今季Jリーグの主役? 横浜FM×名古屋、鬼気迫る“決定的瞬間”に見るハイレベルな攻防
【カメラマンの目】中谷進之介のクリアは名古屋守備陣の力強さを象徴する瞬間
強力な守備網を敷いた名古屋グランパスと最後まで勝負を諦めなかった横浜F・マリノスの上位対決はともに譲らずドロー決着に終わる。
試合後、迫力ある声援でチームをスタンドからサポートした、12番目の選手たちに挨拶へと向かう米本拓司からは悔しさが滲み出ていた。虚空を仰ぎ嘆息するその表情が語っていたものは、試合に勝てたはずだという悔しい思いだったに違いない。
上位対決となったJ1リーグ第10節横浜FM対名古屋の一戦は、名古屋が主導権を握り先制点を挙げたが、後半に同点とされ引き分けに終わることになる。米本の落胆した表情はプランどおりに試合を進めながらも、それに見合う結果が残せなかったことを表していた。
だが、1失点を喫し勝利を挙げることができなかったとはいえ、名古屋が敷いた守備網は実に強力で目を見張るものがあった。米本と稲垣祥は素早いマークと激しいスライディングタックルで横浜FMの攻撃の芽を摘み、中盤で抜群の存在感を発揮した。最終ラインも強力な守備網を形成し横浜FMの攻撃に対応した。
その守備陣の奮闘ぶりは、試合終盤にカメラで切り取られた、中谷進之介が必死にボールをクリアする姿に表れていた。まさに鬼気迫る表情であり、名古屋守備陣の力強さを象徴する瞬間だった。
守備からリズムを作っていった名古屋は、前半41分に森下龍矢のゴールで先制。対する横浜FMは名古屋の強力なディフェンスに手こずり劣勢の展開を強いられることになる。しかし、状況打開に向けて手をこまねいているわけではなかった。
前線のエウベルとマルコス・ジュニオールは、劣勢の展開のため目指すゴールを背に、さらにマーカーに付かれた状態で、後方に位置する味方からボールを受けることが多かった。そこで2人はマーカーにボールを奪われないようにするために、ワンタッチダイレクトプレーで味方へとつなげ、突破口を開いていく。しかも、バックパスで逃げるようなボールのつなぎではなく、より前線の選手へ渡そうと果敢に相手守備選手との接近戦の勝負に挑んでいった。さらにマーカーの隙を突いて単独でのドリブル攻撃を見せるなど、ゴールへのチャンスを作り出そうとする姿勢と技術はさすがと言えた。
エウベルを中心に仕掛けた横浜FM、名古屋のぶ厚い守備網をこじ開けてゴール
ただ、高い個人技を持つブラジル人選手でも1、2本とパスはつなげられたが、最終局面へと迫ると名古屋の守備は苛烈を極めゴールまでは到達できなかった。後半に入ると少しずつ名古屋のプレッシャーに根負けするように、攻めのパスは減っていくことになる。中盤以降の選手もパスの出しどころを見つけられず横に逃げるパスが増えていった。
こうした苦しい状況の打開策となったのが、個の力とフレッシュな選手の投入だった。横浜FMは残り25分ほどとなってから次々と選手を交代させ、エウベルを中心に各選手が単独でのドリブル突破を多用し、名古屋守備陣の切り崩しにかかる。
それでも名古屋は分厚い守備網で対抗し1-0の逃げ切りを図る。シャッターを切ったなかの1枚には、エウベルが敵の4選手に囲まれている写真もあり、名古屋の守備陣は高い集中力を保ち続けた。
ここで横浜FMが並のチームだったら、劣勢の展開を挽回していったものの決定的な攻め手を見つけられず、試合の流れどおりに名古屋の勝利で終わっていただろう。
しかし、横浜FMは劣勢となりながらも、名古屋同様に高い集中力を保ち執念でゴールをこじ開ける。後半27分にエウベルのパスから喜田拓也が決めて同点とする。そのままスコアは動かず引き分けに終わったのだった。
試合後の米本の表情が語っているように、全体的な内容から言えば試合は名古屋のペースで進んだ。名古屋は強力な守備力に加え、パワーファイターでありながらテクニシャンでもあるマテウス・カストロを中心とした攻撃陣も充実しており、攻守にわたってバランスの良いチームに仕上がっている。
横浜FMも名古屋の激しいマークの前に屈することなく、粘り強く戦って勝点を挙げる底力を見せた。何よりこの試合では威力を発揮できなかったが、エウベルと水沼宏太によるサイド攻撃からの得点というパターンも持っているのが強みだ。
浦和レッズがACLアジアチャンピオンズリーグ(ACL)決勝を戦い、リーグ戦を消化していないため暫定となるが、第10節を終えた時点で名古屋は3位。横浜FMも4位と好位置につけている。両チームとも戦い方に明確な方向性を持っているだけに、順位どおりこれからもリーグの主役となっていくことは間違いないようだ。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。