群雄割拠のJ3リーグ「勢力動向」 シーズン序盤に上位大混戦…“ゴン”中山、昨季G大阪監督ら個性派指揮官にも注目
【識者コラム】J3リーグの勢力動向に注目、トップ7チームが大混戦
J3は7試合まで消化。先週末は試合がなく、一息入れて次節に臨む。首位に立つのは勝ち点14のAC長野パルセイロだが、同1差でカターレ富山、同2差で松本山雅FC、J3初挑戦の奈良クラブ、FC今治、愛媛FCの4チームが続く。そして勝ち点11で7位のいわてグルージャ盛岡も、得失点差はリーグトップの+7。つまり、上位は大混戦状態にあり、現在のところ先が読みにくい。
昇格争いの有力候補である鹿児島ユナイテッドは13位(勝ち点9)と沈んでいるものの、首位の長野とは勝ち点5差。ここから連勝すれば、一気に詰めることが可能だ。今シーズンのJ3は松本が元JFA(日本サッカー協会)技術委員長の霜田正浩監督を迎えたのをはじめ、岩手は松原良香監督、SC相模原は戸田和幸監督といった解説者として高い評価を得ていた気鋭の指揮官が就任。一方でテゲバジャーロ宮崎には昨季のJ1ガンバ大阪を途中就任から残留に導いた松田浩監督のような百戦錬磨の名将も参戦してきており、見方によっては最も群雄割拠のリーグだ。
そうしたなかで、まだ序盤戦とはいえ長野が4勝2分1敗という好成績で首位を走るのはシュタルフ悠紀リヒャルト監督が、3-1-4-2システムをベースとした攻守に練度の高い組織的なサッカーを実現しているからだ。戸田監督の相模原にアウェーで1-0と勝利した第7節の一戦はその象徴で、後半にセットプレーが続いた流れからMF宮阪政樹の正確なキックに185センチのキャプテンDF秋山拓也がヘッドで合わせてリードを奪うと、粘り強く逃げ切った。
ライバルに比べて突出したタレントがいるわけではないが、中盤の底から長短のパスを振り分ける宮阪を軸に、適材適所の選手が組織的に戦いながら、局面で特長を発揮している。特にセットプレーは宮阪のキック力を生かす直接フリーキック(FK)から複数のターゲットマンに合わせることができる。試合に応じてセンターバック(CB)、ボランチ、ウイングバック、FWとほぼフィールドすべてのポジションをこなすMF西村恭史は躍進のキーマンだ。
2位の富山は昨年9月から率いる小田切道治監督が“心を動かすサッカー”を掲げて、積極的にボールを奪い前に攻撃人数を割く戦いを繰り広げており、それは14得点11失点という数字にも表れている。4-4-2をベースに、ストライカーとして覚醒した元FC東京のMFアルトゥール・シルバ、ベテランFW高橋駿太が決定力を発揮しているが、右サイドハーフのMF松岡大智がチャンスを作り、左のMF吉平翼がスピードを生かしてゴール前のフィニッシュに絡む。
2-3で敗れた今治戦のように、自分たちのリズムで押し込めない時に守備の脆さが出てしまうのは課題だが、昨シーズンの6位を上回るポテンシャルは現段階でも見せており、横浜F・マリノスから育成型期限付き移籍した20歳のGK田川知樹の存在も頼もしい。ビルドアップ能力が高く、守備範囲も広い新守護神を最後方に据え、25歳以下の選手が主力の大半を占めるチームが気鋭の指揮官の下、さらなる成長を見せて上位2つの昇格枠に食い込めるか。
“J3参入組”の奈良は昇格争いをかき回す存在として注目
勝ち点12で並ぶ4クラブでは、霜田監督の松本が1年目ながら順調に“点を取らせる仕組み”を構築しており、サイド攻撃を中心としたチャンスの数ではほぼ相手を圧倒している。ただ、相手も松本のスタイルをすでに把握しており、1-1で引き分けた宮崎戦、スコアレスドローだったガイナーレ鳥取戦と、中央を固めて跳ね返す相手にフィニッシュのところで決め切れない試合が続いた。
