加入。U-20日本代表のエースとして飛躍したが、大舞台を直前に控えた今年4月に第5中足骨を骨折。世界の夢は絶たれたが、パリ五輪滑り込みに向けて、大復活が期待される。
■浅野拓磨(28=ボーフム/ドイツ)
“ジャガー”の愛称で知られる異色の高速ストライカー。これまで2桁得点を記録したのは広島時代も含めてセルビア1部パルチザン時代だけだが、大事な試合になると必ずゴールを決めて、チームを劇的な勝利に導く「タリズマン」でもある。裏抜けを最も得意とするが、地上戦であればポストプレーも精力的で、幅広くチャンスの起点になれる。守備のスプリントはドイツ1部でもトップレベルで、前田大然にも匹敵するレベルだ。
■永井謙佑(34=名古屋グランパス)
スピード自慢の選手は多いが、初速にかけては世界的にも永井謙佑に匹敵する選手はそうはいないはず。「犬より速い岡野以上」との声も。2010年には福岡大からフルメンバーのA代表に選出されて大きな話題となり、ロンドン五輪では“戦術永井”とも呼ばれた堅守からの飛び出しで、金メダル候補だったスペイン撃破の立役者となった。またFC東京、名古屋で永井を指導する長谷川健太監督からは「灰になるまで走れ」と言われて、本当にフルタイムでハイプレスをかけ続けるなど、驚異的な心肺機能は34歳になっても健在である。
■岡野雅行(50)
日本のスピードスターと言えば真っ先に挙げない訳には行かない。長髪をなびかせて爆走するスタイルで、日本代表では初めて世界への扉を開いた。もともとはMFだったが、雑用係から頭角を現したという日本大学でFWに目覚める。ちなみに現在では全国区のサッカー強豪校として知られる立正大学淞南(旧・松江日本大学高)のサッカー部は現在SC鳥取のGMを務める岡野が、学生時代に一から立ち上げたチームが母体となっている。
不屈のスピードスターからパリ五輪世代の若手まで
■小島宏美(45)
ガンバ大阪でまさしく「スピードスター」の異名を取ったFWで、動き出しの鋭さは抜群だった。プロ3年目にして17得点を記録。宮本恒靖、稲本潤一と並ぶ「ガンバの三銃士」と呼ばれるなど一世を風靡した。ただ、輝きは長くは続かず、G大阪を離れてから守備的なポジションも経験するなど、流転のキャリアとなったが、現役選手としての晩年は東海1部だったFC岐阜をJFL、J2と引き上げることに貢献しており、北村隆二、片桐淳至、森山泰行と並ぶ草創期のレジェンドである。
■小田裕太郎(21=ハーツ/スコットランド)
兵庫県の淡路島で生まれ育ったパリ五輪世代きってのスピードスター。高校時代はとにかく高速ドリブルで突破を狙うタイプだったが、徐々に周りを生かしながら生かされる術を学んだ。神戸から初の欧州挑戦となったスコットランドのハーツで、当初はなかなか試合に絡めなかったが、ラスト6試合にスタメン起用されて最終節にゴール。U-22日本代表の欧州遠征にも招集され、来季の本格ブレイクが期待される。
■大柴健二(49)
1996年に国士舘大学から浦和レッズに加入。ロングヘアがトレードマークで、すでに日本代表FWだった岡野雅行との2トップは「野人コンビ」と呼ばれた。縦のスピードはもちろん、豊富な運動量にも定評があり、守備でも貢献。カップ戦での勝負強さも目立った。3年目に14得点。日本代表の候補に入ったが、試合でキャップは踏めなかった。浦和で5シーズン稼働した後はセレッソ大阪などでも活躍。記録より記憶に残る選手と言える。
■宮市 亮(30=横浜F・マリノス)
サッカーゲームのように、見れば誰にでも分かる加速力で、相手DFを置き去りにする。ボールを持っても速く、直線的だが相手は分かっていても止められない。そもそも小中学生で所属していた名古屋の地元クラブが「シルフィードFC」で、風の精霊を意味する。これまで大きな怪我を繰り返しながら、復活を果たしており、昨年7月に久々に復帰した代表戦で大怪我を負ったが、今年の第17節・柏戦で後半52分に劇的な逆転ゴール。試合後のインタビューではマリノスのゴール裏はもちろん、対戦相手の柏サポーターからも温かい拍手が送られた。
■松橋章太(40)
国見高で大久保嘉人と名コンビを組み、選手権など高校3冠を獲得。中学時代は陸上部で活躍し、100mと200mは全国トップランカーだった。とにかく裏に抜け出せば誰も止められないほどの速さだったが、ずば抜けたスピードゆえに駆け引きのセンスがなかなか磨かれなかった側面はあるかもしれない。鳴り物入りで加入した大分トリニータでは期待と裏腹に、なかなかゴールが決まらないことでスランプに。それでも6年目の2006シーズンにはリーグ戦10得点を記録した。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。