海外挑戦の“登竜門”からステップアップへ 今季のベルギー日本人選手を査定、“どこに行っても活躍期待”のFWは?
【識者コラム】上田は結果を残し万全の状態で来シーズンへ、林に足りなかった“圧倒的な数字
海外挑戦をする日本人選手にとって、ベルギーの地はヨーロッパへの1つの登竜門となっている。日本の企業がオーナーであるシント=トロイデンをはじめ、Jリーグからベルギーに渡る選手も増えているなか、「FOOTBALL ZONE」では欧州でプレーする選手に焦点を当て、「海外組通信簿」と題し特集を展開。今回はベルギーから5人を厳選し、シーズンを通した査定を行った。(文=河治良幸)
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【評価指標】
S=抜群の出来
A=上出来
B=まずまずの出来
C=可もなく不可もなく
D=期待外れ
■上田綺世(セルクル・ブルージュ) 評価:S
ストライカーとしての成長のため、J1鹿島アントラーズと異なる環境を求めてベルギーに挑戦。最初はなかなか思うように行かない環境に苦しんだが、それでも少ないチャンスで結果を出しながら信頼を掴み、終わってみればリーグ戦22得点。得点王にこそ届かなかったものの、1シーズンにしてドイツ移籍情報専門サイト「transfermarkt」の公開した市場価値は200万ユーロ(約3億円)から600万ユーロ(約9億円)の約3倍にもなった。メッセージのある動き出しは欧州でも通用することを証明。加えてポストプレーの力強さも加わり、終盤は3トップの中央に君臨した。もちろん慣れ親しんだ2トップはお手のもので、ここからどういう環境に行っても適応&活躍が期待できる。
■橋岡大樹(シント=トロイデン) 評価:A
ベルギー3年目ということで、5バックの右サイドから躍動的なプレーを見せて、浦和時代から磨いてきたクロスを供給。リーグ戦で3アシスト、公式戦では5アシストを記録した。5-0と大勝した第32節のオーステンデ戦ではショートクロスが相手に当たって、それをジャンニ・ブルーノが決めており、多くのチャンスに絡んでいる。粘り強い守備も健在。チーム自体は12位に終わり、プレーオフ圏内の8位以内に到達することはできなかったが、個人として高評価に値するパフォーマンスであり、すでにドイツ1部ケルンからのオファーも伝えられる。遠藤航、冨安健洋、鎌田大地に続くステップアップ移籍は現実的だ。
■林 大地(シント=トロイデン) 評価:B
昨シーズンに続き、シーズン7得点。決して悪い数字ではないが、ステップアップや代表定着という基準からすると、スペシャルな評価を与えることはできない。178センチという上背以上に前線でターゲットマンになり、味方のラストパスに飛び込んで合わせることができる。決定力も高い。1月28日のルーヴェン戦では橋岡のクロスを見事に右足で捉えて流し込むなど、1つ1つのゴールはストライカーらしい嗅覚と勝負強さが感じられるだけに、そうしたシーンを引き出して行くシーンをより多くしていきたい。オファー次第では環境を変えるのも悪い選択肢ではないが、上田ほど圧倒的な数字は残せていないだけに、ベルギーの環境で伸ばせる要素はあるだろう。
DF渡辺は実力が認められ名門ヘントへ来季ステップアップ
■本間至恩(クラブNXT→クラブ・ブルッヘ) 評価:B
アルビレックス新潟からベルギー屈指の名門に加入したが、2部に所属するセカンドチームの「クラブNXT」からという扱いだった。それでも攻撃の中心を担って4得点4アシスト。特に2月のワースラント=ベフェレン戦では新潟時代そのままに、左からスルーパスを受けて、カットインから技巧的なゴールを逆サイドに決めた。そして5月28日のヘンク戦でようやくトップデビューを果たすと、ユニオン・サン=ジロワーズ戦でゴールとアシストを記録。しかし、本間のポテンシャルを考えれば、試運転と言ったところ。8月に22歳となる本間。本格的にトップチームの一員として始動することが予想される来シーズン、どういった飛躍を見せてくれるのか楽しみだ。
■渡辺 剛(コルトレイク→ヘント) 評価:A
ベルギー1部と言っても、優勝を争う強豪クラブと残留が目標となる中小クラブではかなり差があるリーグだ。FC東京から環境を移した渡辺剛が身を置いたのはまさに後者だが、2シーズン目で全試合にスタメン出場し、安定したパフォーマンスを見せたのは立派だった。ビルドアップ面などには課題を残すが、東京時代よりデュエルに磨きをかけていることを証明するパフォーマンスで、チームの残留を支えた。その甲斐あって、オフには名門ヘントからオファーが。優勝を争う側にステップアップするセンターバックはさらに厳しい競争に打ち勝ち、5位に終わってしまった名門の復権を9シーズンぶりの優勝に引き上げられるのか。欧州カンファレンスリーグでの挑戦も期待が懸かる。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。