ギラヴァンツ北九州相手にアウェーで4-2と勝利した試合では、ここまでトップの6得点を挙げているFW小松蓮が本格派のストライカーらしく、オーバーヘッドのゴラッソを含むハットトリックで勝利に導いた。一方、前節のアスルクラロ沼津戦(3-4)では一度逆転しながら終盤に立て続けのゴールを食らって再逆転負け。ここまでは熱狂的なサポーターが後押しするホームのアルウィンでなぜか勝てていない。
得点14、失点8という数字は悪くないが、勝ち点3にしていくには、戦術的な完成度やクオリティーを上げるだけではおそらく不十分で、勝負強さというのは求められてくる。それこそ現JFA技術委員長の反町康治氏が築き上げた「隙を作らず、隙を突く」という伝統は霜田監督のスタイルであっても、忘れるべきではないだろう。
“J3参入組”の奈良は、松本との開幕戦でJリーグの洗礼を浴びる0-2の敗戦を喫したが、33歳のフリアン・マリン・バサロ監督が植え付ける、ボールを動かしながら立ち位置で相手から優位を奪うスタイルがしっかりと機能しており、そこに“苦労人FW”としても知られるFW浅川隼人の鋭利なフィニッシュワークや10番を背負うMF山本宗太朗のアクセントなどが、ポジショナルなパスワークに明確なアクセントを加えている。現状、J2ライセンスを有していないが、“参入組”の躍進がライセンス取得への機運を高める傾向もある。そうした意味でも、昇格争いをかき回す存在として注目だ。
髙木理己監督が率いる今治は36歳のMF三門雄大を攻守の軸として、非常にソリッドなディフェンスを打ち立てている。J3では珍しく、外国籍選手をフルに生かして攻撃のパワーを加えており、特に10番のFWマルクス・ヴィニシウスは打開力と決定力の両面で、規格外感を発揮している。そして元アビスパ福岡の守護神セランテスがなにより頼もしく、ベガルタ仙台や清水エスパルスでJ1経験が豊富なCB二見宏志がビルドアップとカバーリングで支えとなっている。もっとも、20歳のFW高瀬太聖など伸びしろのありそうな若手のシーズン中の成長が悲願の初昇格には不可欠だろう。
森脇良太、松田力ら実力者を擁する愛媛は、尻上がりにチーム状態が向上
もう1つ、勝ち点12で並ぶ愛媛はホーム開幕戦で岩手に1-5大敗という最悪のスタートを切った。しかし、尻上がりにチーム状態を上げており、3試合で1点差の勝利を飾るなど、接戦での強さを見せている。石丸清隆監督は基本的にパスワーク主体のスタイルを掲げるが、バランスワークにも気を配っており、ムードメーカーでもあるMF森脇良太が、要所で味のあるプレーを見せている。
石丸監督は、これまでサイドアタッカーとしてのイメージが強かったFW松田力を1トップに抜擢。松田も5得点という結果で応えている。キーマンは4-2-3-1のトップ下で起用されているMF佐々木匠だ。かつてアンダー代表でその才能が期待されたテクニシャンも、プロの壁に当たって気づけば25歳と中堅プレーヤーに。毎年“勝負の年”と言われている気もするが、不退転の意気込みで愛媛のJ2復帰に貢献できるか。
そのほか、現在7位ながらMF和田昌士などクリエイティブな選手が揃い、13得点6失点と結果を残している岩手、“ゴン”中山雅史監督がポゼッションをベースとする攻撃スタイルを植え付ける12位の沼津、そして現役時代は”不屈のキャプテン”として名を馳せた倉貫一毅監督が「選手が楽しむサッカー」を掲げる11位のFC琉球も5年ぶりとなるJ3の舞台からJ2復帰を悲願に掲げており、ここからの浮上に期待したいところだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。