機材届かずVAR未実施を「ミス」で済ますのは危険 データ社会でJリーグが考慮すべき課題

JリーグにおけるVARの課題と解決策とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】
JリーグにおけるVARの課題と解決策とは?(写真はイメージです)【写真:徳原隆元】

【識者コラム】新潟×柏では手配会社のミスで機材が到着せずVAR未実施で試合開催

 ゴールデンウイーク最終日の5月7日、Jリーグで前代未聞の事態が起きた。J1リーグ第12節、アルビレックス新潟対柏レイソルでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の機材が届かず、結局J2リーグ以下と同じく4人の審判で試合が行われたのだ。

 会場のデンカビッグスワンスタジアムにVARの車両が届かなかった理由は、Jリーグから手配を依頼されている会社のミス。代替車を手配しても試合開始に間に合わないということで、VARなしで試合は行われた。

 この試合では後半11分、新潟がコーナーキックのボールをFW鈴木孝司がシュートし、ボールがゴールに入ったもののDF藤原奏哉がオフサイドでゴールにはならなかった。だが鈴木のシュートが柏DF立田悠悟の手に当たっており、本来ならPKとなってもおかしくない場面だった。

 この問題を「手配する会社のミス」「4人制レフェリーの限界」というだけで終わらせてはならない。実は今後、Jリーグが考慮すべき課題を含んでいる。

 そもそも各会場にVAR機材が搭載された車を試合ごとに配車するのは、それだけでリスクを生む。道路が混雑して到着しないということもあるだろうし、乗せている精密機械が振動で不調になることも考えられる。そして、いずれも代替手段がない。

 さらに機材の予備も必要となる。J2までVARを拡大するということになると20スタジアムで試合が開催される。ということは、機材を搭載した車を20台持っているだけでは済まないだろう。2割の余裕を見るとして24台、そのメンテナンスを毎週行うことにもなる。全国にメンテナンス拠点を作るか、メンテナンスができる人材を派遣することになる。

 さらに人員についても、移動が伴うということでリスクが生じる。機械と同じく、交通機関のトラブルや体調不良に対応できるようにしなければならない。しかもその派遣範囲が日本全国に渡るため、各地での人材を育成しないとバックアップできなくなる。

解決策のセントラル方式にも課題

 さまざまな懸案事項を考えると解決策はセントラル方式、拠点を決めて機材と人員を配置するということになるだろう。そうすれば、移動のリスクを減らすことができるし、機材も人も1か所に集められているため代替が効きやすい。また、移動に伴う身体的な負担も軽減できるはずだ。

 いろいろな懸案事項が解決できるセントラル方式でも問題はある。その最たるものはスタジアムと拠点とのデータのやり取り。品質のいい高速回線を手配しなければならない。しかも使用するのは試合開催日だけ。安くて早いインターネット回線もあるが、「ベストエフォート」と呼ばれる速度が安定しない回線では対応できない。

 速度固定の専用線の場合、接続する距離によって価格が変動するが、1Gbpsの場合、最低でも1回線ごとに月額100万円単位の金額がかかってくる。また価格は通信を行う区間の距離によって設定されていることが多いため、セントラル方式にして全国から集中させると費用としては膨大だ。この回線のコストが一番のネックになりそうだ。

 ただし、それでも今後VARが廃れることは考えにくく、むしろさらにいろいろなデータが必要になる方向のほうが考えられる。ということは、今回の問題をきっかけにしっかりと検討を始めたほうがいいのではないか。このネットワークインテグレーションができれば、全国規模でクラブを展開するJリーグにさまざまな恩恵を与えるはずだ。

 今回のVARが実施できなかった問題を個人の責に矮小化すると未来は見えてこない。まして、ハンドの反則を見落とすことになったレフェリーの問題ということにしてはならない。今回のことを元にして未来志向で対策を考えてこそ、失われた「1点」が大きな意味を持つということになる。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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