植田直通が「ネガティブになっていない」訳 常勝の「強い鹿島」に戻るためのプランは?
【識者コラム】若手選手を食事に連れて行き、チームの団結を高める魂の男
鹿島アントラーズは4月25日、オフ明けの全体練習が約70分で終わると、その後は個別練習になった。植田直通は若手選手たちとしばらく身体を動かすと、17時15分過ぎにはクラブハウスに戻っていった。
2023年、フランスから植田は古巣に戻ってきた。鹿島は2022年、総合順位こそ4位ながら、失点数は10位タイと半分以下の出来。守備力の強化のためには、2018年からヨーロッパに活躍の場を移していた植田の力を借りるのが最適解の1つだったと言えるだろう。
補強の順調さから、鹿島には2016年以来のリーグチャンピオンの期待が懸かった。ところが蓋を開けてみるとなかなか失点は減らない。リーグ12位タイの得点とともに、リーグ9位と失点数も苦しんでいる。
18時10分過ぎ、やっとクラブハウスから出てきた植田は苦しい胸の内を語った。鹿島に帰ってくる話が出た時、いろいろな人から「もう昔の鹿島とは違うよ」と言われていたそうだ。
「入ってみても、そこまで悪いとは思わなかった」。ところが「蓋を開けてみれば、というか、試合をやってみれば、なかなか上手くいかない状況もありました」と言う。
何が悪くて低迷しているのか。
「それが分かれば僕たちも上がっている」と植田は苦しい表情を浮かべた。
失点の多さについては、「それは全部自分と、僕は自分に言い聞かせています。自分の出来次第で勝敗は決まると思うし、チームを勝たせられなかった部分では僕も反省していて、また勝たせていかないといけないと自分に言い聞かせて、まだまだこれからもやりたい」とゆっくりと言葉にした。
だが、そこから顔を上げると「まだまだこれからやり直せるチャンスはあると思うし、それだけの力を今のチームは持っている。だから僕はネガティブになっていないです」と続ける。
「昔から上手くいかない状況はたくさんあったし、だから僕は別にそんなに悪く思っていない。それを自分たちで話し合いながら乗り越えてきたからこそ、強い鹿島を手に入れていったと思います。今、それをやる段階だと思うので、僕は練習中も気になったことがあれば話すし、そういったものを増やしていければいいと思うんです」
2018年7月、渡欧直前の植田に話を聞いた時はまだ言葉数が少なかった。だが今はほかの選手たちに声をかけ、チームを牽引しようとする姿がある。クラブスタッフによると、若手選手を一番食事に連れて行くのが植田なのだそうだ。
この日も植田がクラブハウスから出てきた時、たくさんの若手選手も一緒に現れた。きっと練習後、植田はほかの選手たちと話し込んでいたのだろう。植田は車に乗り込むと「今から決起集会なんですよ」と、チームの団結を高めるために走り去っていった。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。