浦和が背負う日本サッカー界での“責任” ACL優勝を呼んだ“解体”からの地道な積み上げ
【番記者コラム】ネームバリューのある選手獲得からバランスの取れた編成へ
浦和レッズは、5月6日に行われたAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦で、アル・ヒラル(サウジアラビア)に1-0の勝利。2戦合計スコアで上回り、3回目のアジア制覇を達成した。大きく見れば、2019年に同じ相手との完敗を喫したあとに解体的な出直しを図ったなかで、積み上げてきたことの成果が表れた。
浦和は19年の決勝でアル・ヒラルに0-1、0-2の2戦合計スコア0-3で敗戦。内容的にはもっと点差がついておかしくない試合だった。J1リーグでは残留争いに沈み、得失点差の非常に大きなアドバンテージがあったにせよ、最終節の時点で降格の可能性を残すようなシーズンだった。
そのシーズン最終盤に発表されたのが、翌年からの強化体制刷新だった。フットボール本部と呼称される部門が立ち上がり、クラブOBで長年GKコーチも務めた土田尚史スポーツダイレクター(SD)と、浦和でDFとしてプレーし、産業能率大の教授職を務めていた西野努テクニカルダイレクター(TD)の就任を発表。「3年計画」を立ち上げたが、そのワード以上に過去の浦和と違ったのが一貫してクラブがコンセプトを定め、それに沿った監督や選手の獲得を行うということだった。
その成果は、その体制刷新から4シーズン目になるなかで3人目のマチェイ・スコルジャ監督が率いているのにもかかわらず、全体的に見れば継続性が見られることだろう。この交代の間に、親和性を感じられないような変化が起こったわけではない。過去の浦和を見れば、ネームバリューのある選手を次々に獲得するものの、どのようなサッカーに落とし込めば共存できるのかの想像が難しいような編成や、すべての選手を入れ替えなければ機能すると思えないような全く違うスタイルへの監督交代もあった。その点でいくと、プロサッカーの世界である以上は監督や選手の入れ替わりは避けられないが、ベースとなるコンセプトを定めてきたことがチームのブラッシュアップにつながった。
その間には選手編成の方針も大きく変わった。主将のDF酒井宏樹やFW江坂任を獲得した2021年夏のウインドーのように、突如として移籍市場で獲得の可能性が浮上した実績ある実力者に対して素早く動いた事例はあるが、外国人選手では過去にほとんど例のなかったデンマークからの獲得になったDFアレクサンダー・ショルツはJ1でトップレベルの力を見せている。
今季加入のノルウェー人DFマリウス・ホイブラーテンもこのACL決勝で強烈な能力を見せた。また、チームの主力になっているMF小泉佳穂やDF明本考浩はJ2のクラブでのプレーから20代前半のうちに獲得。大卒ルーキーのMF伊藤敦樹が不動の軸になりつつあることなど、獲得パターンのバリエーションが増えたなかでもバランスの取れた編成になっている。
西野TDは「よく『北欧路線』と言われるが、それは特にない」と否定
土田SDは「この立場になった時に最初に掲げたコンセプトをベースに、ブレずにチーム作りをしてきたことの影響はあると思う」と話す。そして、西野TDはこれらの流れについて「主観だけに頼らず客観的に、科学的に分析したデータの活用も行ってきた。その点に関してはすごく進歩してきていると思う。それを理解して使えるスタッフ、コーチングスタッフもそう。強化(部門)の強化が大きなテーマだと思っていたし、これからもそうだと思う。その点に関しては、あまり表には出ていないが着実な成長をしているのではないか。まだまだやるべきことはあるという前提に、良くなってきていると思う」と語っている。
また、積極的に進めている海外クラブとの提携も、これらの動きの後押しをしている。オランダの名門フェイエノールトとは、コロナ禍で渡航もスムーズでなかった21年の春にFWキャスパー・ユンカーを獲得した際、締め切り日との時間の勝負になった時にはオランダでメディカルチェックを実施することで獲得が間に合った。また、ドイツ1部フランクフルトとの提携では昨年に国際親善試合を行った際に、スカウティングの部分や育成部門の協力も、フランクフルト側から言及された。アジアに目を向ければ、タイ1部ムアントンとも提携していることで、昨年のシーズン終了後に若手選手がまだシーズン中かつ寒冷な気候でないタイで練習参加する機会を得た。
こうした動きについて西野TDは「よく『北欧路線』と言われるが、それは特にない。広く情報を集めてクラブで精査して、可能性のあるところにオファーをして(選手を)取りにいくだけ。上手くいってないところもまだある。少しずつ進歩している実感はあるが、やるべきことはある。提携クラブとの積極的な交流では、お互いのためであって、どちらかがお金を払う一昔前の形ではない交流が上手く回ってきている」と話している。
浦和は国際舞台に出続ける「責任」がある
土田SDはその根底にあるものとして、浦和レッズが背負うべき責任があるとしてきたが、その点にも手応えがあるという。
「今回のACL優勝を今のチームが経験したこと。これは今後にも生きてくる。チームを作る上での大きなキーコンセプトである『浦和の責任』を大事にしてきたが、どれだけ伝わっているかと日々葛藤していた。アウェーにあれだけの方が足を運んで、あれだけの応援を下さった。ホームに帰ってきたら満員で、素晴らしい環境を作ってもらえた。その中で試合をした選手、監督はいろいろなことを感じたと思う。浦和の責任がこういうもの、こういう表現をしなければいけないと感じてもらえた」
過去にもGK西川周作らの多くの選手たちがACLによって得られる経験について言及してきた。西野TDもまた「ACLのアウェーを経験することがどれだけチームや選手を成長させるか。大舞台、国際舞台に出続けることの重要性を実感している。それがクラブとして背負う浦和の責任でもある。日本サッカー界でそういう立場に立って引っ張り上げないといけない責任もあると思う」と、その点に言及している。
さまざまな面で属人的な部分が強かったところから、浦和は大きく改革されてきた。このACL優勝は大きな成果ではあるものの、同時に通過点としてさらに発展していくことが期待される。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)