【インタビュー】専属トレーナー木場克己氏に訊く、久保建英の素顔

　スペインの名門FCバルセロナの下部組織で育った久保建英は、一体どんな内面の持ち主なのか。Jリーグやラ・リーガ、日本代表で実戦の場を踏んできただけあり、ファンにはお馴染みの存在になったものの、21歳の若き逸材の内面は「知る人ぞ知る」領域でもある。「FOOTBALL ZONE」では関係者や記者たちの証言から久保の人間性に焦点を当てた特集を展開。体幹トレーニングの第一人者であり、久保の専属トレーナーとして小学生時代から指導を行ってきた木場克己氏にピッチ外での久保の素顔について訊いた。（取材・文：石川 遼）

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「最初の出会いは彼がまだ小学4年生の時で、お父さんが私の講演に来ていたことがきっかけでした。ちょうど長友佑都（FC東京）が体幹トレーニングで注目を集めていた頃で、お父さんが建英にも体験させたいということで挨拶に来てくれたんです」

　始めに木場氏のトレーニングに熱心だったのは久保の父親だったが、久保も中学生に上がる頃には自発的に取り組むようになっていたという。そんな出会いから2人の師弟関係は現在まで10年以上も続く。木場氏は21歳になった久保を「本当にサッカーのことが大好きなサッカー小僧」と表現する。

　現在ヨーロッパでプレーしている久保と会う機会は限られているが、今でも木場氏はそのプレー動画をチェックし、身体の気になる部分があればそれを改善するためのトレーニングやストレッチのメニューを作っている。久保はそれらに真摯に取り組んできた。人から言われたことにしっかりと聞く耳をもつ“素直さ”やサッカー選手として成長するためなら一切の妥協を許さない“真面目さ”は出会った頃から一貫して変わらない久保のパーソナリティーだ。

「とにかく真面目なんです。こちらの意見を聞いてくれますし、自分が必要だと思ったことはしっかりと続けてくれる。私も長年トレーナーをしてきましたが、中には1回だけ教わりにきてそれだけで終わってしまう選手もいます。長続きしない選手はやはりどこかで怪我をしたりダメになってしまうことがあるのですが、建英は続ける強い心を持っています。私は彼が15歳の頃に面談をして、2022年のカタール・ワールドカップ（W杯）までにどういうふうな身体作りをするかを考え、一緒に取り組んできました。そういった意志の強さや向上心を持っていたからこそ今の建英があるんだと思います」

　久保が15歳の時からカタールW杯までの道のりを逆算し、二人三脚で歩いてきた。木場氏は久保のサッカーに向き合う姿勢について「サッカーが上手くなるためなら何でもする」と語る。そして「そういうところはまるで三浦カズさん（三浦知良）のようです。今でも『もっとサッカーが上手くなりたい』と言うくらいですから」と日本サッカー界のレジェンドとの共通点も感じていた。

　久保は2017年にスペイン1部FCバルセロナを退団後、J1のFC東京に加入し、Jリーグデビューを飾った。しかし、思うように出場機会を得られなかったこともあり、18年には横浜F・マリノスへ期限付き移籍を経験している。ここでメンタル面を大きく成長させた久保だが、同時に肉体的な部分でもしっかりと強化に取り組んでいた。木場氏は当時を振り返る。

「建英はFC東京時代になかなか試合に出れず、期限付き移籍で（横浜F・）マリノスに行きました。その頃、週2回は自分のところに来てましたね。FC東京で使われていない理由を本人はしっかりと理解していました。足りていなかったのはフィジカルの部分で、当時は走っていない、走れないとよく言われていました。当時はまだ16歳かそこらでしたけど、彼はもっと強くなりたいと考えていました。

　ある時、建英から『今日トレーニングやってもらえますか』と連絡がきたんですが私はその日、団体向けの指導講演をやっていたんです。『少しでも空き時間はないですか』と聞いてくるので、お昼休憩の1時間ならと言ったんですけど、周りには講演に来ていた100人くらいの人がいます。そんな状況なら普通は来ませんが、彼は『それでもいい』といってわざわざやってきて、その100人が見ている中で黙々とトレーニングをしてくれました。少しでも得られるものがあるなら取り入れたいと思っていたんでしょうね」

　今や日本を代表するプレーヤーの1人となった久保。サッカーが上手くなりたいという純粋な気持ちと飽くなき探究心がその礎となっている。

［プロフィール］
木場克己（こば・かつみ）／KOBA式体幹バランストレーニング協会代表。都内でトレーニングジム「COREトレSTUDIO」運営。鍼灸師、柔道整復師。FC東京ヘッドトレーナー（95～02年）を経て独立。久保建英、中井卓大らの専属トレーナー。