三笘薫ブライトンの練られたビルドアップ 名将ペップも絶賛…まるでJクラブの「擬似カウンター」
【識者コラム】ユナイテッド戦で目を引いたビルドアップ、中へ絞る「偽SB」も機能
延期されていたプレミアリーグ第28節ブライトン対マンチェスター・ユナイテッドが行われ、終了間際のPKをアレクシス・マック・アリスターが決めて1-0でブライトンが勝利した。翌節のエバートン戦は1-5で敗れたものの現時点で暫定7位、消化試合が2試合少ないので順位はまだ上がるのではないか。
ユナイテッド戦のブライトンはビルドアップが面白かった。
右サイドバック(SB)が負傷者続出なのでMFのモイセス・カイセドを急遽起用したが、そのカイセドと左SBペルビス・エストゥピニャンが中へ絞る「偽SB」として機能していた。センターフォワードのダニー・ウェルベックとトップ下のフリオ・エンシソがポジションを入れ替えていたのも興味深い。
2人のセンターバック(CB)とアンカーの3人が距離を近づけて三角形を作る。さらにアンカーの両脇にSBが寄る。5人を中央に近づけることで相手を集め、両ウイングへのパスコースを開ける狙いがあるわけだが、ユナイテッド戦では守備ブロックの隙間を通過させる縦パスからの攻め込みも何度か見せていた。
守備者の「門」の間にパスを通し、受けた選手がそれをフリック。じっくりと後方でボールを動かしながら、この縦パスから一気にスピードアップしてゴールに迫る。ウェルベックのポジションを下げていたのは、縦パスの受け手として期待したからだろう。
ちなみにFAカップに続いてアーロン・ワン=ビサカと対面した三笘薫は、前回は完封されたが今回は何度かチャンスを作っていた。ただ、ワン=ビサカの三笘への対応はかなり独特。大きく間合いを空けてパスカットを狙うような立ち方で、三笘のドリブルを奪おうとする間合いではない。瞬間的なスピードとリーチの長さがあるワン=ビサカでないと成立しそうにない守り方だが、三笘はちょっとやりにくそうに見えた。
選手たちを何割り増しか上手く見せる巧みなパスワーク、ゴールに迫る姿はまるで大分
マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督も絶賛していたブライトンのビルドアップは確かによく練られている。パスワークの技術も優れている。ただ、ロベルト・デ・ゼルビ監督の仕込みのおかげで上手く見えている部分もあるだろう。
かつて片野坂知宏監督が率いてJ3からJ1に駆け上がった時の大分トリニータがそんな感じだった。ビルドアップで相手を引きつけてからひっくり返す攻撃は「擬似カウンター」と呼ばれたものだ。ブライトンのじっくり引きつけてから縦パスを入れ、一気にゴールに迫る攻撃は当時の大分を思い起こさせた。
こうした練られたパスワークは、選手たちを何割り増しか上手く見せる。選手同士の距離感も短く、それがボールを動かした時の相手の対応を遅らせる効果があるが、距離の近さからミスも起きにくい。自分たちが上手くプレーできる距離感でやっているとも言える。
ただ、仕組みが分かって相手に対策されると、より個々の技術が問われていくだろう。アルゼンチン代表のマック・アリスター、エクアドル代表のカイセド、そして日本代表の三笘など、来季はビッグクラブに移籍するのではという噂は絶えない。補強に定評のあるブライトンだが、クオリティーをこの先も維持できるかどうかは微妙かもしれない。
今のところブライトンの攻撃は魅力的だ。アメリカン・フットボール的な計画性はプレミアリーグでも異彩を放っている。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。