監督交代のFC東京、新体制で会心の船出 “劇薬”奏功も将来は未知数…まだ見えない確証

FC東京が新体制で白星スタート【写真:Getty Images】
FC東京が新体制で白星スタート【写真:Getty Images】

【識者コラム】クラモフスキー新監督を迎えたFC東京、名古屋に勝利して好スタート

 ピーター・クラモフスキー新監督を迎えたFC東京が好スタートを切った。4連勝で2位につける名古屋グランパスから早々と先制点を奪うと、後半は敵陣に押し込みチャンスを連ねる流れで追加点を挙げ突き放したのだから申し分のない内容だった。

 かつてFC東京を率いた長谷川健太監督が指揮する名古屋にはFC東京出身の選手も目立ち、米本拓司や永井謙佑などは躊躇なく厳しいチャージを繰り返し、ほかにも2選手が前半で警告を受けるほど闘志を剥き出しにした。

 しかしホームチームのFC東京は「いつもなら途中で集中が切れるのに、今日は最後まで出た選手全員が良く走っていた」と敵将も称賛を惜しまないほどのパフォーマンスを披露。新体制にとっては会心の船出となった。

 昨年スペイン人のアルベル監督を迎えたFC東京は、長谷川監督時代の堅守速攻からポゼッション型へと舵を切ろうとした。実際アルベル監督も「今までとはまったく違うサッカーに取り組んでいるのだから時間がかかる」と繰り返し、確かにボール支配率は高まったものの結果にはつながらず退陣となった。

 一方でクラモフスキー体制に移行したチームについては「もう少しGKからつないでくると思ったが、結構長いボールも蹴り込んできたし、ピッチサイドにいても選手たちの気迫が伝わってきた」と、今では名古屋側を束ねる元監督が振り返っている。そういう意味では、監督交代という劇薬が功を奏した典型的な一戦で、新体制下での競争を経てピッチに立つ権利を得た選手たちは、通常を超える集中力を発揮して戦い抜いたと言えそうだ。

 だがこのままFC東京が、新監督が口にする「目指すところへ」近づいていけるのかは未知数だ。そもそもFC東京は、長谷川体制2年目の2019年には最終節まで横浜F・マリノスと優勝争いを繰り広げて2位となっており、これが今でもクラブ史上最高の成績として残っている。もしこのシーズンの最後まで久保建英が留まっていれば初優勝を飾れた可能性も高かった。

 長谷川元監督は、自らの志すスタイルを表現できる選手たちを補強し、ピッチ上では17歳の久保が絶妙な緩急の判断で操った。つまり現有戦力の多くは長谷川時代のスタイルに適したメンバーで、アルベル前監督も暗にそれを認め「まだ新旧交代も完了していない」と、理想型を実現できるラインナップの模索に苦慮する様子が窺えた。

クラモフスキー新監督が掲げる指針、徹底できれば勝利に近づくのは確かだが…

 FC東京サイドは、アルベルからクラモフスキーへの流れに「ブレはない」と強調しているという。しかし逆に2人の指揮官に未来を託すという決断には、必然性が希薄だ。

 まずアルベル監督には、ポゼッションでは最先端を行くFCバルセロナでアカデミー・ダイレクターやスカウトの実績はあったが、トップチームの監督はアルビレックス新潟が初めてで、J2時代の2年間の成績は11位、6位だった。

 またクラモフスキー監督にしても、クラブの監督は清水エスパルスが初めてで、次のモンテディオ山形でもJ1への昇格には導けず、どちらも退陣という結末を迎えている。もちろん結果を出していなくても優秀な指導者は数多く存在するのだろうが、それなら実績を補って余りある確証が要る。

 クラモフスキー新監督が掲げる指針は「インテンシティー、攻守の切り替え、運動量、ハードワーク」などで特に目新しいものはない。もちろんそれらはどんなチームにも必要な共通項で、それらを本当に徹底できれば勝利に近づくのは確かだが、まだ新任の指揮官がそれらを具現化する比類ない能力を備えている確証は見えてきていない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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