英記者が見た浦和のACL制覇 アジア王者だからこそ浮彫になった課題「今こそ国内の戦いに目を向ける時」
【識者の目】英国人記者がACL優勝の浦和のパフォーマンスに見解
浦和レッズはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝でアル・ヒラル(サウジアラビア)を撃破し、3度目のアジア制覇を成し遂げた。1-0の勝利、2戦合計2-1で優勝の座を掴み、本拠地・埼玉スタジアムには5万3374人の大観衆が駆け付けた。かつてアジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、昨年のカタール大会でワールドカップ(W杯)を7大会連続で現地取材した英国人記者のマイケル・チャーチ氏は、GK西川周作の好セーブを称賛。アジア王者として君臨する今こそ、国内タイトル獲得にむけて邁進すべきだと指摘している。
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浦和レッズが再びアジア王者となった。埼玉スタジアムのライトが光る夜はレッズの選手たちがアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のトロフィーをその頭上に掲げて終わることがもはや必然となっている。それはまるでルーティーンのようだ。
2007年の初優勝に始まり、2度目の優勝を飾った2017年以降も6年間で3度決勝に駒を進めている。2つの勝利と1つの敗北は全てアル・ヒラル相手のもの。レッズは再びアジアサッカーの頂点に立った。
しかし、浦和のアジアでの記録は国内リーグでのそれとは対照的だ。アジアではこれほど一貫して結果を残しているクラブが国内リーグではギド・ブッフバルト(彼のことを覚えているか?)が率いた2006年以来優勝から遠ざかっているというのはどうしてだろうか?
この6年間で3度もACLの決勝で戦った両チームの間には大きな相違がある。浦和も大陸レベルで輝きを放っているが、アル・ヒラルは国内外を問わず強豪チームとしてあり続けている。
アル・ヒラルのトップチームメンバーの内、12人は昨年末のカタール・ワールドカップ(W杯)にサウジアラビア代表として出場していた。そしてその内10人はW杯の歴史に残る大番狂わせの1つとなったアルゼンチン撃破の試合に先発あるいは交代要員としてピッチに立っていた。
その一方、浦和はベテラン、これからが期待される若手、堅実な外国人選手、そしてJリーグを離れて海外でプレーするには十分でなかったかもしれない、あるいはその意志がなかった選手たちで構成されている。
酒井宏樹はマチェイ・スコルジャ監督のメンバーの中で最近の日本代表に選ばれていた選手だ。彼の経験とクオリティーは際立っていた。また、興梠慎三の狡猾さと賢さも素晴らしかった。前半の浦和の決定機はこの2人のコンビネーションによるもので、興梠のボレーシュートは惜しくもクロスバーに直撃した。
リヤドでのファーストレグと同様にアル・ヒラルはボールを支配し、浦和のディフェンスにプレッシャーをかけていた。しかし、サウジアラビア代表FWサレム・アルダウサリが出場停止で左サイドの強力な武器を欠いていたこともあり、浦和はリードをしっかりと守ることができた。
浦和のディフェンスは素晴らしいサポーターの後押しを受け、アル・ヒラルの波状攻撃を防ぎ続けた。アレクサンダー・ショルツはオディオン・イガロのシュートをライン際でクリアし、西川周作は何度もピンチを救った。
光った西川の好セーブ 後押しとなった風
ファーストレグに興梠が得点していたこともあり、アル・ヒラルを0点に抑えるだけでもタイトル奪還には十分だった。しかし、後半にレッズは幸運と追い風を利用してアドバンテージをより確かなものとした。
浦和にリードをもたらした得点で決定的なタッチをしたのは不運にもアル・ヒラルのアンドレ・カリージョだったが、浦和の選手の背中を押した風も重要な役割を果たした。マリウス・ホイブラーテンのヘディングしたボールは空中で揺れ、それをカリージョが自分のゴールへと押し込んでしまった。
浦和を最も苦しめていたのもカリージョで、アル・ヒラルがボールを持った時にテンポを決めていたのも彼だった。だが、彼はミスを取り返そうとしたが、それはできなかった。
浦和も最後まで自分たちのやり方を貫けたわけではない。時間が過ぎていくなかで、西川は本能と反射神経を研ぎ澄ませておく必要があった。このGKは90分にイガロのシュートをファインセーブし、延長戦に持ち込ませなかった。
ピッチ上でもスタンドでも、浦和というクラブにとってアジアでの成功がいかに重要であるかを物語るようなセレブレーションが行われていた。優勝の情熱と喜びは試合終了のホイッスルと共に響いた耳をつんざくような歓声に凝縮されていた。
ACLのタイトルを手にし、浦和はJリーグのトロフィーに持続的に挑戦する時が来たといえるだろう。スコルジャ監督はチームを正しい方向へ導いている。アジアでの成功を経て、今こそ国内での戦いに目を向ける時だ。
マイケル・チャーチ
アジアサッカーを幅広くカバーし、25年以上ジャーナリストとして活動する英国人ジャーナリスト。アジアサッカー連盟の機関紙「フットボール・アジア」の編集長やPAスポーツ通信のアジア支局長を務め、ワールドカップ6大会連続で取材。日本代表や日本サッカー界の動向も長年追っている。現在はコラムニストとしても執筆。