ドイツ古豪ヘルタ、なぜ2部降格? 「こんなはずじゃなかった」…330億円超の巨額融資から狂い始めた歯車【現地発コラム】

2部降格が決まったヘルタ・ベルリン【写真:Getty Images】
2部降格が決まったヘルタ・ベルリン【写真:Getty Images】

第33節ボーフム戦で引き分け2部降格、メガクラブを夢見たヘルタの転落劇

 こんなはずじゃなかった。

 ヘルタ・ベルリンの関係者は誰もがそう思ったことだろう。ドイツ1部ブンデスリーガ第33節ボーフム戦(1-1)の後半アディショナルタイムに同点ゴールを許し、その直後に主審のホイッスルがベルリンオリンピアスタジアムに鳴り響いた瞬間、2012-13シーズン以来となる2部降格が確定した。

 世界に名だたるメガクラブになることを夢見ていたはずのヘルタが、UEFAヨーロッパリーグ(EL)やUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場に関わることもないまま、最終節を待たずにブンデスリーガから別れを告げることになる。

 ヘルタのスポーツディレクター(SD)、ベンヤミン・ウェーバーは「終了間際の失点はシーズンの姿を反映している。シーズンを通して多くの試合で勝ち点を取るチャンスを逃してきた。今季だけではない。ここ最近は常に残留争いだった。正直に、現実的に言わなければならないだろう。ここ最近、そして今季ヘルタはすべてを正しく取り組むことができなかったのだ」と言葉を吐き出していた。

『ビッグシティクラブ化計画』
『プロジェクトチャンピオンズリーグ』

 元日本代表MF細貝萌(ザスパクサツ群馬)やMF原口元気(シュツットガルト)が所属していたこともあるヘルタは、浮き沈みの激しいクラブだ。調子のいい時期はEL、あるいはCLに出場し、大志を掲げた。一方で一度崩れだすと歯止めがきかず、2部降格となった時代も少なくない。

 そうした過去の反省から高望みをしすぎず、身の丈に合ったチーム編成と目標設定で、ユース育ちの選手を大事にしながら成長していこうとしていたこともある。ミヒャエル・プリーツがSDだった頃は、選手補強も現実路線だったことが多い。

 そんなヘルタだったが、巨額の投資が受けられるという魅惑的な誘いを断ることはできなかった。投資会社テナー・ホールディングが2度に分けて2億2400万ユーロ(約336億円)もの投資金を準備するという話を受けた時、ヘルタは足元から支えにしていた板を取り外してしまったようだ。

ピッチ内外で露呈した問題、指揮官が正直な思い吐露「誰もが、学ばなければならない」

 テナー・ホールディング社の会長ラルス・ビントホルストは「制限を設けるつもりはない。必要とあれば自分たちの目的を達成するためにさらなる手段を講じるつもりだ」と話し、さらに「これはクレイジーなアイデアではない。たとえ巨額の投資額になったとしても、最終的にそれ以上のものを回収できるという経営的なロジックで考えられたものだ」と説明。当時ヘルタ会長だったベルナー・ゲーゲンバウア―が「非常に嬉しく思う。素晴らしい一歩だ。ヘルタの財政面は過去比較できないほど強固なものになっている」と有頂天になった気持ちだって分からないわけではない。

 いずれにしても、資金を手にしたことで当然ノルマは上る。「最低でもEL。ゆくゆくはCLの常連に」というプレッシャーが付きまとうことになる。資金があるから選手は補強できる。適正価格でなくても、資金面は問題がないという頭脳になっていると歯止めをかけられない。

 数多くの選手がヘルタに来たが、ほとんどが本来のパフォーマンスを引き出せていない。「ウニオン(・ベルリン)のために死力を尽くして戦える選手しか取らないと明言している」というライバルクラブとあまりに対照的な構図。そのウニオンが4位と好調をキープし、CL出場争いをしているという皮肉ぶりだ。

 テナー・ホールディング社の会長ビントホルストとの関係は切られた。構造改革を期待してフランクフルトからフレディ・ボビッチを代表取締として迎え入れたが、これもハマらずにクラブを追われた。加えてドイツリーグ連盟(DFL)からさまざまな不備を指摘され、来期以降のクラブライセンス発給に問題を抱える状態にまでなっている。

 ピッチ内外であまりに問題が多すぎた。シーズン残りわずかとなったところで元生え抜き選手で、何度も監督として残留に導いたことがあるパル・ダルダイに泣きついたが、あまりに遅すぎた。ダルダイは「何かをすれば残留できるというほど簡単なミッションではない」と正直に語るほどに。

 降格が確定したあと、ダルダイ監督は努めて冷静に、正直な思いを言葉に込めた。ヘルタの再興を祈って、厳しい内容をダイレクトに伝えている。

「ヘルタは今日の試合で降格したわけではない。今日の試合内容は良かった。だが残留争いではどのチームも最後まで戦う。選手は学ばなければならない。どのように守るのか、戦うのかを学ばなければならない。私も、そうだ。誰もが、学ばなければならない。素晴らしいスタジアムと素晴らしい街がある。徹底的に分析しなければならない。サッカーでは次のパスが大事だ。今から次に向けて進まなければならないんだ。育成、ファン、選手、スタッフ、みんな揃ってのファミリーなのだ」

降格決定試合で7万人超の観客、再起を期すヘルタ「今度こそ本気で取り組まなければ」

 ヘルタの降格が決まったホームでのボーフム戦、スタジアムには7万692人ものサポーターが詰めかけた。試合が終了して2部降格が決まったあと、涙を流しながら、でも両手にクラブマフラーを掲げて、大声でクラブソングを歌っていたサポーターがたくさんいた。その思いに、クラブは本気で応えていかなければならない。

 ダルダイ監督の言葉が記者会見室に響く。

「控室はさすがに静かだった。でももう1試合ブンデスリーガクラブとしてヘルタの試合があることを忘れてはならない。そこに向かって戦わないといけないのだ。難しいのは分かっている。でもそれが我々のやるべきことだ。現実を受け入れなければならない。私は30年間ヘルタでやってきた。選手として、監督として。2部リーグに降格したなら、またみんなで取り組んでいかないと。再び1部へ戻るために。我々は今度こそ本気で取り組まなければならない。それがあれば素敵な未来がまた待っているはずだ」

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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