復活のJ2清水はやはり大本命 「想定外の悪夢」から完全脱却…消えた迷いと芽生えた自信
【識者コラム】一時19位沈没も秋葉監督就任で変貌、明確な方向性と迷いなきプレー
清水エスパルスは監督交代を機に完全に生まれ変わったようだ。
率直に清水の陣容はJ1でも十分に戦えるもので、当然J2では傑出している。だからそもそも昨年のJ2降格から今年の19位沈没までは、想定外の悪夢と言えた。
4月22日、大宮のNACKスタジアムは、全面オレンジに染まった。もうアルディージャがJ2に降格して6年目に入る大宮の街が、まだオレンジ色を基調に華やいでいるのは文化浸透の意味で感慨深かったが、同じチームカラーの清水の選手たちも「ホームと錯覚するほどのパワー」(秋葉忠宏監督)を受け取りやすかったのかもしれない。
ゼ・リカルド監督から指揮権を引き継いだ秋葉監督は、まず「本来持っている力を開花させることに」集中したという。
「ウチの選手たちは、それぞれが強烈な武器を持っている。その長所を発揮して活き活きとフットボールを楽しんでほしいと思った」
指揮官は「適性ポジションを含めて見直した」と話すが、前任体制からそれほど多くのポジション修正はない。むしろチームの方向性を明確に打ち出し、個々が迷う時間を省くことで、スピーディーな展開やアグレッシブな守備が実現した印象だ。
この日も序盤から主導権を握った清水は、前半20分にトップ下でスタメン出場の乾貴士が左から大きくサイドチェンジを行ない、今度は右サイドバック(SB)の岸本武流が再びファーポストまで振ると、乾自身がフリーで走り込み頭で決めた。
しかし、秋葉監督は「3~5点くらい取れるチャンスがあったのに1点で止まった」前半を「危険な状態だ」と伝えて選手を送り出す。
そして後半開始10分に追加点が決まると、それからは次々に交代カードを切り連戦への周到さも見せた。実際昨年J1で得点王を獲得したチアゴ・サンタナとカルリーニョスという助っ人に代わって登場してきたのが、日本代表歴を持つ北川航也と豊富なキャリアを持つ神谷優太なので、十分にターンオーバーも睨める戦力であることが見て取れた。
直近2戦で9得点無失点の爆発力、秋葉監督「ここから1つも負けるつもりはありません」
だが反面、現在の清水の屋台骨を担うのは、この日も90分間走り続けた白崎凌平とホナウドの2ボランチだ。ホナウドはブラジル人にしては珍しく両足を器用に扱い、労を惜しまぬカバーリングが光る。ただしそれ以上にチーム全体の役割、ポジショニング、ボールの動かし方が整理されたことで、白崎のボランチとしての高い能力が際立つようになった。
前体制での清水は、効率的なポジションを取る選手がいても個々が迷った末に安全策を選択するケースが多く、後方でのやり直しばかりが目立ち攻撃が停滞した。例えばボランチの白崎がライン間に顔を出し要求しても、サイドへ遠回りをして結局仕切り直しになる。そんな歯痒い繰り返しが続いた。
しかし現在の清水は、2人のボランチが互いに近い距離で補完し合い攻撃の起点となっている。白崎は些細な間も取り方も含めてオン・ザ・ボールと前への守備の局面では申し分がなく、ホナウドはダイナミックな動きでチーム全体に推進力を与えている。また右サイドでは、白崎がサイドへ出ていくことで、SBの岸本を高い位置に押し上げ精度の高いクロスから2ゴールが生まれるなど、確かに「個々の武器を活かして戦う」指揮官の狙いが十分にピッチで表現されるようになった。
秋葉監督が引き継いでからの清水は、これで4戦負けなし。ここ2戦では9得点無失点と爆発力を見せている。
「ウチにはまだ相手にとって嫌な選手が次から次へと控えている。より競争力を高めて、より連勝が伸びるように。もうここからは1つも負けるつもりはありません」
迷いが消えて芽生えた自信――。もともと豊富な戦力を持つ本命にとって、おそらくそれ以上の武器はない。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。