ファインダー越しに見た日本代表、スタイルの成長 完璧な守備網突破→球離れの速い縦への意識
【カメラマンの目】数的有利になったものの、素早くゴールまで到達できるかの挑戦意識が見えた
3万7403人の観客で埋まった日本対エルサルバドルの一戦は、試合開始のホイッスルからわずか1分、谷口彰悟の電光石火のヘディングシュートがゴールを揺らし日本が先制に成功する。そしてその3分後には、早くも試合の行方を決定付けてしまうことになる。
相手の選手がペナルティーエリア内でファウルを犯しPKを獲得。日本は上田綺世がこのチャンスを確実に決めてリードを広げた。
スコアだけで言えば2-0とこの時点では盤石の点差ではなかったが、10人で戦わざるを得なくなったことにより、カメラのファインダーを通して見るエルサルバドルからは、劣勢を挽回する気力が一気にトーンダウンしていくのが分かった。その後は日本の一方的な展開で試合は進み、終わってみれば6-0の大勝。2026年ワールドカップ(W杯)本大会出場を目指す第2次森保ジャパンは、3試合目にして初勝利を挙げたのだった。
エルサルバドル戦に臨んだメンバーはカタールW杯後、所属クラブで強烈な光彩を放つ三笘薫と久保建英がサムライブルーでもチームの顔として先発を果たす。センターFWの位置にはベルギーリーグでゴールを量産した上田が名を連ねた。
エルサルバドル戦で日本が示したかったことは、三笘や久保の突破力を活かしたサイド攻撃を中心に、ヘディングに強く、そして相手マーカーとの駆け引きでも上手さを発揮する上田との連係で、迅速果敢にゴールへと目指す連続プレーの構築である。自陣からボールを奪い、守備から攻撃に転じる切り替えの早さや、前線へとボールを運ぶプレーにおいて、思い描く通りにピッチで表現できるのかを試したかったところだ。
情報化社会となり相手の研究が容易になり、ピッチに立つ11人の総合的能力によって勝敗が決定することが多くなった現代サッカーでは、相手ゴール付近となると組織的な守備網が張り巡らされスペースもない。そうした状況では攻撃に転じた際に、いかに少ない手数で素早くゴールへと到達できるかがモノを言う。
こうした戦い方を示せるかがカギだったが、試合は開始からわずか3分で思わぬ展開へと進む。退場者を出し、チーム全体としても低調だったエルサルバドルは、力強く日本陣内へと攻め込む勢いを持ち合わせていなかった。そのため幸か不幸か、日本はピンチとなることがほとんどなく、自陣で相手からボールを奪い、そこからのスピードに乗った反撃プレーという流れを実行する機会を得られなかった。
ただ、収穫がなかったわけではない。勢いのないエルサルバドルが後方でボールを繋ぐところを前線の選手がハイプレスで動きを封じ、そこからボールを奪いショートカウンターを繰り出すプレーで威力を発揮することになる。
かつては丁寧に攻撃を組み立て突破を図った
振り返れば日本はカタールW杯のアジア予選の序盤において、今回のエルサルバドルのように実力差のある相手との試合では、手数をかけて完璧に相手守備網を崩そうとするスタイルを固辞していた。だが、見た目は派手に映るものの、対等かそれ以上の実力を持ったチームとの対戦となれば、このゴールを奪うのに時間を必要以上に使うサッカーは、勝利に対して有効な手段とはまずならない。攻撃の遅延は相手が守備体系を整える時間を与えてしまうとこになるからだ。
しかし、エルサルバドル戦での日本は、ほぼ自在にボールを持てる状況でも前線の選手の球離れは早く、必要以上の単独ドリブルや前線での無駄なボール回しは影を潜めた。選手たちのなかにも、どれだけ早く攻めることができるのかという挑戦への意識が強く芽生えているように見え、それを実行しようとしているとこに進歩を感じた。
しかも、FWのレギュラーを狙う上田に加え、今回の招集メンバーでサポーターの期待も高いスコットランドリーグ得点王の古橋亨悟や、中村敬斗も途中出場ながらゴールという結果を出した。
しかし、エルサルバドルの低調な内容もあって、彼らFW陣の評価は次の試合以降に持ち込まれた印象だ。この試合で出場しなかった前田大然を含め、最前線の定位置を懸けた戦いは次のペルー戦へと続く。
願わくはペルーが骨のある相手として立ち塞がり、守るゴールを偶然ではなく明確な意図を持った戦術で攻略する日本の姿を見たいものだ。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。