久保建英、紆余曲折の「レアル対戦史」 3人抜き、不遇、酷評、大絶賛…“日本人初の偉業”への道程【現地発コラム】
通算8度目のレアル戦出場でついにゴールを決めた久保、マジョルカ時代には好プレー
スペインでの4季目が間もなく終わりを迎える久保建英は今季、完全移籍したレアル・ソシエダ(以下ソシエダ)でこれまでにない勢いで飛躍を続けている。現地時間5月2日のラ・リーガ第33節では昨季まで保有権を持っていた古巣レアル・マドリード(以下レアル)との8回目の対戦でついに初得点を記録。これにより「ラ・リーガのレアル・マドリード戦で得点を決めた最初の日本人選手」として歴史にその名を刻んだ。
そこで今回は改めて、今季新たな時代をスタートした久保がこれまでにレアルと対戦してきた歴史を、スペインメディアの当時の評価とともに振り返ってみようと思う。
久保はこの4年間、マジョルカ、ビジャレアル、ヘタフェ、ソシエダに所属してレアル戦通算8試合に出場。その成績は2勝2分4敗、1得点0アシスト。フル出場は2回あった。
最初2回の対戦はレアル加入後、期限付き移籍で所属したマジョルカ時代の2019-20シーズンだった。久保は2019年10月にホームで行われた第9節、後半14分に出番が訪れレアル戦デビューを飾った。しかしチームが1点リードし守備的に戦っていたことで、4-4-2の右サイドハーフに入った久保もほとんどの時間を守備に費やし、攻撃で輝きを発揮できず、スペイン紙「マルカ」、「AS」の評価はともに1点(最高3点)。マジョルカは1-0の大金星を挙げていた。
2回目の対戦は新型コロナウイルス感染拡大による中断期間を経て再開された2020年6月。加入から1年近くが経過し、ビセンテ・モレーノ監督指揮下で完全にレギュラーの座を勝ち取っていた久保は、アウェーで行われた第31節で7試合連続先発となり、3-5-2の前線でフル出場。チーム最多3本のシュートを放ち、なかでも3人抜きからシュートという圧巻のプレーが高評価された。
チームは0-2で敗れるも、積極的なプレーを見せた久保に対し、「マルカ」紙は2点、そして「AS」紙は最高の3点をつけ、「(レアルを相手に)気品、自信、勇気を持ち、率直に言って本当に素晴らしいプレーを披露した。その10代の容姿を信じてはダメだ」と年齢にそぐわないパフォーマンスを見せたことを大絶賛。期限付き移籍元のチーム相手に自身の存在を存分にアピールした試合となった。
続く2020-21シーズン、久保はさらなるステップアップを図りビジャレアルに期限付き移籍。3回目の対戦は2020年11月にホームで開催された第10節だったが、ウナイ・エメリ監督の信頼を得ることができず、出番は終了間際の後半44分からとなった。
当然のことながら時間が短く何もできず、試合は1-1で終了。不完全燃焼で終わった久保に対し、「マルカ」紙1点、「AS」紙は採点なしとした。またウナイ・エメリ監督はこの数日後、久保について「バレンシア時代のダビド・シルバに似たキャラクターを備えている」と言及しつつも、さらなる成長を求めていた。
活躍の場を求めたヘタフェ時代に思わぬ不運、マジョルカ復帰後には痛烈批判
不遇の時を過ごしていた久保は同シーズン後半戦、活躍の場を求めヘタフェに舞台を変える。4回目の対戦は2021年2月に延期されたアウェーの第1節だった。久保は後半10分から出場するも過去最低の出来に終わり、「マルカ」、「AS」両紙ともに0点と酷評。さらに「AS」紙は「完全に消え、プレーに参加していなかった」と手厳しく、チームも0-2の敗北を喫していた。
続く2021年4月にホームで行われた第33節、ヘタフェが残留争いの真っ只中で、ホセ・ボルダラス監督が守備的な戦いを選択したため、久保はベンチ入りするも出番なく終わり、チームは0-0で引き分けた。
