闘将ドゥンガが語るJリーグ30周年と日本生活 最も「衝撃を受けたJリーガー」とは?

かつてブラジル代表やJリーグで活躍をしたドゥンガ【写真:Getty Images】
かつてブラジル代表やJリーグで活躍をしたドゥンガ【写真:Getty Images】

【インタビュー】日本行きを決めた理由は「日本サッカーをもっと闘争力のあるものにするため」

 1993年に開幕したJリーグは、5月15日に30周年を迎えた。「FOOTBALL ZONE」ではこの節目に合わせて特集を展開。1995~98年にジュビロ磐田でプレーし、日本サッカー界の発展に貢献した元ブラジル代表MFドゥンガ氏にスペシャルインタビューを実施した。(取材・文=藤原清美)

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 ピッチでのプレーはもちろん、チームに勝者のスピリットを植え付け、1997年のJリーグ優勝をはじめとする、ジュビロ磐田の黄金時代を築く立役者となったドゥンガ。ブラジル代表キャプテンとして1994年のアメリカ・ワールドカップ(W杯)で優勝した翌年の来日は当時、大きな驚きをもって迎えられた。

「僕は日本文化のファンだったんだ。それに、ブラジル代表のチームメイトだったジョルジーニョやレオナルドが、日本のことをすごく良く言っているのを聞いていた。そして何より、新しい挑戦に意欲が湧いた。というのも、ドイツやイタリアでは、僕は1人の選手に過ぎなかった。でも、日本では僕の経験のすべてを伝えることが求められたんだ。サッカーとは何かを示し、日本サッカーをもっと闘争力のあるものにするために。それが、日本に行くことを決意した理由だ」

ドゥンガが今だから話してくれたエピソードとは?【写真:本人提供】
ドゥンガが今だから話してくれたエピソードとは?【写真:本人提供】

テーマ:今だから話せる当時のマル秘エピソード

 意欲を燃やして臨んだジュビロ磐田での日々だが、当初はチームメイトたちとの衝突もあったと明かす。

「解決すべきことがいくつかあった。僕がジュビロに行った時、非常にいい選手たちがいたのに、あまり勝てずにいたんだ。勝利にこだわってさえいないように思えた。それよりも美しいプレーを披露することを楽しんでいた。僕は言った。『そうじゃない、目的意識のあるプレーをしよう。僕らはプロだ。勝ってこそサポーターに喜んでもらえるんだ』とね。

 例えば、名波(浩)は技術力が高く、ポジショニングもいい。ただ、もっと手の込んだプレーをしようとして、ミスを犯すことがあった。そんなある時、厳しい試合の中で得たチャンスに、ゴール前で綺麗に決めようとしてミスしたんだ。僕は怒鳴った。『格好悪いゴールなんて存在しない。重要なのはゴールを決めることだ』。それで、少し摩擦が起こった。彼はムッとして、仲のいい選手に何か言ったりしてね。のちに彼も理解したよ。監督になった今は、さらによく理解しているだろうけどね。彼が選手に怒鳴っているところを見たことがあるから(笑)」

 ドゥンガは「僕も急ぎ過ぎていた」と言葉を続け、当時を回想する。

「すべてのことをすぐにもチームに身につけて欲しくてね。当時の監督だったハンス・オフトが教えてくれた。『日本サッカーでは落ち着いて仕事をしないといけない。多くの場合、ピッチの中ではなく、外で丁寧に説明し、修正していくんだ』とね。勝矢(寿延)のようなベテランの選手たちも、一緒に食事をしながら、意見交換をしてくれた」

 多くのサポーターの印象に残っているのは、試合中、ドゥンガがチームメイトたちに怒鳴っている姿だろう。あの叱咤を通して、何を伝えようとしていたのか。

「集中しろということだ。選手たちは難しいプレーができたあとに、簡単なプレーでミスをしたり、疲れてくると、練習したことを忘れてしまった。試合中、瞬時に判断を下すためにも、もっと集中力が必要だった。最初は、そういう僕の姿勢を気に入らない選手たちもいたけど、結果が出るようになれば、彼ら自身が学ぶことに意欲的になった。僕と話をしに来て、その内容をメモしていたほどだ」

 ドゥンガが伝えたことは、プレーの技術や練習方法なども含めて多岐にわたった。

「福西(崇史)がノールックパスのやり方を聞いてきたり、山西(尊裕)がフリーキック(FK)の蹴り方を教えて欲しがったり、一緒にいろいろな練習をしたよ。もう一つ気になったのは『日本人はメンタルが弱いから』『決定力に欠けるから』と、心理的に足枷を作ってしまうことだった。できないと言われ続けると、信じてしまうからね。

 例えば、奥(大介)は疲れてしまうから90分プレーできないと言われていた。彼は18歳で、なぜできないことがある? それで、試合の最中に聞いたんだ。『奥、疲れたか?』。奥は『ノー!』と答えたから、僕は『それなら走れ! 走れー!』と言った。あの時から奥は90分プレーできるようになった。そんな風に、僕は1人1人に、自分の持つ力を信じさせたかった」

