日本代表選出のMF川辺駿、欧州で9得点8アシストに手応え 高まったゴールへの嗅覚「1つ壁を乗り越えた」【現地発】

グラスホッパーでプレーする川辺駿【写真:Getty Images】
グラスホッパーでプレーする川辺駿【写真:Getty Images】

【インタビュー】川辺も今季の出来を自負「自分の力を出せてるなっていう印象がある」

 今季スイス1部グラスホッパーでリーグ戦9得点8アシストの結果を残しているMF川辺駿は、「これだけ数字を残したのはすごく自信になります」と手応えを口にしている。6月シリーズ(15日エルサルバドル戦、30日ペルー戦)の日本代表メンバーに選出された27歳が、今季のパフォーマンスを振り返った。(取材・文=中野吉之伴/全3回の1回目)

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 スイス最大の街チューリッヒから電車に乗り換えて10分ほどの駅で降り、そこからさらに10分ほど歩くとグラスホッパー・チューリッヒの練習場が見えてくる。近くにはプールやテニスコートがあり、子供連れの家族が楽しそうに歩いている。

 グラスホッパーのオフィスに続くガラス戸をくぐると、広報のジャンルカ・デ・クリストファーロ氏が出迎えてくれた。お互いの近況を話したり、先日試合取材でも訪れていたのでその時のことを話題にしていると、川辺駿について話を始めた。

「川辺は本当にいい選手だよ。ウチの中だけでなくて、リーグ全体を見ても彼ほどクオリティーをコンスタントに発揮している選手はそう多くはいない。違いを作れる。チームの中心として絶対に欠かせない選手なんだ」

 会議室に案内され、淹れたてのコーヒーを飲んでいると、川辺がにこやかに姿を現した。その表情からは充実感がうかがえる。2シーズン目となった今季、リーグ第35節終了時でチームは6位につけている。

 主軸としてプレーしている川辺だが、シーズン前の段階で今季の目標は何位くらいを設定していたのだろうか。

「上の順位を狙えるチームでもありますし、それだけの戦力もあると思います。ヨーロッパカップ戦に出られる順位というのは目標としてありました」(川辺)

 昇格年だった昨季に最終節で自動残留を決めたグラスホッパーにとっては、確かな積み重ねが感じられるシーズンだったのは間違いない。川辺自身は今季ここまでリーグ戦32試合(第35節終了時)に出場し、9得点8アシストをマーク。どちらもリーグ全体で上位に入る数字だ。

「そうですね。昨シーズンが7ゴールだったんで、やっぱり1年目と2年目で違う難しさがあるなと感じてたなかで、これだけ数字を残したのはすごく自信になります。1年目だけじゃなかったっていう自信と、自分の力を出せてるなっていう印象がある。周りからの信頼っていう意味でもすごく大きな部分です」

 上々の成績とパフォーマンスを残せた1年目にはなかった2年目の難しさとは、具体的にどういうところに感じていたのだろうか。

「自分がどういうプレーヤーかというのに対して、対戦する相手チーム、選手ももちろん慣れて対策してくると思います。前のシーズン7得点取ったってことは、ファンやクラブからの期待も大きくなるので、逆に今季が1、2点とかだったら、『なんだ、去年だけか』みたいな感じになってしまったりもする。だからそうしたプレッシャーを跳ねのけて、結果を残せたというのはすごくポジティブに捉えています。自分の目標にもしてたので、1つ壁を乗り越えたかなと思います」(川辺)

欧州で結果を残せている要因は「やっぱりゴールの匂いがする場所に行く」

 昨季を受けての期待と相手からの警戒があるなかで、今季さらにより良いパフォーマンスを出すために、川辺自身は心がけていたことやチャレンジしたことはあったのだろうか。

「そこまで大きくスタイルややり方を変えてはいないんですけど、やっぱりゴールの匂いがする場所に行く。ゴールに近づけば近づくほど、点を取れるチャンスというのは大きくなる。だからチームがぐっと前がかりになった時だったり、チャンスだなと思った時にはペナルティーエリア内、もしくはさらに飛び込んでゴールの近くにいるようにはしてます。そういうシーンが多くゴールにつながってると思うので、そこは意識してますね」

 試合取材に訪れたシオン戦でも川辺の切り替えの鋭さは際立っていた。味方がボールを奪ってカウンターに入るぞというタイミングですでに敵陣でボールをもらえる位置へとダッシュを開始している。そんな川辺を経由して攻撃がどんどんスピードアップしていくのだ。

「『このチームの中でいい選手でありたい』っていう気持ちはもちろんあります。まだ試合も残っているので、チームの順位とともに、自分の数字ももちろん求めていきたい」

 現地時間5月29日、今季最終節のバーゼル戦を迎えるなか、チームを勝利に導くパフォーマンスに期待が懸かる。

[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島高陽FC―サンフレッチェ広島Jrユース―サンフレッチェ広島ユース―サンフレッチェ広島―ジュビロ磐田―サンフレッチェ広島―グラスホッパー(スイス)。2014年に広島のトップチームに昇格。15年に磐田へ期限付き移籍して頭角を現すと、18年から広島へ復帰して主力としてフル稼働し、21年7月からグラスホッパーへ移籍。22年1月、ウォルバーハンプトンへ3年半契約で完全加入が決まり、同シーズンはグラスホッパーへ期限付き移籍の形を取り引き続きプレー。22-23シーズンもグラスホッパーに所属し、リーグ戦32試合9ゴール8アシスト(第35節終了時)。21年3月25日の韓国戦でA代表デビューを飾り、同年6月7日のタジキスタン戦で代表初ゴールをマーク。23年6月シリーズの日本代表メンバーに招集された。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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