MF川辺駿「次のW杯は出たい」 日本代表への思い吐露、「刺激になった」選手とは?【現地発】

グラスホッパーでプレーする川辺駿【写真:Getty Images】
グラスホッパーでプレーする川辺駿【写真:Getty Images】

【インタビュー】日本代表の競争へ意欲「割って入っていけるようにしたい」

 今季スイス1部グラスホッパーでリーグ戦9得点8アシストの結果を残したMF川辺駿は、6月シリーズ(15日エルサルバドル代表戦、20日ペルー代表戦)の日本代表メンバーに選出された。「日本代表の中盤にはすごくいい選手が多い」と熾烈なポジション争いに言及し、「次のワールドカップ(W杯)はもちろん出たい」と心中を明かしている。(取材・文=中野吉之伴/全3回の2回目)

   ◇   ◇   ◇

 日本人海外組は一昔前に比べると人数が増え、プレーしている選手たちのチーム内での立ち位置もだいぶ変わってきている。戦力の1人という枠を超えて、「チームに欠かせない大事な主力」「攻撃に変化をもたらす貴重な存在」「攻守をつなぐ中心軸」といった位置で起用される選手が増えていることは、ここ数年の日本サッカー界の成長・発展ぶりを物語っているのではないだろうか。

 スイス1部でプレーする川辺駿もそうした選手の1人だ。グラスホッパーというクラブはスイスリーグ最多優勝を誇る名門中の名門。優勝回数27回は断トツの数字で、2位バーゼルでも20回だ。他国で考えるとブンデスリーガにおけるバイエルン・ミュンヘン、スペインリーグにおけるレアル・マドリードのような立ち位置だろうか。

 歴戦の雄は2000年代に入って経営破綻などさまざまな問題を抱え、18-19シーズンにはクラブ史上2度目の降格となり、2シーズン2部でのプレーを余儀なくされた。

 転機となったのは20年4月に香港の企業Champion Unionによる買収が成立したことだろう。プレミアリーグのウォルバーハンプトン(ウルブス)とパートナー関係が形成されると、経営陣のテコ入れが行われた。そうした背景もあり、21年にまた1部へ昇格。昨季は川辺らの活躍もあり、無事残留を果たした。

 クラブに長くいる中心選手、ウルブスからのレンタル選手、そして育成からの若手をバランス良くミックスすることでチームを活性化させ、健全なポジション争いが生まれるようにケアされているという。

 川辺はそうした新生グラスホッパーにおいて、中心選手としての地位を確立している。日本代表に呼ばれない時期もあり、クラブ関係者は不思議に思っていたようだ。

「チームメイトやコーチ陣からは、『なんで代表行ってないの?』って言われたりしました。すごく自分の良さをこのチームの人たちは分かってくれていると思う。もちろん日本代表の中盤にはすごくいい選手が多いので。そういう選手たちに割って入っていけるように、結果はもちろんですけど、プレーのクオリティーだったり、強さだったりっていうのは、もっともっと高めて成長していきたいです」(川辺)

W杯で衝撃を与えた日本代表に感銘「自分もこの舞台に立ちたいなって」

 カタールW杯で、川辺は純粋に日本を応援していた。1人の選手として見る場面もあれば、1人の日本人として応援する気持ちもすごくあったという。

「日本代表がスペイン代表、ドイツ代表に勝って、すごく自分もこの舞台に立ちたいなっていうのを改めて感じました。あとやっぱり、『自分があそこのピッチに立っていたら』っていうイメージもしながら一選手として見れたと思います。

 あと浅野(拓磨)くんとか、元チームメイトで身近な存在。普段からコンタクトを取っている選手がああやって活躍するっていうのが、自分にもすごく刺激になりましたね。次のW杯はもちろん出たいという気持ちはあります。でも時間はまだありますし、そこにフォーカスしすぎず、まずは自分がいるチームでどれだけできるかというのがすごく重要だと思う。毎試合成長して、少しでも近づけるようになりたいです」

 カタールW杯後、日本代表の新たな船出となった23年3月シリーズ(24日ウルグアイ戦で1-1ドロー、28日コロンビア戦で1-2敗戦)では、グラスホッパーで共闘するチームメイトのDF瀬古歩夢が代表に招集され、ウルグアイ戦で代表デビュー。また、オーストリア1部のLASKリンツで結果を出しているFW中村敬斗にも声が掛かった。プレーしているリーグやチームだけがすべてではないはずだ。

「どこにいて、どこでプレーしていても、見てもらえる選手はやっぱり見てもらっていると思う。そういう部分を意識しつつ、ただどれだけ自分が選ばれたいと思っても、こちらは選んでもらう立場なので。自分がどれだけ結果を出せるか、そして選びたいと思ってもらえるかどうか。もっともっとステップアップしなきゃっていうのもすごく1つの大きなポイントではあるかなと思います」

 中盤の選手としてインテンシティー(プレー強度)を常に高く保ち、ボール奪取能力にも優れている。何より切り替えがとても早く、アタッキングサードに巧みに侵入してはゴールへのルートを作り出せる点も魅力的だ。得点力も備えており、今季リーグでは9得点8アシストをマーク。今の代表には少ないタイプの選手だけに、そのなかでスタメン争いに割って入ってくると面白い。今後が楽しみな選手なのは間違いない。

[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島高陽FC―サンフレッチェ広島Jrユース―サンフレッチェ広島ユース―サンフレッチェ広島―ジュビロ磐田―サンフレッチェ広島―グラスホッパー(スイス)。2014年に広島のトップチームに昇格。15年に磐田へ期限付き移籍して頭角を現すと、18年から広島へ復帰して主力としてフル稼働し、21年7月からグラスホッパーへ移籍。22年1月、ウォルバーハンプトンへ3年半契約で完全加入が決まり、同シーズンはグラスホッパーへ期限付き移籍の形を取り引き続きプレー。22-23シーズンもグラスホッパーに所属し、リーグ戦33試合9ゴール8アシスト。21年3月25日の韓国戦でA代表デビューを飾り、同年6月7日のタジキスタン戦で代表初ゴールをマーク。23年6月シリーズの日本代表メンバーに招集された。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

page 1/1

中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング