J1浦和×鹿島、ホームチームが試合前に見せた“決意の抱擁” 指揮官との強固な信頼関係
【カメラマンの目】激しい攻め合いで幕を開けるも次第にペースダウン、スコアレスドローの背景に迫る
両チームとも試合の入り方は強烈だった。
4万5575人の観衆で埋まったスタンドから発せられる強烈な熱量に包まれた、J1リーグ第16節の浦和レッズ対鹿島アントラーズの一戦は、激しい攻め合いで幕を開けた。両チームの選手たちが攻撃を重視し、ボールを1ミリでもより前線に、そして素早く運ぼうと、キックオフから積極的に攻撃を仕掛けていく。
パス、ドリブルともにダイナミックな縦への動きを繰り返す、この展開が試合終了まで続いたら、きっと見応えのある内容となったことだろう。しかし、ハイペースの攻め合いで始まった試合は、やはり長くは続かなかった。
10分も過ぎると試合はペースダウンすることになる。それまで縦への動きを軸に試合を作っていた鹿島だったが、このままではオーバーワークとなることを懸念してか、後方でボールをつないで相手守備網を揺さぶり、そこから突破口を開くスタイルへと戦いの主軸を変更していく。
この動きに対して浦和も反応し、ボールを持った鹿島の選手に前線からプレッシャーをかけて動きを封じようとする。そのためチーム全体のプレーは攻撃より、相手に自由を与えないようにするための守備が主体となっていく。浦和は鹿島の攻撃によく耐え、GK西川周作にアレクサンダー・ショルツとマリウス・ホイブラーテンの2人のセンターバック(CB)が抜群の安定感を発揮し、最終局面を崩させない。
鹿島もボールをキープしながらも浦和の攻撃を十分に警戒していたようで、守備への意識は高かった。植田直通と関川郁万が中央を守る牙城は堅く、簡単には失点しない雰囲気を感じさせた。
こうなると試合の流れは停滞し、相手の長所を消し合う展開で時間は経過していくことになる。
この展開から積極的に動いたのはホームチームの方だった。鹿島の最終ラインとの戦いに手こずっていた前線の選手を後半開始から岩尾憲に交代。中盤を強化して状況の打開を試みる。
鹿島も攻撃を構成する選手を後半の早い時間帯に入れ替えて状況の変化を促し得点を目指したが、試合の流れは両チームの堅固な守備がものを言いスコアレスドローに終わる。リーグ中盤を迎え好調なチーム同士の対戦だったが、前半最初の積極的な攻め合いを見せた展開とは打って変わって、全体では不完全燃焼のまま試合終了のホイッスルを聞くことになった。
安定した戦いぶりを見せる浦和の試合前の様子を激写
そうした試合内容でもピッチレベルのゴール裏から、望遠レンズを装着したカメラを通して局面を見れば、目に留まったことがいくつかあった。
鹿島はセットプレー時にはヘディングに威力を発揮する2人のCBが前線に上がり、攻撃に参加していたが、その空いたスペースを埋めるために中盤のディエゴ・ピトゥカが最終ラインへと引いてバランスを保つなど、低空飛行が続いていたときと比較して、場面に応じた共通意識が増えてきている。
浦和は後半33分から登場した荻原拓也が左サイドを駆け上がって敵陣深くに侵入し、強烈なキックからゴール中央へとセンタリングを供給するプレーに迫力を感じた。
そして、もっとも印象に刻まれた場面は試合前の出来事だった。浦和の選手たちがウォーミングアップをする姿をマチェイ・スコルジャ監督が見ていたときだ。試合前に指揮官が姿を見せることは、まったくないことではないが、それほどあることでもない。
ただ、試合前に監督がピッチにいる場合でもよく目にするのは、ベンチに座り選手たちを見守っているという場面だ。
だが、浦和を率いるスコルジャ監督はベンチ前に立ち、より積極的な姿勢で選手たちを視線の先に捉えていた。その姿は選手たちに自分は練習から見ているぞと緊張感を持たせるためというより、赤いユニフォームを身に纏った彼らをピッチにどんな形で配置し、浦和のサッカーをどう表現したらいいのか、頭の中で思い描いているように見えた。
このとき、練習を終えロッカールームに引き上げていく西川とスコルジャ監督が健闘を誓い合う場面がありシャッターを切った。
浦和はリーグ開幕から2連敗とエンジンがかからず、序盤はチーム全体に不安が漂っていた。だが、徐々に指揮官が目指すスタイルが選手たちに浸透していき、信頼関係も構築され、ここにきて安定した戦いぶりを見せている。
写真は何気ない1枚であり、それほど珍しい場面でもないが、チーム状態で上昇カーブを描く浦和の試合を前にして、勝利を目指して戦う決意を感じさせる瞬間だった
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。