プレーオフのない“二期制”も一案? 世間を騒がせる“秋春制”のメリットとデメリット
【識者コラム】デメリットのほうが多かった秋春制が改めて議題に挙がる理由は?
開幕30周年を迎えたJリーグだが、ここ最近、世間を騒がせているのが”秋春制”の問題だ。欧州の主要リーグはほとんどが8月に開幕し、5月に閉幕する”秋春制”をとっており、移籍のマーケットもおおよそ、そのカレンダーに沿って動いている。
それに加えて2023-24シーズンからACLが9月開幕に移行。国際サッカー連盟(FIFA)から発表された新フォーマットのクラブワールドカップ(CWC)も通例のワールドカップ(W杯)と同じ6月開催となり、”秋春制”のシーズン終わりに合わせる形となる。
これまでも日本サッカー協会(JFA)の犬飼基昭元やJFA田嶋幸三会長、Jリーグ鬼武健二元チェアマンの呼びかけで、2013年や17年にもJリーグ理事会で”秋春制”の可否が話し合われるなど、何度か議題に上がっては立ち消えてきた。当初はメリットより明らかにデメリットのほうが多く、絵に描いた餅の感も拭えなかったが、今改めて議題に挙がるのは仕方がない部分もある。
今後も”春秋制”を続けていくにあたり、移籍問題だけでなく、ACLやCWCに参加するクラブのために、Jリーグの”日程くん”はかなりイレギュラーなアレンジを強いられることになり、対戦相手のチームも少なからず影響を受けることになる。また、日本人の場合は慣れてしまっているが、真夏日に試合を行うことでパフォーマンスの低下や選手の安全面なども問題視されるようになってきており、”秋春制”のポジティブな観点から語られることも増えてきている。
そうしたことも踏まえて、まず一般的な”秋春制”のメリットを考えると、日本人選手の海外移籍、外国人選手のJリーグ加入がスムーズになること。ACL参加クラブはシーズンを跨がずに大会を戦えて、Jリーグの日程も合わせやすい。新フォーマットのCWCもシーズンの閉幕からスライドできるため、参加クラブはそのままのメンバーで参加でき、対戦相手の調整にも困らない。
そうした国際的なカレンダーだけでなく、”秋春制”の方が猛暑の時期を回避しやすいメリットも考えられる。そして興行面でも、シーズン閉幕時やプレシーズンに海外のビッグクラブを招いて試合を行ったり、Jリーグのクラブが北米などで行われる大会にも参加しやすい。
WEリーグはいち早く秋春制を導入
北海道などは同時期に国際大会を開催したり、Jリーグのクラブが夏期のキャンプ地として使用するケースも多くなるはず。逆に北海道コンサドーレ札幌など、地元クラブはホームグラウンドでプレシーズンの調整ができるうえに、この時期の対戦相手に困ることがない。札幌の元社長で、寒冷地の事情にも詳しい野々村芳和チェアマンが、条件付きながら検討に前向きなのも、そうした”逆転発想”があるからではないか。
デメリットは言うまでもなく、冬場に寒冷地が積雪などで試合開催ができなくなること。試合だけでなく、屋外の練習場が使えずに、そうした地域のクラブはパフォーマンス面でも不利を受けやすい。そしてファンサポーターにとっても防寒は暑熱対策以上に厳しく、何より交通トラブルが起きやすい。
ただ、反対意見によく降雪の写真などが持ち出されるが、仮に”秋春制”が実現しても、おそらく日程が大幅に動くわけではなく、かなり長い中断期間が入る形になるだろう。もし秋春制に移行した場合、現在は多くのJクラブがキャンプを行っている沖縄や鹿児島、宮崎といった地域からは不安の声もあるかもしれないが、長い中断期間を考えれば、その時期のキャンプそのものは継続されると考えている。
いち早く”秋春制”を導入したWEリーグが、こうした日程で行われている。開幕戦は10月22日で、1月7、8、9日を最後に約2か月間のウィンターブレイクが入り、3月4日に再開。最終節が6月の10、11日となっている。新潟をホームとするアルビレックス新潟レディースは第7節と第8節がアウェーゲームだった。
