岡崎慎司が語る“日欧サッカー”の違い ストライカー視点で実感「スペインでそれをやると逆に狙われやすくなる」【現地発】
【インタビュー】岡崎が明かすスペインでの経験「動きまくるのは必ずしも得策ではない」
日本代表で長年活躍し、現在ベルギー1部シント=トロイデンに所属するFW岡崎慎司が、日本と欧州サッカーの違いについて言及。「スペインで結構あった」と、ストライカーの視点から実感したという感覚も明かしている。(取材・文=中野吉之伴/全4回の4回目)
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日本サッカーと欧州サッカーの違いはどこで生まれるのだろうか。今の時代、プロ選手だけではなく、下部リーグでも数多くの日本人選手が欧州でチャレンジしているが、日本でやっていたサッカーとの違いに戸惑い、なかなか馴染むことができない選手も少なくない。
例えば、「守備時にもっと相手の懐まで飛び込めと言われるけど、飛び込むとかわされる」という悩みを耳にすることがある。日本だと1対1で対峙する時に「飛び込むな!」という指導を受けることが多いのかもしれない。
もちろん欧州でも、どんな局面でも闇雲に飛び込めとはならないし、戦術的なアプローチで「こうした状況では飛び込まずに待つ」「こうした相手と対峙した時は粘り強く複数でアタックする」という選択肢が増えていく。それでもベースには「ボールを奪うために懐まで飛び込め!」という共有認識がある。
育成段階から「飛び込んで抜かれるか」「飛び込まないで抜かれないか」ではなく、「飛び込んでも抜かれず、奪い切る守り方」に取り組む機会が少ないままだと、ボールを自分のところで取り切れる選手が増えてこないという側面に影響を及ぼす。
あるいはボールをもらうための動きに関してはどうだろう。元日本代表FWで、現在ベルギーのシント=トロイデンに所属する岡崎が興味深い指摘をしていた。
「スペインで結構あったのは、ボールをもらうために動きまくるのは必ずしも得策ではないということですね。逆に疲れてしまったり、相手に見られてしまったりする。日本だとマークを外す動きみたいな感じで、『逆方向に一度動いてから動き直しもらうように』という指導を受けるんですけど、スペインでそれをやると逆に狙われやすくなる。『あ、こいつボールをもらおうとしているな』って分かってしまうじゃないですか。だから、最小限の動きでタイミングを合わせて、スッと動くという感覚を身に付けることがすごく大事だなって思ったんです」
戦術テーマに選手が自然と向き合える工夫、トゥヘル監督が好むやり方とは?
相手の裏を取って視野から外れるほど大きく動くのか、あるいは相手が対応できないタイミングで動いてパスを引き出し、優位な状況を作るのか。身体の向きやタイミングを合わせれば、それこそ2~3歩の動きでパスコースを作り出すことができる。そうした取り組みをしようとしているのかが重要になってくる。
欧州では、タイミングや身体の向きを身に付けるためにどんなトレーニングが行われているのだろうか。それぞれのトレーニングのオーガナイズやコート設定、フリーマン(ボールを持ったチームのサポートをする役割の選手)の使い方で、自分たちが取り組む戦術テーマに選手が自然と向き合えるようにいろいろ工夫をするのが欧州では日常的だ。
そうした理由から、「フリーマンがいる状況なんて試合にはない!」なんてことは言われない。そうではなく、そうすることで何を強調し、何を共有し、どのように落とし込むのかが指導者に求められる。そのあたりを重視したうえで、指導者ライセンス講習会にも落とし込まれていると感じる。
意図を伝えるという点で、例えばゴール横からサイドラインへ斜めにコートを切って、強制的に斜めの走りやパスが出るようなオーガナイズのトレーニングがある。これはマインツ、ボルシア・ドルトムント、パリ・サンジェルマン、チェルシーを率い、現在バイエルン・ミュンヘンの監督を務めるトーマス・トゥヘルが好んで使うやり方だ。
「あ、そういうことか!」 実際のトレーニングを経験して意図に気付くケースも
岡崎もマインツ時代にそうしたトレーニングをよく経験している。
「実際にプレーしてみると、最初は不便に感じるけど、徐々に意図が分かってくるというか、ここを攻略すると、こういう形でチャンスにつながるんだなとかが、みんなに浸透していく」
日本で指導者講習会をやった時に実際に紹介したこともあるが、参加された指導者の方々は「記事で見たことはあるけど、それがどんな効果につながるのか、いまいちピンと来ていなかった。実際に中に入ってやってみて、『あ、そういうことか!』というヒントがたくさんあった」と話してくれた。
各国それぞれに良さがあり、それぞれに特徴がある。すべてを真似ろと言っているのではなく、差や違いを認知したうえで、どのように活用するのかを整理し、それを現場レベルに認識してもらえるようなアプローチが積極的にあってもいいのかもしれない。
[プロフィール]
岡崎慎司(おかざき・しんじ)/1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。宝塚ジュニアFC―けやき台中学校―滝川第二高校―清水エスパルス―シュツットガルト(ドイツ)―マインツ(ドイツ)―レスター・シティー(イングランド)―マラガ(スペイン)―ウエスカ(スペイン)―カルタヘナ(スペイン)―シント=トロイデン(ベルギー)。J1通算121試合42ゴール、日本代表通算119試合50ゴール。日本代表で長年活躍し、2010年W杯から3大会連続出場を果たした。09年にJリーグベストイレブンに選出され、11年1月に清水からシュツットガルトへ移籍。15-16シーズンにはレスターでリーグ戦36試合5ゴールをマークし、クラブ創設132年目のプレミアリーグ初優勝に大きく貢献した。スペインでは3クラブを渡り歩き、22年夏からシント=トロイデンでプレーしている。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。