1年間出番を得るのに苦しんだ久保は2021-22シーズン、マジョルカ復帰を決断。ルイス・ガルシア監督に即座に認められ、レギュラーの座を勝ち取ったが、5回目の対戦となった2021年9月にアウェーで開催された第6節で不運が訪れる。
久保は4-2-3-1の右サイドハーフで先発出場し、果敢に攻めて2本のシュートを打つが、前半途中に右膝半月板を負傷し、ハーフタイムに途中交代を余儀なくされる。その後の検査でスペイン移籍後初となる全治2か月もの重傷を負うことになった。
久保の前半のみのプレーに対し、「マルカ」、「AS」両紙ともに評価は1点。またクラブの地元紙「ウルティマ・オラ」は「姿が見えなかった。所属元のクラブと対戦するもほとんど何も発揮できなかった」と辛辣だった。チームは1-6の惨敗を喫していた。
続く6回目の対戦となった、2022年3月にアウェーで開催された第28節、久保は4-4-2の左サイドハーフでスタメン入りし、後半33分までプレーしたが、相手に好き放題やられてしまい、チームは0-3の完敗。自身も際立つパフォーマンスなく終わったことで、「ウルティマ・オラ」紙は「何度もトライしたがほとんど何もできずに終わった。現時点で決定的な存在になれておらず、ほとんど何も貢献していない」と痛烈批判。一方、「マルカ」、「AS」両紙の評価はともに1点だった。
ソシエダで躍動、スペイン紙も絶賛「1対1でその技術のすべてを発揮」
今季、移籍金650万ユーロ(約9億7500万円)で強く求められたソシエダに完全移籍を果たした久保は、イマノル・アルグアシル監督指揮下で日々進化を遂げていく。そして2023年1月にアウェーで行われた第19節で7回目の対戦を迎えた。
シルバ不在の中、ダイヤモンド型の4-4-2のトップ下に入り、レアル戦2回目のフル出場を達成。前半は守備に追われたが、後半、システムが4-3-3に変更され、右ウイングにポジションチェンジしたことで好プレーを連発。試合はスコアレスドローに終わったが、「マルカ」紙は2点、「AS」紙は最高の3点をつけ、クラブの地元紙「エル・ディアリオ・バスコ」紙は「1対1でその技術のすべてを発揮し、敵陣深く切り込みチャンスを作り、クルトワ相手に何度もトライした」と大絶賛した。
8回目の対戦となった今回のホーム第33節、久保は4-3-3の右ウイングで先発出場。後半2分にエデル・ミリトンが犯したティボー・クルトワへのパスミスを見逃さず、レアル戦でついに初得点を記録。「ラ・リーガのレアル・マドリード戦で得点を決めた最初の日本人選手」という称号を手に入れ、チームを2-0の勝利に導いた。「マルカ」、「AS」両紙の評価は2点だった。また試合後に久保は「難しい試合で得点しチームの勝利に貢献できるのは、選手として自分の理想像だった」と満足げに話し、「今日はこれ以上ない出来だった」と手応えを感じていた。
久保はこれまで決定力不足が度々指摘されてきたが、レアル相手に8試合目でようやく得点を奪ったことは、その点が今季大幅に改善されていることの証と言えるだろう。またこのゴールは1シーズンの自己最多記録を更新する今季通算8得点目。ラ・リーガの得点ランキングでマルコ・アセンシオ(レアル)などと並び16位につける十分立派なものである。
今年6月4日に22歳の誕生日を迎える久保はレアル戦後、「来季も100%レアル・ソシエダの選手」と宣言済み。そのためスペイン5年目を迎える来季、出場権獲得が間近に迫るUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の舞台でさらなる進化を遂げた久保の勇姿が見られることを心待ちにしたいと思う。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。