20年の現役生活に幕 佐藤由紀彦が残したモノ
妻に「あなたの生き方はクレバーじゃない」と言われ続けた男
J2長崎のMF佐藤由紀彦は、今季限りでプロサッカー選手から退く。20年を数えたプロ生活は決して平坦ではなかった。
男は初めて立ち止まった。自らが走り続けた起伏に富んだ道を振り返ったとき、そこに綿密なサッカー人生の証しを見つけるはずだ。
「あなたの生き方は、クレバーじゃないわ」
佐藤は、長年連れ添った妻から、あきれるほどそう言われ続けた。そのたびに頷き、苦笑いを浮かべた。
無自覚ではなかった。だが、「オレ子供なんだよね」と言いつつ、時に衝突も厭わず、自分の信念に従ってきた。ただし、その頑なサッカー人生は、誰かに響き、そして深いところに何かを残してきた。
その一人は、懐かしむように言った。
「ユキさんは、オレの目指すべき生き様を見せてくれた人だと思う」
石川直宏は、『佐藤由紀彦引退』の活字を見て思うところがあったという。2人は、佐藤がFC東京に在籍した当時、右サイドのポジションを争った間柄だった。
東京は2002年、『プリンス』と呼ばれた佐藤のけがもあり、ナオを期限付き移籍で獲得した。2人が同じチームでプレーしたのは1年にも満たない。
「オレが一方的にライバル視してただけなんですけどね」
佐藤は、横浜Fマリノスから期限付きで移籍してきたばかりの無鉄砲な右ウイングとの思い出をそう振り返った。金髪に髪を染め上げた血気盛んな若者の第一印象は「マリノスっぽいな」だった。だが、佐藤には期する思いがあった。
「自分としては毎年、自分のポジションを確固たるものにしたいという気持ちでやってきた。だから、ふざけんなって気持ちのほうが強かったかな。けがから戻れば、ナオは左サイドにいくのかなと思っていましたから」
佐藤は離脱中、スタンドからナオのプレーを見守っていた。「ああ、もったいない。こうすればもっと良くなるのに」。そう思っても、言葉を掛けたことはない。