【月間表彰】駆け引きが生んだ劇的ゴール FC東京・渡邊凌磨に染み込んだシュートの感覚

C大阪戦でゴールを決め歓喜に沸く渡邊凌磨【写真:(C)F.C.TOKYO】
C大阪戦でゴールを決め歓喜に沸く渡邊凌磨【写真:(C)F.C.TOKYO】

月間ベストゴールを受賞した4月15日・C大阪戦での衝撃ゴール

 Jリーグは2023年シーズンも「明治安田生命J1リーグ KONAMI 月間ベストゴール」を選出。スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画として、「FOOTBALL ZONE」では毎月、スーパーゴールを生んだ受賞者のインタビューをお届けする。4月度の月間ベストゴールに選出されたのは、FC東京のMF渡邊凌磨選手が4月15日・第8節・セレッソ大阪戦の後半23分に放った一発だ。胸トラップから右足のボレーでネットを揺るがせたプレーを紐解く。(文=藤井雅彦)

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 FC東京オフェンス陣の中軸を担う26歳がダイナミックなゴールを突き刺す。味の素スタジアムに駆け付けたファン、サポーターは興奮の坩堝(るつぼ)と化した。4月の明治安田生命月間J1リーグKONAMI月間ベストゴールを決めたのはMF渡邊凌磨だ。

 第8節・C大阪戦の後半23分だった。右サイドバックのDF中村帆高がボールを受け、ゆっくりとドリブルで持ち上がる。センターサークル付近にいた背番号11は首を左右に振ってチームメイトの位置を把握すると、徐々にスピードを上げて高い位置へ侵入していく。

「まず自分よりも前にディエゴ(オリヴェイラ)が残っているかを確認して、前線に誰もいなかったので最終的にゴールを取れるポジションに入っていくことを考えました。具体的には、相手のセンターバックと勝負できるような位置で最後にボールを受けることを意識してランニングしていました」

 ポイントになったのは、ボールホルダーから見てニアゾーンに追い越すようなスプリントを仕掛けたMF安部柊斗の動きだ。警戒したC大阪DF鳥海晃司が対応するためにポジションを左へスライドすると、渡邊の前方にわずかなスペースが生まれる。

「柊斗が縦へ走ったタイミングでセレッソの左センターバックの選手が柊斗に引き付けられて、自分の前にスペースができたのでスプリントをかけました」

 間髪入れず、中村から鋭いアーリークロスが供給される。自身は全力疾走し、パススピードも速く、なおかつ浮き球という難しい局面で下した選択は、あえて相手ゴールに向かわないトラップだった。

「僕のスプリントの勢いとボールの勢いを考えると、ゴール方向にコントロールするのが難しい。わざと相手のゴールに背を向けた状態で止めることを意識しました」

 ジャンプしながらの胸トラップでボールの勢いを吸収し、すぐさま次のプレーへ移れるように体勢を整える。次の瞬間、ボールの落ち際を右足でミートしたシュートは、名手として知られるGKキム・ジンヒョンもほとんど反応できないファインゴールとなった。

「スプリントを仕掛けている時にGKの位置を確認していました。シュートは、ボールを綺麗に叩くと上へ浮かしてしまう。足をかぶせながらドライブ回転をかけるような意識で打ちました」

シュート練習では1本1本必ず“理由”を持たせるという渡邊【写真:(C)F.C.TOKYO】
シュート練習では1本1本必ず“理由”を持たせるという渡邊【写真:(C)F.C.TOKYO】

「僕には突出した能力がない」日々の練習で染み込ませた感覚

 理論派に映る言葉の数々は、トレーニングの賜物だ。日々の練習では成功も失敗も、すべてを肥やしにして成長へつなげている。

「練習でシュートを10本打ったら、10本すべて適当に打つことはありません。“入ればいいだろう”という中途半端な感覚で打っているシュートはないですし、なぜそのコースを狙ったのか、10本中10本に理由があります。練習では10本のうち8本とか9本入らない時もあります。でも、それを続けていると“なぜ入らないのか”という理由が明確に分かってきます」

 前述のゴールシーンについては、ランニングからトラップ、そしてシュートまですべてのイメージを明確に描けていたわけではない。DFやGKとの駆け引きを一つひとつ制した末の産物で、感覚を大切にして打ったシュートがゴールに変わった。

「DFのポジショニングやGKの位置を確認するという駆け引きが主な勝負でした。最後のシュートは、あの状態ではああいう質にするしかなかったという意味で、たまたまと言えるかもしれません。あくまでも相手との駆け引きがあったからこそ生まれたゴールで、感覚的な部分も大きかったと思います」

 月間ベストゴールに選出されたにもかかわらず「自分はシュートやキックが特別に上手いタイプではない」と謙遜する。

「自分はシュートを思い切り打って入るタイプではありません。頭を使わないといけない選手なので、タイミングや駆け引きを大切にしています。それを練習から繰り返しているので、試合の方が緊張感はなかったりもします。どうやってシュートを打てばいいのか、ある程度体に染み込まれているので、いい意味で力が抜けるんです」

 目標とするプレーヤー像も、1つの形にこだわらない。「僕には突出した能力がない。足が速いわけではないし、フィジカルが強いわけでもない」と前置きした上で、進むべき道を言語化する。

「すべてのアベレージを高くして、できないことがない選手。器用貧乏と言われるかもしれないけれど、アベレージが高くなればなるほど器用貧乏ではなくなる。1つでも誰かのストロングポイントを上回っていれば、それは傍から見たらストロングポイントになり得る。僕のことを見る人が10人いて、10人ともストロングポイントが違って見えたら、それはいい選手です」

 10のストロングポイントを持つ男。最後に、周りに評価されて最も嬉しいポイントを問うと、茶目っ気たっぷりに笑った。

「守備での貢献ですかね。そこを褒めてもらえるのが一番嬉しいです」

 今回届いた勲章も、渡邊凌磨にとっては1つの通過点にすぎない。

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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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