浦和、完敗の19年ACL決勝と何が違う? 宿敵アル・ヒラルと再戦…「コテンパン」の敗戦からリベンジへ
【J番記者コラム】19年ACL決勝で悔し涙、当時と現在を比較
J1浦和レッズは4月29日、敵地サウジラビアでアル・ヒラルとのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)の決勝第1戦に臨む。2019年の決勝で「コテンパン」の敗戦を喫したところから、完全な出直しを図って辿り着いた舞台になる。
浦和は07年と17年にアジア制覇を果たした。ACLへの思い入れのあるクラブとサポーターは19年も必死の戦いを見せ、決勝戦まで進出した。しかし、その舞台では17年の決勝で倒したアル・ヒラルに手も足も出なかった。
アウェーでの初戦ではほとんどハーフコートゲームのようになったところを、初戦が出場停止だったGK西川周作に代わって出場したGK福島春樹が必死のセービングを見せて0-1で終えた。何もさせてもらえないような試合展開ではあったが、まだこれは「アウェーだから」と納得させることもできた。しかし、第2戦のホームゲームでは過去に起こしてきたような埼玉スタジアムでの逆転劇を見せるどころか、横たわる大きな力の差を感じることになった。
元イタリア代表FWセバスチャン・ジョビンコ、元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミス、ペルー代表MFアンドレ・カリージョといった外国籍選手のトリオは確かに強烈だった。カリージョの突破に、この年の夏に欧州移籍から復帰したMF関根貴大は吹っ飛ばされた。こんなシーンは国内のゲームで見ることはなかった。
それだけでなく、サウジアラビア代表選手が大半の彼らにとっての「国内組」との差も際立った。追いかける展開でのホームゲームでシュート本数は4対13で相手が多い。0-2のスコアながら、例えばゲームの中で「あのシュートが入っていれば」といったような思いにすらなれないほどだった。
試合後、FW興梠慎三は「皆さんも見ていて分かったと思うけど、個の能力は向こうが上回っていたと思う」と話し、当時の主力DF槙野智章は「ACLでこういうことはあまりなかったんですけど、久々にコテンパンにやられてしまった」と、完敗を認めざるを得なかった。
その時に置かれたチームの流れは、12年に就任した「ミシャ」ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督が攻撃的なサッカーでリーグ戦の安定した優勝争いができるチームにしていたところから、成績が落ち込んだ17年夏に契約解除。ACLは後任の堀孝史監督が「微調整」で乗り切ったところから優勝にまで導いた。
しかし、翌年にウイングを置いた3トップを堀監督が志向し、軌道に乗らず3月末で契約解除になったあたりからチームは迷宮に入り込む。後任のオズワルド・オリヴェイラ監督は鹿島アントラーズでリーグ3連覇の実績を持つが、ミシャとはどう見ても持ち味とするサッカーが逆方向。経験ある智将はミシャの遺産を生かしつつ鹿島時代とは違う3バックで天皇杯を制して19年のACL出場権を獲得したが、一貫性のない方針と中期的なビジョンも感じない場当たり的な選手補強も繰り返したチームは歪みが隠せなくなっていた。
昨季までの延長線上にある進化も見せつつこの決勝戦へ
つぎはぎを繰り返していたサイクルの終焉は明らかで、浦和はアル・ヒラル戦の完敗を受けて翌年からの「3年計画」を発表。強化に特化したフットボール本部を立ち上げ、土田尚史スポーツダイレクター(SD)、西野務テクニカルダイレクター(TD)が就任し、監督に丸投げするしかなかった強化スタイルからの脱却を目指し、クラブが定めたコンセプトをベースに強化を進める方針に切り替えた。
そこから、長年チームを支えてきたMF阿部勇樹の引退をはじめ、多くの主力が入れ替わっていった。J2で光るものを見せた若手の獲得も多くなったが、デンマーク代表歴を持つDFアレクサンダー・ショルツの獲得など、特定の代理人に依存していたような外国籍選手のスカウト方針も大きく変わった。
その3年計画では、大槻毅監督が初年度に4-4-2を導入して現代的なサッカーの基礎を「時計の針をゼロに近づける作業」として植え付け、翌年から2シーズンは世代交代が一気に進む過程でリカルド・ロドリゲス監督がポジショナルプレーの浸透をベースに戦った。すべてが理想的な成績を残したわけではないが、ロドリゲス監督の指揮下で21年の天皇杯優勝で出場権を掴んだ今大会は、昨年にグループステージと東地区決勝トーナメントを突破した。
そして今季、フレーズとしての3年計画は終わったものの、継続性も1つのテーマにマチェイ・スコルジャ監督を招聘したチームは、繰り返されてきた監督交代を伴う解体的なリセットではなく、昨季までのベースも生かしつつ守備の整理や多少のシンプルさを攻撃に与えること、あるいはピッチ上での配置の転換を選手主体で行えるようになったことなど、昨季までの延長線上にある進化も見せつつこの決勝戦に臨む。
そうした意味では、チームの発展や強化がサイクルの最高地点に達したタイミングとは言えないかもしれないが、完全な出直しを図ったところから右肩上がりの成長曲線の中で辿り着いた舞台と言える。強豪アル・ヒラルは簡単に勝利を想像させてくれるような相手でもないが、過程は19年の決勝戦とは全く別物。その浦和がどんな戦いを見せてくれるのかは、未来につながる楽しみも十分に感じさせるものだ。
(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)