伸びしろを残した状態での決勝戦 浦和、3度目のACL制覇で目指す「最大級の成功体験」
【番記者コラム】スター軍団体制からの脱却
浦和レッズは3回目のアジア制覇を目指し、5月6日に行われるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝第2戦でアル・ヒラル(サウジアラビア)と対戦する。そのチームのサイクルを見れば、2007年の初優勝、17年の2回目の優勝とは違ったタイミングで頂点を狙っている。
浦和は07年のACLでアジアを初めて制した。この当時のチームは03年にヤマザキナビスコカップ(現ルヴァンカップ)の優勝でクラブ初タイトルを手にしたところから、04年にステージ優勝、05年に天皇杯、06年にリーグ優勝と天皇杯を獲得。毎シーズン何かのタイトルを獲得する黄金時代と言え、選手編成は「スター軍団」と言えるようなもの。まさにサイクルの頂点から成熟期にあるチームがアジアに挑んでいった。
2回目の優勝だった17年は、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が率いて6シーズン目に入っていた。ACL出場も重ねながら、いわゆる“ミシャ式”に合わせた選手補強も積み重ねた。リーグ戦の成績不振で夏に監督交代となると、あとを継いだ堀孝史監督はミシャ時代の遺産を生かしながらチームを微調整。両者の合作のようなチームで頂点に立ったが、足掛け6年のサイクルは終焉を迎えようとしていたところ。その集大成というニュアンスがあった。
翌年からの浦和は選手編成に前体制の名残が色濃く残るなかでも監督を次々に交代し、選手のカラーも監督の特色もアンバランスになった無理のあるチームになっていった。それでも19年のACLは勝ち進んだが、このチームの力が本物と言えたかどうかはJ1で残留争いをしていたことが物語る。決勝のアル・ヒラル戦ではそうした歪みがすべてピッチに現れるような、手も足も出ない内容の試合で完敗するに至った。
このシーズンを持って、浦和は強化部門が大きく改革された。フットボール本部が立ち上がり、チームの方向性をクラブが定めるもの。つまり、予算の許すまま多くのスター選手を集めた個人能力に優れた集団をカリスマ性のある監督に預けるのでも、監督に方向性まですべてを預けて要望に最大限コミットした選手補強をするのでもなく、クラブが方針を定めてそれに合わせた監督、選手を獲得していくという本来サッカークラブのあるべき姿とも言える方向への改革を始めた。これを浦和は20年からの「3年計画」と呼称した。
過去と比較すると今回はチームのサイクルでは前半部分
そのトップチームの強化責任者に就任したクラブOBの土田尚史スポーツダイレクター(SD)は、契約年数の関係もあり選手の入れ替えが簡単ではないと話した立ち上がりながら、「浦和の責任」というワードを投げかけて意識改革をするとともに、ピッチに目を向ければ「個の能力を最大限に発揮する」、「前向き、積極的、情熱的なプレーをする」、「攻守に切れ目のない、相手を休ませないプレーをする」というコンセプトを掲げた。
前年途中から指揮した大槻毅監督の続投になったが、プレシーズンのキャンプから現代サッカーのベースにあるポジショナルプレーにあたる要素やプレッシングの整理などが始まった。のちに「3年計画の最初のところでベースに戻すというか、針をしっかりとゼロに近づける作業は必要だった。その中でサッカーのベースとなる強度や走ることだけではなく、しっかり判断するということをベースの部分で共有するという作業が、特に初期で必要だった」と話したように、この大槻体制はリセットと整理の意味合いが強かった。
そして、翌年にリカルド・ロドリゲス監督を招聘したチームは、大きく世代交代を進めながら選手を入れ替えていった。西野務テクニカルダイレクター(TD)の存在感が大きかったシーズンでもあり、スカウト方針のベースになる評価軸は最新鋭のものが導入された。外国人選手の獲得では特定の代理人に依存しなくなり、日本人選手もJ2で頭角を現したMF小泉佳穂やDF明本考浩といった現在の主力も加入している。彼らもまた、クラブが主導するコンセプトに合致する選手として獲得に動いた選手たちだった。さらにDF酒井宏樹らの実績ある選手もピンポイントで補強し、チーム編成はバランス感覚を取り戻す。主将を務めたMF阿部勇樹の引退、DF槙野智章らペトロヴィッチ監督時代からの主力が退団する中でも天皇杯を優勝し、今大会への出場権を勝ち取った。
そして昨年はロドリゲス監督の下でACLのグループステージと東地区決勝トーナメントを突破。リーグ戦では思うように成績が伸びずに呼称としての3年計画は終えたものの、マチェイ・スコルジャ監督を招聘した今季もクラブが掲げるコンセプトは変わらずに継続性を持ちながらチームをブラッシュアップしている。開幕2連敗こそしたものの公式戦11戦無敗で決勝戦に臨んだ。そうした観点で見れば、この決勝戦は過去と比較すると明らかにチームのサイクルでは前半部分にあたる。まだまだ伸びしろを残した状態でたどり着いた決勝戦だ。
このアル・ヒラルとの第2戦は今大会のラストゲームであり、タイトルの懸かった大一番だ。しかし、ゴールインの1試合という感はあまりない。アジアの頂点を目指す舞台で完膚なきまでに叩きのめされ、解体的に出直して右肩上がりの曲線に乗った過程でたどり着いた。むしろ、この決勝戦とタイトルを経験することでチームがどこまで成長するのかを楽しみにさせる部分が大きい。浦和にとって4回目の決勝戦になるが、こうした迎え方は今までにないものだろう。その意味でも、優勝してアジア王者に名を残すことはクラブの歴史の中でも最大級の成功体験と言えるものになるはずだ。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)