「悔しかった」 鹿島FW知念慶、サポーターからの言葉で目覚めた燃えるような闘争心
【識者コラム】知念が「鹿島で楽しんでやれている」と語る理由
ホームで屈辱の1-5という大敗を喫した4月15日のヴィッセル神戸戦のあと、知念慶はサポーターから罵声を浴びせられて激高した。滅多に怒りを表に出さない知念らしくない場面だった。
知念の性格を知っている友人たちは心配して「大丈夫? メンタルやられてない?」と連絡してきた。知念は「あんなに言われてムカついたことはなかった」と振り返る。だが、あの場面は知念に別の感覚ももたらしていた。
「俺、こんな熱くなることあるんや」
たぎった血液が身体を駆け巡ったあと、知念は気付いた。
「もちろん自分やチームのプレーが情けなかったから、ああやって言われたというのもあると思うんですけど、自分でもほんとに悔しかったからこそ、言い返した部分もあったと思うんです」
自分がどれくらい悔しかったのか、サポーターとの言い合いを通じて知念は再確認していた。そして自分が置かれた環境の違いもはっきりと分かった。2017年から5年間プレーした川崎フロンターレを離れてやって来た鹿島は別世界だった。
川崎なら負けても励ましてもらえる。だが、鹿島は勝つことが前提だ。「フロンターレは負けてもブーイングはなかったですからね」と知念は言う。だが、決して以前を懐かしんでいるわけではない。
「これまでできなかった経験なので。今、いい経験できていると思っています」
連絡してきた友人たちには「全然大丈夫だよ」と返信した。「なんかだいぶメンタル強くなった気がします」と笑う。
もっとも「言い合い」はないことが一番いい。大切なのはチームが勝つことだ。知念は「最初の数試合と今とではやっているサッカーが違う。戦い方が整理されてきた」と手応えを感じている。
知念自身もここまでリーグ戦9試合に出場して3得点と、鈴木優磨の4得点に次ぐ成績は残している。移籍してきたばかりの選手として、最初の段階としては合格点と言えるだろう。だが本人の危機感は強い。
「今後怪我人が復帰してきたら2トップを8人で争うことになり、競争がさらに激しくなるんです。走る、戦う、守備とかそういう根本的なことが大事。そこを頑張らないと試合には出られない」
表情を引き締めながら知念は決意を語った。そして少し微笑みながらこんな言葉も口にした。
「鹿島で楽しんでやれているんです。それが良かったと思っています」
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。