「まっさらな気持ちで」 山形・渡邉監督、7戦負けなしも3位東京V戦へ説く“初心”
【インタビュー】シーズン途中就任のなかで原理原則を叩き込んで守備を改善
J2モンテディオ山形は今季クラブワースト記録となる8連敗を喫するなど序盤戦で苦戦を強いられ、一時は21位まで転落した。しかし、5月17日の第16節大分トリニータ戦(5-0)から天皇杯も挟み、第21節徳島ヴォルティス戦(1-1)まで公式戦7戦無敗(6勝1分)と復調している。次節(6月24日)はホームでリーグ3位の東京ヴェルディと激突。上位進出に向けて負けられない一戦を前に、チームを率いる渡邉晋監督に試合の展望を訊いた。(取材・文=石川 遼)
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――約1か月間、公式戦7戦負けなしと好調ですが、現在のチーム状況をどのように捉えていますか。
「結果がついてきてるところで、選手たちも少しずつ自信を持ってやれるようになってきたかなと感じています。ただ、試合の中身を見れば決して盤石ではなくて、やはりまだ課題はたくさんあります。今後はそういったところにはしっかりと目を向けて、向き合っていかなければいけないと思います」
――特に成長を感じられている部分はありますか。
「確実に自分たちが変わってきたということは示せていると思います。例えば、攻撃においては、相手の出方によって少しずつ配置を変えたりしているんですけれども、それらを選手が自分たちで考え、選びながらやれるようになった。それは大きな進歩だと思っています。守備に関しても、ゴール前の粘り強さは開幕当初に比べればはるかに上がっています。それは精神論ではなく、しっかりとしたポジショニングだったり、身体を投げ出すことに対する勇気だったり、そういうものが備わってきたからこそだと感じています」
――4月の就任からおよそ2か月半。渡邉監督が志向するサッカーが少しずつ浸透し始めたということでしょうか。
「特に攻撃に関して言えば、大まかなところは前任者のピーター(・クラモフスキー)さんがやっていたところから変えていません。ただ、そこに至る過程として、少し修正を加えていたのは間違いないので、少しずつやれることは増えてきたかなというのは感じています。一方で、守備に関しては、本当に手つかずの部分が多かった。守備全体のオーガナイズというよりは、まずは原理原則のところ。まず自分たちがボールを奪いたいけど、奪えなかったらゴールを守ろう、といった部分はトレーニングでも重点的にやっています」
「選手同士の会話が増えた」と証言
――シーズン途中での就任。ベガルタ仙台時代にも同じような監督交代を経験されていますが、チーム作りを進めるなかで練習やミーティングで選手たちにはどのようなことを伝え続けているのでしょうか。
「就任して最初のミーティングで言ったことは、今も変わらず選手に言い続けています。それは選手たちには『責任がある』ということ。その責任とは何かというと、毎日のトレーニングを100%でやり切ることです。その先にゲームがあって、そのゲームでも100%自分の力を出し切るという責任です。
一方で、試合には必ず勝敗がありますが、試合に敗れたことに対する責任はすべて私が引き受けるとも伝えています。もちろん選手も悔しい思いをしますが、勝敗に関して大きな責任を感じる必要はありません。ですが、日々の練習を100%でやれていないとすれば、それは選手としての自分の責任を果たしてないということ。そうなれば、当然ゲームには出られないということになります」
――ピッチ上のパフォーマンス以外で、選手たちの変化は感じますか?
