熱気と緊張のFC東京×川崎が証明 Jリーグ30年の源…「心揺さぶる名勝負を生む力」
【カメラマンの目】サポーターたちが奏でる力強い声援に包まれた国立競技場
1993年5月15日に誕生し、ここまで30年の時を刻んできた日本のプロサッカーリーグ(Jリーグ)。当時の開幕戦同様に、J1リーグ第13節FC東京対川崎フロンターレの会場となった国立競技場は、サポーターたちが奏でる力強い声援に包まれていた。スタンドを彩った熱気と緊張を内包した観客は5万6705人。
Jリーグ30周年記念スペシャルマッチと銘打たれた試合の序盤、ペースを握ったのはホームのFC東京だった。試合開始からボールを敵陣へと運ぶ意識が強く、高度な連動性からチャンスを作っていく。攻撃の起点ディエゴ・オリヴェイラはジョアン・シミッチのマークに手こずっている様子だったが、渡邊凌磨や安部柊斗らが果敢に川崎ゴールへと迫る。
そして、前半12分に徳元悠平がJ1初ゴールとなる豪快なシュートを決めると、続いて25分にも安部が川崎ゴールのネットを揺らした。FC東京は前半に1点を返されたものの、後半は粘り強い守備で川崎の反撃を許さず多摩川クラシコで5年ぶりとなる勝利を挙げたのだった。
勝利に高揚したアルベル監督は、試合後にFC東京サポーターが陣取るスタンドへと駆け寄ると、これでもかと喜びを爆発させた。指揮官にしてみれば、この川崎戦前の2試合で連敗し、チーム状態が下降線を辿っていたため、注目度の高い一戦に勝利したことは上昇のきっかけになるはずだと感じたのだろう。連敗の流れを吹き飛ばす勝利に喜ぶアルベルの姿は実に印象的だった。
対して川崎だが、主力の海外移籍にも新たな選手の成長により高いチームレベルを維持し、好成績を収めて近年のJリーグを牽引してきたが、今シーズンは負傷離脱する選手も多く、苦しい戦いが続いている。
自己判断を突き通す鬼木達監督が見せる、四の五の言わず持てる戦力で全力を尽くす姿勢は、尊敬という言葉だけでは語れない、一種の美しささえ感じる。だが、それでも現実的にはチーム編成に苦しんでいることは否めない。
終盤に繰り広げられたせめぎ合い、森重が強引に割って入る場面も
その川崎は攻撃面でFC東京のペースに引っ張られるように、前半はボールキープからチャンスを作るいつもとは違い、素早く前線にボールを運ぶことを意識した速いテンポの攻めを見せていた。
0-2とリードを許す展開から、前半39分に宮代大聖が1点を返す。さらなる切り崩しにかかる川崎は、後半20分をすぎあたりからは、真骨頂と言える見る者を魅了する華麗なパスサッカーに切り替えて反撃に出た。
ただ、カメラのファインダーを通して繰り広げられた川崎の得意の戦法は決定打を欠いた。その理由は川崎の攻撃に冴えがなかったというより、ボールを保持されても厳しいマークによって決定的なプレーを生み出させなかったFC東京の守備陣の健闘が挙げられる。
1得点1アシストと攻撃面で光彩を放ち、チームを勝利へと導いた徳元。だが、FC東京の勝因は、彼を含めたフィールド守備陣の本来の仕事であるタイトなマークに加え、GKヤクブ・スウォビィクが見せたファインセーブと高いディフェンス能力によるところが大きい。
川崎の攻撃に対して中盤で小泉慶と東慶悟が、そして最終ラインではキャプテンマークを巻く森重真人が壁となって立ちはだかった。森重は自陣へと迫る川崎のドリブル突破を激しいマークで跳ね退け、対人でも存分に強さを発揮した。
残り時間が5分ほどと迫った終盤にはこんな場面があった。迎えた川崎のコーナーキック。山田新に向かい合うように東がマークに付く。山田の背後には小林悠と車屋紳太郎が並ぶようにポジションを取った。並ぶような位置を取られると、相手は一番前を除いて続く選手にはマークがしづらくなる。察するに小林と車屋は、山田と東が争う間隙を縫ってノーマークの状態になろうとしていたのだろう。
ここで森重は強引なまでに山田と小林の間に入り込み、敵の選手に万全の状態でボールにコンタクトされないように体勢を崩そうとする。試合終盤のゴール前はボールのある・ないに関係なく得点を狙う選手、それを防ごうとする選手。そんな相反した意志が交差する激しいせめぎ合いが展開されていった。
Jリーグ発足時に名を連ねていなかった2クラブ、30年の時を経て繰り広げた名勝負
このあとにも森重は大南拓磨と激しくコンタクトし、ペナルティーエリア内に上がったボールを弾き返す魂の込もったプレーを見せることになる。
こうして試合は2-1で逃げ切ったFC東京の勝利で幕を閉じた。だが、勝敗はともかくこの試合を見た多くの人々は、相手の長所を消すのではなく、両チームの選手が躍動し持ち味を出したピュアな戦いに感銘を受けたことだろう。
Jリーグ発足時には名を連ねていなかったFC東京と川崎だが、30年の時を経た今、リーグを代表するクラブへと成長し、これからも続くプロサッカーの歴史にこの2チームの名は記録されていくに違いない。
そして今回のような大観衆から発せられた声援は、選手たちをより奮起させ、好プレーや名勝負を生む力となるだろう。
もちろんゴール裏に位置するカメラマンだって、心を揺さぶられる熱き雰囲気のなかで撮影をしたいと思っている。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。