日本代表の強化着々、「2つの要件」を満たす必然のシステム うってつけの2人がキーマン…久保らの起用法も注目

6月シリーズを2連勝で終えた日本代表【写真:高橋学】
6月シリーズを2連勝で終えた日本代表【写真:高橋学】

【識者コラム】6月連戦で4-1-4-1システムを試した日本、W杯を見据えた改善の動き

 エルサルバドル代表、ペルー代表との6月シリーズ2試合、日本代表は4-1-4-1のフォーメーションを試した。起用する選手は違ってもフォーメーションを一定にしたのは、4-1-4-1が2026年ワールドカップ(W杯)のメインシステムになる可能性があるからだ。

 カタールW杯では4-2-3-1で初戦をスタートしている。しかし、守備時の4-4-2ブロックはドイツ代表の攻撃を防ぐことができず、後半からは5バックに変更した。それ以降は3-4-2-1、守備時は5-4-1になるシステムがメインになった。

 守備時に5人のラインがないと守り切れない。その点でカタール大会の5バックは的確な修正だったのだが、それは守備だけを考えた場合であって攻撃力はある意味犠牲になってしまった。三笘薫、伊東純也、堂安律といった優れたウイングを擁していたが、彼らが守備時にサイドバック(SB)まで下がらざるを得ないため、ボールを奪ってもスタートポジションが低すぎるのだ。W杯後も日本の最大の武器はウイングの突破力である。攻撃力アップを狙うなら、彼らのスタートポジションを上げたほうが得策だ。

 中盤かディフェンスのどちらかに「5」のラインを作ること、さらに切り札になるウイングプレーヤーを引かせすぎないこと。この2つの要件を満たすのが4-1-4-1なのだ。

 カタール大会後からボール保持力の改善を試みている。しかし、次回W杯で保持型のチームとして戦うつもりは森保一監督にはないと思う。カタールではスペイン代表に80%もボールを握られた。その立場を逆転しようとは普通考えない。現実に保持率20%でも日本代表は勝利している。このあたりの大局観には優れた監督で、急に身の丈に合わないことをやり始めるタイプでもない。

 取り組み始めた保持力アップは、いわばコスタリカ戦の課題に取り組んでいるだけではないかと推測している。つまり、リードされて相手に守備を固められた、または最初から相手が守備的な戦い方を選択している、そういう状況で何もできないようでは困るので準備をしているだけだろうと。その場合のオプションとして4-2-3-1は持っておきたいが、メインのシステムはおそらく4-1-4-1を想定しているのではないか。

「トップ下」がないシステムの起用法にも注目、強化面で監督継続のメリットも

 基本的な戦い方は4-1-4-1でコンパクトな陣形を維持し、奪ったら素早くショートカウンターを仕掛ける。ゴールを直撃できなくてもサイドへ回せば強力なウイングを活かせる。カタールでモロッコ代表がやったプレースタイルに近い。

 このシステムでキーマンになるアンカーには遠藤航、守田英正という、うってつけの2人がいる。いずれもボール奪取力と配球力に優れていて、守田はインサイドハーフでもプレーできる。4-1-4-1ではトップ下のポジションがないため久保建英、鎌田大地をどこで起用するのかは注目されるが、2人とも守備力も付いてきているのでインサイドハーフでも良いプレーは期待できる。堂安、旗手怜央も有力だ。

 4バックは吉田麻也、長友佑都が抜けたので再構築中だが、板倉滉と負傷がなければ冨安健洋がセンターバック(CB)コンビとして機能するはずだ。ウイングは三笘、伊東を筆頭に人材には困らない。センターフォワード(CF)は古橋亨梧、上田綺世などが争っている状況。ショートカウンター狙いという意味で、飛び出せるタイプの川村拓夢を6月シリーズに選出したのは興味深い。離脱した川村に代えて選出した伊藤敦樹も同じ特徴を持っている。

 森保監督はW杯後に継続となった初のケースだが、着々と明確な狙いを持って強化を行えているのは継続のメリットと言えるかもしれない。この段階での計画が順調に進むとは限らないが、カタールまでの4年間と比べるとかなり視界は開けている印象だ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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