鹿島が辿り着いた勝利の秘訣…伝統的なスタイルに溢れ出た強者の風格 「華麗さはいらない」高度な戦い方

鹿島でプレーするディエゴ・ピトゥカ【写真:徳原隆元】
鹿島でプレーするディエゴ・ピトゥカ【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】5連勝の鹿島が名古屋戦で見せた強さ

 後半15分を過ぎたあたりから鹿島アントラーズの左サイドの攻撃が活発となっていった。この時点での得点差はまだ1。鹿島は最小のリードしか手にしていなかった。しかし、勝敗の趨勢(すうせい)はすでに鹿島に大きく傾いていた。それほどこの日の鹿島のサッカーには安定感があった。素早いパス交換とグラウンダーのスルーパスにサイドバック(SB)のオーバーラップを織り交ぜて、名古屋の守備網を突き破り猛然と攻め込む鹿島が見せた攻撃は、人々が脳裏に焼き付いている常勝と謳われた時のスタイルだった。

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 国立競技場に5万6020人の観客が集結したJ1リーグ第13節・鹿島アントラーズ対名古屋グランパスの一戦。ホームとなった鹿島はリーグ開幕からエンジンがかからず、低空飛行が続いていた。しかし、それまで勝ち点を得られなかったことを挽回するかのように、直近の試合で4連勝と息を吹き返し、大舞台の決戦に相応しい上位へと進出してきていた。

 勝敗は上昇気流に乗った勢いそのままに鹿島が2-0で勝利。連勝の始まりとなった4月23日の新潟戦の勝利は、強さへのインパクトをそれほど感じなかったが、この強豪・名古屋を撃破した試合内容は誰もが納得する完勝劇となった。

 カメラのファインダーに映った両チームの戦いぶりは試合開始から、その後の勝敗を予感させる違いが浮き彫りとなっていた。鹿島が見せたディフェンス陣を中心とした後方でのボール回しは実によどみなく、ミスなど恐れないといった雰囲気で自信に満ち溢れていた。対して名古屋は鹿島の積極的な姿勢に飲み込まれて受け身となり、後方でのパス交換におぼつかない印象を受けた。

 試合開始から躍動する鹿島の根幹をなしていたものは、やはり連勝しているという自信にほかならない。4月15日のホームゲームで神戸になす術なく敗れ、肩を落とした選手たちの姿はどこにもなく、強者としての風格に満ち溢れていた。

 鹿島は選手全員が前線へとボールを運ぶ意識が高く、攻守にわたってすべてのプレーにスピードがあり試合を支配した。先述したように後半15分ごろにはシンプルに局面を打開するパス交換から、チャンスと見ればグラウンダーを中心としたスルーパスを前線に供給し、ボールを受けた選手がさらに敵陣深くへと切り込み、ゴール前へセンタリングを供給するという、これぞ鹿島というサッカーがピッチで表現されていった。

 特に目を引いたのはダイナミックな突破を見せた左SBの安西幸輝と中盤の選手たちだ。樋口雄太と途中出場の佐野海舟は高い守備力を発揮し、名古屋に攻撃の糸口を作らせなかった。そのチームの心臓部を担った中盤にあって、もっとも存在感を発揮したのはディエゴ・ピトゥカだろう。

 味方の守備陣からボールを受けると素早く前線へとつなぎ、また時に味方が攻め上がるのを待ってパスを出すなど緩急を付けたプレーでチームをリードした。さらにチャンスと見れば自身がドリブルで攻め上がる、多彩なリズムでチームを牽引したプレーは、かつて中盤に君臨した小笠原満男を彷彿とさせた。

 ピトゥカも自身、チームともにこの日のプレーには納得の内容だったのだろう、試合後、サポーターへの挨拶の際にカメラを向けるとレンズを覗き込むように、心からの笑顔を見せていた。

 鈴木優磨らFW陣が積極的に前線から守備を行い、攻め込まれても守備中央のセンターバック(CB)が強力に相手のエースを封じて攻撃を跳ね返す。ボールを奪えば必殺のカウンターを仕掛ける岩政大樹監督も選手時代に経験したこのスタイルを、どうして今までやらなかったのかと不思議に思うほど、この試合の鹿島には安定感と力強さが漂っていた。

伝統的な鹿島スタイルは今もファンを魅了する

 岩政監督にしてみればタイトルから遠ざかったチームを立て直すには、これまでと同じやり方では進展はないと判断し、違ったアプローチで再生に取り組んだのだろう。

 しかし、結局は従来の伝統的な戦い方が、たとえ選手が代わり、時代を経ても最良のスタイルだったということだ。そのスタイルはシンプルであり、手数をかけて相手守備陣を崩すようなテクニカルなものではない。

 だからと言って激しい守備でボールを奪い、勝負どころを見極めて一気呵成に相手陣内へと攻め上がるこのスタイルが、見る人を魅了しないなどとは全く思わない。なぜなら派手さはないが選手たちに高い基本技術と戦術眼に、素早い判断力を必要とする高度なサッカーだからだ。

 鹿島には見せかけの華麗さなどいらない。そんなやわなサッカーなど必要ないのだ。チームに脈々と受け継がれてきたスタイルを行えば、これほどのダイナミックなサッカーが展開できるのだ。鹿島にとってJリーグ30周年を記念した注目の一戦で手にした勝利は、今後の戦い方の指標となる重要なものとなったことだろう。

 このスタイルを貫いた先には常勝と謳われた、かつての鹿島が見ていた景色が広がっているに違いない。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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