レアルの「RBV」トリオが特別な訳 明確な序列が生み出すスタイルの補完性

レアルの「RBV」トリオ。左からベンゼマ、ロドリゴ、ヴィニシウス【写真:Getty Images】
レアルの「RBV」トリオ。左からベンゼマ、ロドリゴ、ヴィニシウス【写真:Getty Images】

【識者コラム】ロドリゴ、ベンゼマ、ヴィニシウスのトリオの機能性は抜群

 数年前は「BBC」、今は「RBV」。スペイン1部レアル・マドリードの3人のFWの頭文字である。かつて猛威を振るった「BBC」はベイル、ベンゼマ、クリスティアーノ・ロナウド。それに匹敵する現在のトリオがロドリゴ、ベンゼマ、ヴィニシウスの「RBV」というわけだ。

 FCバルセロナにはメッシ、スアレス、ネイマールの「MSN」があり、フランス1部パリ・サンジェルマンはメッシ、ムバッペ、ネイマールの「MMN」。「RBV」はこれまでの3文字攻撃トリオと比べると少し地味な感じはするが、機能性は優るとも劣らない。

 こういう3人のスーパースターを並べる場合、序列がはっきりしていたほうが上手くいく。「BBC」のエースはロナウドで、「MSN」はメッシだった。パリSGの「MMN」が今1つ真価を発揮しきれていないのは、誰かが欠場したりコンディションを落としているケースが多かったとはいえ、序列が明確でなかったことも要因だろう。その点、「RBV」は序列がはっきりしている。

 エースはベンゼマだ。「BBC」ではロナウドの脇役に徹していたが、「RBV」では紛れもなく主役である。ベンゼマ35歳に対して、ロドリゴとヴィニシウスは22歳と年齢とキャリアに差もあるわけだが、それ以上にロドリゴとヴィニシウスは得点力もあるがアシスト役が合っていて、ゴールゲッターのベンゼマと相性がいいのだ。さらにロドリゴとヴィニシウスのプレースタイルも違っている。

 先にベンゼマとの関係を確立したのは、左ウイングのヴィニシウスだった。縦突破とカットインの両方ができて、瞬間的に抜け出すスピードが抜群。特に縦の突破は相手のDFを動かすので、中央でベンゼマがマークを外すのに好都合だった。2人のコンビネーションも良く、ベンゼマのアシストからのヴィニシウスのゴールもある。ただ、メインはヴィニシウスのパスをベンゼマが沈めるという関係だ。

ヘントとディ・ステファノの関係性と共通点

 機能性が明確なヴィニシウスと違って、ロドリゴは少し分かりにくい。ポジションは右ウイングだが、サイドに張り出しているよりも中央でプレーする。ブラジルの「10番」タイプなのだ。どこでパスを受け、そこからどうフィニッシュへつなげるか、そのイメージを持っている。

 どの相手からも捕まりにくい中間ポジションで受け、そこで相手の様子を見て逆をついていく。ブラジル伝統のタベーラ(壁パス)を受け継ぐアタッカーだ。狭いスペースをするすると抜け出し、相手の守備バランスを崩していく、そうしたロドリゴのプレーはヴィニシウスのドリブルのような分かりやすさはない代わりに、対人の優劣に影響されない威力がある。少し時間はかかったが、ロドリゴのプレースタイルはチームに組み込まれるようになって一気に存在感を増した。
 
 レアルの最初の黄金時代、左ウイングのヘントとCFディ・ステファノが名コンビを形成していた。世界最速と言われたヘントとディ・ステファノの関係はヴィニシウスとベンゼマの関係と同じだ。

 その後、ハンガリーのスーパースターだったプスカシュが来て、こちらもディ・ステファノと無双のコンビとなるのだが、プスカシュとディ・ステファノはあまりにもキャラが被っていたので当初は成立しないのではないかと危惧されていた。どちらもプレーメーカー兼ゴールゲッターなのだ。関係を築くために譲歩したのはプスカシュだった。互いに得点王が懸かった最終節、プスカシュは絶好のシュートチャンスでディ・ステファノにパスして得点王をプレゼント。これで2人の信頼関係は揺るぎないものとなり、その後プスカシュはディ・ステファノの援護を受けて4回の得点王を獲った。

「RBV」は、スーパースター同士にありがちな意地の張り合いやエゴの衝突がない。その機能性同様に関係性もスムーズであるようだ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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