「卒業単位の関係で無理」 Jリーグの秋春制移行問題、現役監督が指摘する考慮すべき問題
【識者コラム】青森山田高を長年指揮し、現在は町田を率いる黒田監督が見解
Jリーグは4月25日、現在の「春秋制」から「秋春制」に移行する案を検討して、年内に結論を出すと発表した。
「秋春制」は、現在のJリーグが2月開幕/12月初旬閉幕なのに対して、7月末から8月初旬に開幕し、5月末〜6月初旬に閉幕、12月中旬頃から2月初旬までを中断期間とする案になっている。
メリットとして考えられるのは、「(1)ヨーロッパとシーズンが同じになるので海外移籍、あるいは海外からの選手獲得ができやすい」「(2)ヨーロッパの日程を中心に考えられているインターナショナルマッチデー(IMD)を考えると、Jリーグの盛り上がる時期が日本代表の活動時期とずれる。現在はリーグ終盤の9月、10月、11月にIMDがあり、優勝争いの最中に中断がある」「(3)暑い時期の試合を避けることができる」「(4)アジアチャンピオンズリーグ(ACL)が秋春制に移行するのに対応できる」などが考えられる。
デメリットとして考えられるのは、「(1)豪雪地域の開催が難しくなる」「(2)移行時の試合が開催されない時期」。前年度の12月にシーズンが終わり、7月末〜8月初旬に開幕する時の半年分の収入をどう確保するかという問題がある。
この「秋春制」案はJリーグ発足後何度か検討され、そのたびに否決されてきた。ただし今回具体的な日程が示され、現在のリーグがない12月初旬〜2月初旬がほぼ外れていることを考えると、一見反対する理由は減ったように思えるかもしれない。
だが、Jリーグのシーズン移行は、Jリーグの問題だけではない。ほかのカテゴリーにも多大な影響を与えるのだ。
特に考えなければならないのは高校や大学だろう。この点について、28年間青森山田高校を率いて数々のタイトルを獲得し、現在はJ2のFC町田ゼルビアを率いる黒田剛監督は、高校を率いていた時の経験を明かしてくれた。
「海外のクラブから選手へのオファーが来ました。でも3年生の6月に加入してほしいという。それは卒業単位の関係で無理なんです」
Jクラブが秋春制に移行すると同様のケースは出てくるはずだ。卒業後にJクラブに入ろうとすると、リーグ後半戦から加入することになる。新人がシーズンの途中から合流しても、チームも本人も戸惑うことだろう。学期と合わせてリーグ戦が開催されている現状を変えることも考えなければいけない。
「秋春制の学校をどうするかという問題は、Jリーグや日本サッカー協会を超えて、文部科学省まで含めて考えなければいけないと思います。それだけサッカーが大きな存在になってきたということかもしれません」(黒田監督)
Jリーグは早ければ2026-27シーズンから移行を検討している。2026年アメリカ・メキシコ・カナダワールドカップ(W杯)の開催が6月11日から7月19日になっているので、その後新シーズンをスタートするのがスムーズという考えだろう。
それならば、すぐにでも大きな議論を始めなければいけない。そして、それだけの大きな問題ということを広く知らせることが最初かもしれない。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。