欧州クラブで日本人が多いのはメリット?デメリット? 研鑽を積むパリ五輪注目FWの本音「僕からしたら…」【現地発】

オーストリア2部ザンクト・ペルテンでプレーする二田理央(写真は鳥栖時代のもの)【写真:Getty Images】
オーストリア2部ザンクト・ペルテンでプレーする二田理央(写真は鳥栖時代のもの)【写真:Getty Images】

【インタビュー】オーストリア2部ザンクト・ペルテン所属の二田理央が語る現地の環境

 2022-23シーズンに期限付き移籍先のオーストリア2部ザンクト・ペルテンでリーグ戦14試合に出場し、2ゴールの結果を残した20歳FW二田理央。パリ五輪世代のエース候補としても期待が懸かるアタッカーは、日本人が多いクラブの環境について「もう本当メリットしかない」と語る一方、チームメイトとのコミュニケーションについて「普段はなるべくドイツ語で話しかけている」「分からないなりにドイツ語で積極的に話すことが大事」と力説している。(取材・文=中野吉之伴/全3回の2回目)

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 欧州サッカー界でプレーする日本人の数は一昔前と比べて圧倒的に多くなった。なかにはベルギー1部シント=トロイデンのように日本人オーナーがいるクラブで選手だけではなくスタッフにも日本人がいたり、スコットランド1部セルティックのように日本人選手が数多く所属しているチームも増えてきている。ドイツで言えば、遠藤航や伊藤洋輝、原口元気が所属するシュツットガルト(1部)、田中碧やアペルカンプ真大、内野貴史がプレーするデュッセルドルフ(2部)といったクラブもある。スイス1部グラスホッパーでも昨季は川辺駿、瀬戸歩夢、原輝騎の3選手が在籍していた。

 日本人がいるクラブへ移籍したら順応はやはりしやすい。その反面、日本人ばかりで固まって日本語ばかり話をしていると、地元の人たちやチームメイト、スタッフからはやはりあまりいいふうには思われない。そしてそれが問題に発展した例も実際にはある。これはサッカーに限った話ではなく、海外生活あるあるだと思われる。

 では海外クラブで日本人が多いのはメリットなのか、それともデメリットのほうが多いのだろうか。

 オーストリア2部のザンクト・ペルテンでプレーする20歳FW二田理央にそのあたりについて尋ねてみた。ザンクト・ペルテンのテクニカルディレクターはモラス雅輝で、トレーナーに原辺允輝と日本人が周りにいる。

「僕からしたらもう本当メリットしかなくて、デメリットを感じたことはないです。でもそれは自分の中でメリハリをしっかり付けられているからだと思います。モラスさんから、日本人同士でばかりつるんでいると印象悪くなるよ、という話をずっと聞かされてきたことも良かったのかなって。だからクラブ内に日本人がいたとしても、普段はなるべくドイツ語でチームメイトに話しかけて、ドイツ語で選手たちと関わろうとしています。それは意識しながら毎日やってますね。オフの時はちょっと息抜きも必要なので、よしくん(原辺)と一緒にどこかへでかけたり、治療してもらったりしてもらっています」

 そうしたメリハリを上手く作るためには、やはり普段からチームメイトやスタッフへのコミュニケーションが欠かせないだろうし、そのためにはやはり言葉は必須になる。

ピッチ内では本気の言い合い「僕も結構言われますよ(笑)。でも言われるのはもう前提」

 例えば二田はどのようにドイツ語と向き合っているのだろうか。

「勉強はあんまり得意なほうではないんですけど、やっぱり分からないなりにドイツ語で積極的に話すことが大事かなと思っていて。周りのみんなも『リオのドイツ語は完璧じゃない』ことを分かっていて、本当に優しく関わってくれるんです。だから僕のドイツ語だって全然完璧じゃなくても伝わるし、分かってあげようみたいな雰囲気でみんなが聞いてくれるんです」

 間違いを恐れないで、ブロークンな言葉でもいいからコミュニケーションを取りたいという思いを乗せて言葉を送る。そうした姿勢は届く。なかには嫌な対応をする人だっているだろう。人の努力を鼻で笑うならず者はどんな世界にも残念ながらいる。それでも一生懸命話をしようとする人に対して、しっかり理解しようとする人だってこの世の中にはたくさんいる。

 ピッチ外だけではなく、ピッチ内でのコミュニケーションもサッカーでは極めて重要だ。サッカーのピッチ内は意志のぶつかり合い。ケンカになることは日常茶飯事。お互い本気でやっているのだから、気持ちが入って言い合うことはある意味健全な関係性だ。そして言い合えたほうがお互いの理解は進みやすい。

「そうですね、僕も結構言われますよ(笑)。でも言われるのはもう前提ですね。そこで落ち込んだりとかしても、もうきりがないと思うので。でも分かってくれないわけではないんですよ。この前試合であったのが、僕がクロスに対して上手くニアポスト際に飛び込んだんですけど、ボールを持っていた選手は別のところにパスを出したかったみたいで、『こっちのスペースに入って来いよ!』ってめちゃくちゃ怒ってきたんですよね。でも後日にビデオ分析してみたら、僕がいるポジションのほうが良かったというのが分かったようで、その選手が『自分が悪かった。ごめん』って連絡してくれたんです。みんなが真剣にやってるからこそ、そういうのはあるんですよ」

 そういえばLASKリンツの試合取材で訪れた時、中村敬斗がそんなやり取りを見せていたのを思い出した。相手陣内で味方が上手くボールを奪ってカウンターへ持ち込もうとした際、近くにいた中村がそのボールを奪ってドリブルを開始したのだ。自分がチャンスに持ち込めると思っていた味方選手は怒り心頭だったが、中村は中村で別のビジョンがあったのだという。試合後にその時のシーンを尋ねてみたが、本人は特段気にする様子もなく振り返っていたのが印象的だったし、その選手も数秒後には何もなかったかのように普通にプレーに戻っていた。

「ミスは誰にでもあるんです。サッカーですし、僕らは人間ですから。だからそのあとが一番大事ですね」(二田)

 そこにある環境をメリットにするのか、デメリットにするのかは結局その人の心がけと受け止め方次第。二田はそんな欧州における立ち振る舞いを着実に身に付けている。

[プロフィール]
二田理央(にった・りお)/2003年4月10日生まれ、大分県出身。佐伯リベロFC―FC佐伯S-playMINAMI―鳥栖U-18―鳥栖―FCヴァッカー・インスブルックU-23(オーストリア)―ザンクト・ペルテン(オーストリア)。2021年に鳥栖のトップチームで2種登録され、同年6月の横浜FM戦でJリーグデビュー。同年7月、18歳でオーストリアのFCヴァッカー・インスブルックU-23(3部)へ期限付き移籍し、19試合21ゴールの活躍で得点王に輝いた。22年8月から同国2部ザンクト・ペルテンへ期限付き移籍し、リーグ戦14試合で2ゴールをマーク。23年7月に鳥栖からザンクト・ペルテンへの完全移籍が決まった。パリ五輪世代のエース候補としてさらなる成長に期待が集まる。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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