浅野拓磨、運命の最終節でドイツ1部残留の立役者となるか 「決めないといけない」に滲む覚悟【現地発コラム】
ボーフム浅野が第33節ヘルタ戦で存在感、数多くのチャンスに関与
日本代表FW浅野拓磨がプレーするボーフムは、ブンデスリーガ第33節最下位ヘルタ・ベルリンとのアウェー戦を1-1の引き分けで終えた。終了間際にセットプレーから起死回生の同点ゴールを挙げてチームは大喜び。試合後にはアウェーに駆けつけたサポーターと最終節に向けて、気合いを新たに入れ合う姿があった。
勝てば残留がかなり現実味を帯びてくるなかでの引き分けだっただけに悔しさが残るのは間違いないが、サポーターを含めてチームとしての極めて強固なまとまりを感じさせられる。
監督のトーマス・レッチュは、試合後の記者会見で落ち着いた様子で試合を振り返っていた。
「最初に(フィリップ)ホフマンのいいチャンスがあったのは良かったが、そのあとはイメージどおりの試合にはならなかった。ヘルタのカウンターは危険だった。それでも先制チャンスはあった。ヘルタは先制点のあと自信を持ったプレーをしていたが、我々も諦めずに最後の最後で同点に追い付くことができた。ポジティブな勝ち点だと言えるだろう」
残留を争う直接対決だけに、試合開始からピッチ上のあらゆるところで肉弾戦が起こっていた。スタメン出場していた浅野も、前半10分にボールを巡って相手DFと激しい交錯。しばらくうずくまり、動けないほどの衝撃だったが、これがノーファールとなるのがこの試合の基準だ。
浅野は攻撃の起点となるべく、前線で動き回る。味方がボールを持ったら裏のスペースへと走りこみ、詰まったら中盤のスペースに降りてきてパスの出口を作り、ルーズボールに鋭く反応し、味方がボールを失ったらすぐにまたポジションに戻る。互いにボールを落ち着ける時間が少ないなか、行ったり来たりととにかく走り続け、それでも浅野の運動量は落ちなかった。
チャンスにも数多く絡んだ。前半30分にはコーナーキック(CK)からのフリックで流れてきたボールを、フリーでヘディングシュート。枠を捉えたが、これは相手GKがファインセーブ。後半23分にも(フィリップ・)フュルスターのクロスをホフマンがヘディングで触って方向が変わったボールに、近くにいた浅野が素早く頭で反応。ゴールマウスにシュートを飛ばしたが、これもGKが指先でかき出した。
後半27分には、左サイドからのクロスをヘディングで上手くフリックで流すと、途中交代のゲリット・ホルトマンがフリーでシュートのチャンス。だがこれもゴールネットを揺らすことはできない。後半36分、浅野はシモン・ツォラーと交代でピッチを去った。
決定機逸に悔しさ露わの浅野「でもやっぱりちょっと甘かったかなって」
2度の決定機逸の場面では相手GKを褒めるべきなのか。試合後のミックスゾーンで浅野は首を横に振った。
「それもありますけど、でももっと言ってしまえば、コースはいくらでもあったと思うんです。自分としては狙いどおりというか、思ったとおりのヘディングはできたけど、でもやっぱりちょっと甘かったかなっていうのはあります。それに狙いどおりとかもそういうのは関係なくて、やっぱ決めないといけない場面だったんだと思います。2本のチャンスで決められずチームも苦しい展開が続いたと思いますし。決めないといけなかったです」
チームを助けるためにやるべきことがある。誰よりも走るし、誰よりも戦う。ロングボール主体のチームの中でチャンスメイクにも貢献している。監督やチームメイトもそこを認めてくれている。それでもやっぱり満足はできない。
「数少ないチャンスを自分もやっぱりモノにしないといけない。チャンスが何本も何本も来るチームじゃない。90分のうちに1回、2回あるかどうかで、ほぼない試合も多い。そうしたなかで、今日はパスも出てきたので、そういうとこも含めてもう課題しか残らなかった試合だと思っています。チームがよく引き分けに持っていってくれて、なんとか生き残ってるんで、自分も切り替えて最後の試合に向けていい準備するしかないかなと」(浅野)
現地時間5月27日、最終節の相手はレバークーゼン。UEFAヨーロッパリーグ(EL)で準決勝に進出した強豪クラブだ。DFには各国代表選手が並ぶ。それでも今節ボルシアMG戦では相手プレスを前に不用意なミスで2失点するなど、付け入る隙がないわけではない。躍動感ある浅野のプレーでチームを残留へ導きたい。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。