ただ、このWEリーグの日程でも昨年12月24日のクリスマスに行われる予定だった、サンフレッチェ広島レジーナと新潟レディースの試合が、広島での積雪が理由で中止に。新潟レディースは大阪でキャンプを行いながら準備していたが、自分達のホームではなくアウェーで、改めて冬場のアクトデントに立ち会うことになった。”春秋制”だろうと、”秋春制”だろうと、12月開催というのは北海道、東北、北信越でなくとも、こうしたことが起こりうることが再認識させられた事例でもある。
現在のレギュレーションにおいても、札幌は沖縄キャンプから熊本キャンプに移行し、2月の開幕時は熊本から遠征するような対策を取っている。今年も熊本キャンプの打ち上げは3月10日だった。2月25日に札幌ドームで行われた神戸戦は事実上の遠征という形で行われている。もっとも熊本キャンプをスタートするにあたり、打ち上げ日は「未定」となっており、札幌の天気など、様子を見ながら柔軟な対応をしているのだろう。
現実的なプランはプレーオフのない“二期制”か
現在のJリーグで最北端の札幌は特殊な事例だが、北信越や東北のクラブも大小さまざまな対策によって現在のレギュレーションも成り立っているので、長い中断期間を取るにしても、Jリーグ側が、そうした対策をサポートするための予算を組んでいく必要はある。少なくとも”冬休み”の確保は必要になるが、中断期間が長いと、同一シーズンとして意識しにくい。WEリーグのクラブは開幕前の新体制発表とは別に、中断明けの前などに、新卒選手の加入会見を行ったりしている。
Jリーグでも実際は加入内定した時点で練習参加したり、特別指定選手として試合に出るケースも増えてきている。高校や大学の活動もあるが、もしかしたら卒業を待たずにプロ契約する事例が増えるかもしれない。そうなると高校サッカー選手権やインカレなど、いわゆる”風物詩”と言われる大会の関係者やファンから反発の声も出てくるかもしれないが、何より大事なのは選手たちがよりスムーズにキャリアを描いていくことなので、そこはいろいろな観点から向き合う必要がある。
簡単にではあるが、メリットとデメリットをまとめてみたが、個人の見解を言わせてもらうなら、このまま成り行きで”秋春制”に移行することには反対だ。強引にやってしまって、あとはなんとかするというトップダウン的な手法もあるかもしれないが、そうしたことは一方的な犠牲が出てくる。
実は筆者が最も現実的なプランとして考えているのが、プレーオフのない”二期制”だ。スポーツチャンネル「DAZN」がJリーグと10年間の大型契約を結ぶ前に、ビジネス的な問題をなんとか乗り越えるため、一時的に”二期制”が取られたが、前期王者と後期王者によるチャンピオンシップで年間王者を決めるという方式だったため、不公平感というのが大きな話題になっていた。しかし、ウルグアイやアルゼンチンなどでは前期と後期でそれぞれチャンピオンを決めてしまったら、それぞれ王者として称えて決定戦などは行わない。
もちろん昇格・降格だったり、ACLの出場権など、シーズンで評価するべき要素もあるので、タイトルのところだけ前期王者と後期王者をそれぞれ決めて終わりという方法に違和感を覚えるファンはいるかもしれないし、何よりお祭り気質の強い国なので「チャンピオンシップをやらないのはもったいない」という声も必ずや出てくると予想している。
どうなるにしても100%サッカーファンや関係者を満足させるソリューションというのはおそらくないなかで、リアルなところにどう向き合って、ベター、ベストを探っていくか。そのためには議論が必要だ。先にも書いたように筆者は”秋春制”推進論者ではないが、賛成派だろうと反対派だろうと、議論をすることが大事だ。国際的な状況の変化も、そうした必要性を加速させているのは確かだ。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。