「選手同士での会話が増えたように感じています。最終的にピッチ上で表現するのは選手たちです。私は日頃からボールを持ってる人が王様で、その時に自分で決断したことを、思い切ってプレーをしてほしいと言っています。ただ、その決断をするにあたって、選択肢が少なければ相手にも読まれてしまうから、選択肢を増やすのが周りの10人の仕事だということを選手に伝えているんです。それらを実践したうえであれば、ボールを持った選手が失敗したとしても、そこで咎めることはありません。そうやって失敗が起きた時に『なんでこっちにパスを出さなかった』とか『何で今のタイミングでパスをくれなかったんだ』という話し合いは絶対に必要だと思っていました。しっかりと選手同士で会話が生まれているのは、1つの大きな変化かなと感じています」
――個人の活躍に目を向けると、MFチアゴ・アウベス選手の活躍に触れないわけにはいきません。今季はすでに昨季(10得点)を上回る11得点です。
「彼とは去年からずっと一緒に戦ってきました。好不調の波がすごく激しいなかで、ピーターさんが彼を起用しているのを隣で観ていました。私が監督になってからも、彼の良さは当然理解しつつも、なかなか上手くいかない時期がありました。どうすれば彼がより輝くのかを考えるなかで、一度腹を割って話し合いました。それから彼が本当にやりたいポジションについてなどしっかりと意見を聞き、それを尊重したうえで試合に出れているのが好調の要因だと感じています」
「前回勝ったからといって次も勝てる保証は何1つない」
――流れの中からのシュートだけでなく、セットプレーからの決めた得点も多く、ゴールバリエーションが豊富な印象です。
「もともとある彼の得点感覚はなかなか教えられるものでもないし、おっしゃるとおり11点のうち、セットプレーで取ってるゴールがたくさんあります。彼のゴールへの嗅覚がそれを可能にしているとも言えますが、アナリストの明確な分析があり、狙いを持って起用しているからこそです。彼が持っている素晴らしい能力に、コーチやアナリスト、チームメートなど周りの協力が上手く重なった結果だと思います」
――渡邉監督は就任当初からそのチアゴ選手をはじめ、選手をさまざまなポジションで起用していました。
「私の中ではいろいろと試して、それが一周回って落ち着いてきました。もちろん、落ち着いたからと言ってこれでOKとは思っていませんし、またこれからいろいろ自分のアイデアを出して、選手と選手の関係性を見極めていかなければいけません。ただ、このチームでやろうとしてることの枠組みの中では、このポジションがベストだろう、ベターだろうという結論が私の中ではある程度見えてきて、それは選手たちにも共有してます」
――次節はホームに3位の東京ヴェルディを迎えます。第11節(2-1)のアウェーゲームでは監督就任後の初勝利を挙げた相手ですが、どのような印象をお持ちですか。
「彼らのゲームを見れば見るほど、手堅さもあるし、攻撃のところもすごくしっかりと整理されているチームだな、と。前回対戦した時には、しっかりと我々が相手を攻略できた時間もたくさんありました。PKで失点したり、それ以外のピンチもありましたけども、粘り強く守り切れたというところで自信もつきましたし、ポジティブに捉えています。ただ、前回勝ったからといって次も勝てる保証は何1つないので、そのあたりは選手たちとも意識の共有をして、目の前の試合にどれだけのエネルギーを注げるかどうかが重要。まっさらな気持ちで臨んでいきたいなと思ってます」
――最後に、この試合に向けた意気込みを聞かせてください。
「先ほども言ったとおり、目の前の1試合にどれぐらいエネルギーを注げるかっていうことだけで進んできました。目の前のゲーム以上に大事なものは何1つないというその思いは、天皇杯も含めて、持ち続けていければなと思います。ホームゲームでは、サポーターのみなさんがものすごくいい雰囲気、空気感を作ってくれているので、僕らにとっては本当に心強いです。この場所で自分たちが躍動できると思わせてくれるのは、間違いなくサポーターの存在なので、そういった雰囲気を残りのホームゲームでも数多く作っていってほしいなと思ってます」
[プロフィール]
渡邉晋(わたなべ・すすむ)/1973年10月10日生まれ、東京都出身。札幌―甲府―仙台。2004年に現役引退後は指導者の道に進み、コーチを経て、2014年から仙台(14~19年)、山口(21年)、山形(23年~)と監督を歴任している。論理的プレーの落とし込みに長けた知将であると同時に、熱い一面も持つ。