“プレミア級”クラブが3分の1以上 三好康児が挑戦…世界屈指の“動員力”持つ英2部の実力とは?【現地発コラム】
2023-24シーズンの英2部を戦う全クラブのうち4分の3は“プレミア経験済”
1年後輩の三笘薫(現ブライトン)も一目置いたという日本代表MF三好康児が現地時間6月22日、英2部バーミンガム・シティに完全移籍した。今夏スペイン1部レアル・マドリードに移籍を果たした20歳のイングランド代表MFジュード・ベリンガムを生み出したあのクラブだ。また、ドイツ2部デュッセルドルフの日本代表MF田中碧にもレスター・シティ移籍の噂が報じられており、このところ日本でにわかにチャンピオンシップ(英2部)への興味が高まっていると聞く。
チャンピオンシップに関しては、2010年8月31日に元日本代表MF阿部勇樹氏が当時2部に所属していたレスターに移籍したこともあり、その後1年5か月にわたってこのリーグを追いかけた経験がある。また、筆者のプレミアリーグ取材歴は今季で23シーズン目。そうした蓄積や現地で培った肌感覚をもって、英2部の実力について記してみたい。
まずは来季を戦う24チームについて。英2部ということで、1部との間に大きな実力差があると想像してしまうかもしれないが、実はそうではない。というのも、21世紀に入ってからプレミア昇格を果たしたことがないクラブはこのうち6つしかないのだ(ブリストル・シティ/ミルウォール/プリマス・アーガイル/プレストン・ノースエンド/ロザラム・ユナイテッド/シェフィールド・ウェンズデイ)。
残り18クラブにとっては21世紀にプレミアで戦った経験があり、しかもレスターとブラックバーン・ローヴァーズに限っては1部優勝という華々しい実績まである。頂点を極めたクラブでも1度歯車が狂えばチャンピオンシップに落ちる――。そのくらいイングランドでの戦いは熾烈で残酷なものなのだ。
過去22シーズンにわたってプレミア昇格のドラマも見届けてきたが、3枠を争う戦いはいつだって苛烈だ。昨季の昇格争いはバーンリーとシェフィールド・ユナイテッドがそれぞれ勝ち点「101」と「91」を稼ぐなど安定した強さを見せていたとはいえ、最後の1枠に滑り込んだルートン・タウンから10位のスウォンジー・シティまでは完全に実力が伯仲していた。
筆者の肌感覚として、どのシーズンでもプレミアに昇格できる実力を持ったクラブはチャンピオンシップに最低「8」はあるという印象を持っている。ということは、英2部は「潜在的なプレミアリーグ級クラブが常に8から10あるリーグ」と定義できなくもない。
2部リーグと言っても侮れない観客の熱量と経済力
またチャンピオンシップとはいえ、クラブを支える“熱量”と経済力を侮ってはいけない。
少々古い記録で恐縮だが、2018年1月に英公共放送「BBC」が掲載した記事によると、2016-17年シーズンにおけるチャンピオンシップの観客動員数は1108万6368人を数え、欧州全体で3位になっている。1位は1360万人強を集めたイングランド1部プレミアリーグ、2位は1270万人を集客したドイツ1部ブンデスリーガだった。
ちなみに1試合の最高観客動員数は2017年4月17日にニューカッスルがホームでリーズを迎え撃った試合で、約5万2000人にも上った。1試合平均2万125人を集めるにはそれ相応のキャパシティーがあるスタジアムはもちろん、試合内容のクオリティーとエンターテイメント性の高さも不可欠だ。
では来季チャンピオンシップを戦うクラブの本拠地が持つキャパシティーはどうか、ここで少し触れておこう。最大はサンダーランドの「スタジアム・オブ・ライト」の4万9000人。そこにシェフィールドの「ヒルズボロ・スタジアム」の3万9732人、リーズの「エランド・ロード」の3万7608人と続く。さらに、ミドルズブラ、カーディフ・シティ、コベントリー、サウサンプトン、レスター、ブラックバーン、ストークも3万人規模のスタジアムを有している。
3万人をわずかに下回る2万9409人収容のバーミンガム本拠地「セント・アンドルース」を筆頭に、2万人以上収容のスタジアムは11。1万人台の小規模スタジアムはわずかに3か所しかない。
一方でテレビ放映権料に関する収入となると、1部と2部の間でたしかな“格差”が存在する。チャンピオンシップ全24クラブの合計額は1シーズン8500万ポンド(約155億8500万円)程度であるのに対し、プレミアではトップのマンチェスター・シティだけで2億1000万ポンド(約385億円)。昨シーズン最下位に終わったサウサンプトンでさえ、1億5900万ポンド(約291億5000万円)を懐に収めている。
それでも1試合平均2万人以上の入場料収入があれば、地元イングランドの有望な若手を始め中堅国の代表選手を獲得することは可能で、それなりのチーム編成ができる。
しかも降格したばかりの3クラブは、新シーズンにプレミアリーグからテレビ放映権料を受け取る形になっているので、予算的には高給で一流選手を1シーズンつなぎ止めることだって可能だ。つまり経済的にもプレミア級の3クラブが英2部には常時存在しており、“降格組”がリーグのレベルを引っ張っていることになる。
野心のある青年監督に率いられたクオリティーの高いチームも出現
チャンピオンシップに魅力を感じるのは選手だけではない。2014年10月、スコットランド1部セルティックでリーグ3連覇を達成したニール・レノン監督が当時チャンピオンシップ所属だったボルトン・ワンダラーズの指揮官に就任した。
当時は、ライバルのレンジャーズが破産申告をして4部降格の制裁を受けた時期。スコティッシュ・プレミアシップで完全に1強となったセルティックで監督を続けるより、プレミアリーグに直結するレベルを持つ競争力のあるチャンピオンシップでボルトンを指揮する方が監督としての挑戦意欲を掻き立てられたのは想像に難くない。そして、何よりクラブとしての予算も潤沢だった。
もう13年前になり本人も昨年引退したが、レスターに在籍していた当時の阿部勇樹氏はチャンピオンシップのレベルの高さに驚いていた。また、「素晴らしいサッカーをする」とスウォンジーのチーム力に舌を巻いていたのも強く印象に残っている。
この時のスウォンジーは後にリバプール、セルティック、そしてレスターを率いた若きブレンダン・ロジャーズが指揮を執り、テンポの速いショートパスを武器にプレミアリーグに昇格した。これはあくまで一例ではあるものの、チャンピオンシップにはこのように才能ある監督に率いられ戦術的にも高度な試合を披露するチームが度々出現する。
それゆえ、“準プレミア”とも呼べるクオリティーが担保されたリーグで、強いフィジカルが要求されるなか年間46試合をタフに戦い続けることができれば1人の選手として大きく成長できるのは言うまでもないだろう。そして、このリーグでしっかり存在感を示すと同時にチームを昇格に導くことができれば、プレミアでのプレーも確約されるはずだ。
英2部から新たに出発する三好には、バーミンガムで一皮むけてイングランド第2の大都市にある名門クラブをプレミアリーグへと押し上げてほしい。そんな活躍ができれば、世界最高峰の舞台でも輝きを放つ選手に成長するだけでなく、本人が夢見る日本代表への復帰も叶えられるはずだ。
(森 昌利 / Masatoshi Mori)
森 昌利
もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。