テーマ:衝撃を受けたJリーガー

「たくさんいるけど、1人挙げるとすれば、中山(雅史)だ。彼は練習に最初に出てきて、最後までやっていた。そして、1試合で何点決めようと…、実際にJリーグの1試合最多得点の記録まで作って、5ゴールを決めた時も、最後まで同じ姿勢でゴールを追い求めていた(注:1998年4月15日セレッソ大阪戦。9-1で勝利したなか、中山は5得点を記録)。

 彼にはカズ(三浦知良)という親友がいて、この2人のビッグネームが、良きライバルとして切磋琢磨していた。そうしながら、あの技術、集中力、強い意志を、若い選手たちに伝えたんだ」

ドゥンガから日本のサポーターへメッセージ【写真:本人提供】
ドゥンガから日本のサポーターへメッセージ【写真:本人提供】

テーマ:創成期と今の違い/日本サッカーの可能性

 ブラジルではなかなかJリーグの試合を見ることができないが、ドゥンガは今も日本を愛し、日本サッカーに注目し続けている。

「僕の時代、Jリーグは非常に強かった。1994年W杯で各国を代表した選手が30人近くいて、日本人は彼らから吸収し、急ピッチで成長していった。でも、日本代表はまだあまり経験がなかった。今は少し逆になっている。日本代表は強いよ。W杯に出場し続け、どの国とも対等に戦っている。欧州でプレーしている選手たちが、代表に戻った時に、学んだことを注ぎ込んでいるのも大きいはずだ。

 ただ、Jリーグは今、それほど強いリーグだとはみなされていない。それなら、何をすべきか。海外にいる選手たちが、ある年齢になって、Jリーグに帰ってくることができれば、さらに成長するのは間違いない。彼らには外国人のような言葉の問題もないから、自分たちの経験を若い選手たちに伝えられる。Jリーグは魅力的なリーグだ。スピード感があって、多くのゴールが決まる。すべてのスタジアムが素晴らしいし、サポーターの雰囲気は最高だ。選手やスタッフにあれほどのコンディションを与えられる国は少ない」

 ドゥンガは現役引退した後、2度にわたってブラジル代表監督を務めた。最高ランクの監督ライセンスも取得し、世界のどのクラブや代表の大会でも指揮を執る準備はできているが、「先のことは神のみぞ知る」とし、積極的に契約先を探そうとはしていない。

「現時点は、社会活動をしている。ドイツやイタリア、そして日本で学んだんだ。僕らは社会の一員だから、社会が必要としている時には、手助けをすることだと。特に、パンデミックが始まってからは『善行のセレソン』というチームを作って活動を広げた。運営が困難な子供たちの施設や病院、貧しい家庭に、食料や衛生用品を届けたり、炊き出しをしたり、路上生活者に寝袋を提供したり。老人ホームに行ってお年寄りとダンスをしたりもする。そういう活動で笑顔に出会うのは、また違った勝利だよ」

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 最後に、ドゥンガに日本のサポーターへメッセージを送ってもらった。

「日本でプレーして最初に感動したのは、スタジアムの雰囲気だ。いつでも満員で、サポーターの情熱が、僕らにプレーする喜びを与えてくれた。みんなは愛情と敬意、教養ある姿勢でサッカーを応援している。それは日本が世界に誇れることだよ。欧州やブラジルのように対戦相手に罵声を浴びせるのではなく、自分達のチームに良いエネルギーを伝え、もっと盛り上げることを大事にしている。

 同時に、対戦相手であっても、敵ではないことを分かっているから、いい試合のあとには拍手を送る。それは、日本のすごく良いところだ。僕はジュビロの輝かしい勝者の歴史の一端を担えたことに、そしてJリーグという素晴らしいリーグに関わることができたことに感謝している。この30周年が素晴らしい年になることを願っているよ。ガンバッテクダサイ、ミナサン!」

[プロフィール]
ドゥンガ/1963年10月31日生まれ、ブラジル出身。インテルナシオナル―コリンチャンス―サントス―ヴァスコ・ダ・ガマ(ブラジル)―ピサ―フィオレンティーナ―ペスカーラ(イタリア)―シュツットガルト(ドイツ)―磐田―インテルナシオナル。“闘将”の異名を取ったソウルフルなプレーでチームを活気づけたボランチで、ブラジル代表としてワールドカップ優勝も経験。磐田在籍4年間でJ1リーグ通算99試合16得点。リーグ優勝を果たした1997年にはMVPとベストイレブンに輝いた。

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藤原清美

ふじわら・きよみ/2001年にリオデジャネイロへ拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特に、サッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のテレビ・執筆などで活躍している。ワールドカップ6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTubeチャンネル『Planeta Kiyomi』も運営中。

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