首位を走る横浜FMが見せた柔軟性 基本はブレずも…カメラマンが見たチームの幅を生んだ変化とは?
【カメラマンの目】数試合で戦い方に変化、苦戦した柏戦ではつなぎの部分で苦戦
J1リーグ第19節、湘南ベルマーレをホームに迎えた横浜F・マリノスは、リーグで首位を走る勢いそのままに終始、試合のペースを握り、多彩な攻撃を展開して4-1の快勝を飾った。
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リーグ上位に位置する横浜FMを取材する機会は当然だが多く前回、撮影したのは湘南戦と同じく日産スタジアムで行われた第17節の対柏レイソル戦。今回の湘南戦での横浜FMには柏戦からルヴァンカップを含めてわずか3試合後にもかかわらず、戦い方に変化が見られ、さらに強さに磨きがかかった印象を受けた。
振り返ると柏戦は苦戦の末の勝利だった。この試合、横浜FMは90分を戦って2-3と柏にリードを許す敗戦濃厚の苦しい状況のなか、アディショナルタイムに2点を奪うスリリングな逆転劇でなんとか勝利をモノにしている。
ただ、サポーターを魅了する劇的な勝利となったものの、内容的には改善すべき点を浮き彫りにした試合でもあった。その改善点は得意のサイド攻撃へと展開する前のGKを含めた後方でのボール回しでトラップ、パスの基本技術でミスが見られ、さらに柏攻撃陣の前線からのプレスもありリズムを作れず、悪い流れの時間帯を作ってしまったことだ。それはゴール裏からカメラのファインダーを通して見ていても、柏の選手にいつボールが奪われてもおかしくない不安定なパス回しだった。
横浜FMは攻撃の担い手である両ウイングにボールを託すまでの過程を、この後方でのパス回しで相手守備網の体系を崩してから渡すことが多い。
ときに手数をかけないロングキックを選択することもあり、実際に柏戦でも2点目はDFエドゥアルドの自陣からの一気のパスが起点となっていた。
それでも90分間を通した攻撃への着手方法は、DF陣のパス交換によって相手守備網を揺さ振り、そこからウイングにボールを渡すスタイルがベースとなっている。後方から丁寧にパスをつないだ方が前線へのロングキックより、確実にウイングにボールが渡るという意図からの判断だが、柏戦はこのGKを中心とした後方でのつなぎがスムーズにいかず、それがチームを停滞させ苦戦の原因にもなったと考えられる。
湘南戦で見えたチームの変化、スタイルに幅が広がった印象
湘南戦では戦い方を変化させ、それによってスピードに乗った鋭い攻撃を横浜FMは見せることになる。
なにより後方でのボール回しの停滞がほとんどなかった。その理由は横パスで揺さぶるプレーを多用しなくても、サイド攻撃がスムーズに展開できたからだ。結果的に湘南戦は、敵の守備体系を揺さぶってスペースを作り、進出する前線をクリアにした状態でサイドを突破しなくても、エウベルとヤン・マテウスが対面した相手守備選手をパワーとテクニックの個人技術を駆使して攻略できたため、ゴールまでの連続プレーに手数をかけずに素早く攻撃を仕掛けることができた。
さらに両サイドのブラジル人FWだけでなく、西村拓真や小池裕太も果敢にドリブル突破を仕掛け、こうしたチーム全体の縦への意識が相手にプレッシャーを与え、試合を支配すること成功する。柏戦と比較して展開されたサッカーは手数が少なく、攻撃に転じれば素早いカウンター攻撃を繰り出す、スピードを重視したスタイルが実に上手く機能したのだった。
チームが目指すスタイルは明確であった方が良いに決まっている。まして横浜FMが展開するスタイルは、指揮官ケヴィン・マスカットの手腕によって選手たちに浸透し完成度も非常に高い。
しかし、状況によってはスタイルに固執するあまり、チーム全体に停滞を招くこともあるのがサッカーだ。柏戦がその例でロングパスを使えば交わせるところでも、相手のプレスに負けまいと、その勝負に付き合うことによって後方でのパス回しが不安定になり、失点へとつながりそうな危ない場面を作ってしまったことは否定できない。
ロングパスからのウイングにボールがつながる確率と、後方での敵の追い込みに合い逆襲をくらうことを天秤にかけた場合、柏戦では真っ向勝負に付き合わなかった方がチームに安定感をもたらしたように見えた。言うまでもないが対戦相手のスタイルやレベルは多種多用であるのだから、どんなに高度な戦術にも絶対はないのだ。
それならば今回の湘南戦のように、局面の勝負において個人技で突破できる可能性が高い状況であったら、それに賭けた方がチームの流れはスムーズになる。実際、後方からボールをつないで揺さぶる組織での崩しにこだわらず、ロングパスも多用し、ボールの受け手の個人能力を最大の武器として戦った柔軟性こそが湘南戦での最大の勝因である。
対戦する相手のレベルによって必ずしも通用するとは限らないだろうが、今回のようにチーム戦術のなかにあっても、より個人技を前面に出し、それに加え攻守への切り替えが早いシンプルなカウンター攻撃を繰り出す戦い方を見せたことは、横浜FMのスタイルに幅が広がった印象を受けた。
リーグ連覇を目指す横浜FMにとってこの変化によって得た勝利は、さらなる進化への一歩となったと言えるだろう。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。