メッシ、バルサ復帰説の真偽 スペイン記者が明かす“リアル事情”「75%PSG残留」「リーガが許すかどうか…」【現地発】
事情をよく知る現地記者2人に直撃、メッシの古巣復帰はあり得るのか?
フランス1部パリ・サンジェルマン(PSG)のアルゼンチン代表FWリオネル・メッシが古巣のスペイン1部FCバルセロナへ復帰する可能性が浮上している。果たして、数々の栄光を手にした“約束の地”への帰還は実現するのか。世界のサッカーファンが注目し、バルセロナファンにとって単なる戦力補強以上の意味を持つメッシの去就動向に関して、事情をよく知る現地記者2人に話を聞いた。(取材・文=島田徹)
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「実現の可能性は現状で75%。そのパーセンテージは日ごとに高まっている」と言うのはカルロス・モンフォールト記者。ライブストリーミング配信プラットフォームTwitch(ツウィッチ)でバルセロナの情報を扱い生放送で1000~2000万人が視聴する人気チャンネル「Jijana(ヒファーナ)FC」で取材活動をしている。
モンフォールト記者によると、バルセロナがメッシ再獲得のために越えるべき壁は確かにあるものの現実的な動きがあり、その期待感が最終的に実現への後押しになると見ている。「感情的な面で多くの人たちがメッシの復帰を前向きに捉えている。彼はイエス・キリストのようにその出現前後で歴史が違うような存在。退団した時に良い形でお別れができずあっという間に去ったということが引っ掛かっているのだろう」と、世論の後押しがあると考えている。
加えて、クラブ首脳部にも心境の変化が見られるという。「少し前まではクラブ幹部の中でこの話題を避けているところがあった。関心はあるが、獲得失敗のリスクが伴うからあえて触れないようにしていたということ。しかし今ではその狙いを隠そうとしていない。実際にメッシの家族との接触は増えているし、今後さらに増えるだろう」
この見解と対照的なのは一般紙「エル・ペリオディコ・デ・カタルーニャ」のベテラン記者、エミリオ・ペレス・デ・ロサス氏だ。1992年のバルセロナ五輪の時に同紙のサブディレクターを務め、現在もラジオ局「カデナ・コーペ」でコメンテーターを務めるなど複数のメディアで活動するご意見番は、奇しくも「バルサ復帰は25%、残りの75%はPSG残留」との手応えを持っている。
デ・ロサス氏はクラブ対応が後手に回り、思惑どおりの結果を導き出せなかったこれまでの経緯から少なからず不信感を持っている。「(ジョゼップ・マリア・)バルトメウ会長の時、メッシはクラブを出て行く意思を文書で通達したがクラブはそれを許さなかった。その1年後、メッシは自身の希望とは裏腹に出て行かざるを得なかったのだが、その前の会長選挙で(現会長のジョアン・)ラポルタは他候補にない強みとしてメッシとの関係性を強調し『一緒にアサディート(南米名物の焼肉料理)の場で解決する』としていたが実現しなかった。今になってその失敗を取り返そうとするのはナンセンス」と一刀両断している。
「会長やシャビ監督、複数の選手やリーガ、何よりメッシ本人が復帰を望んでいるが…」
バルセロナの戦力補強を語るうえで避けて通れないのはサラリーキャップだ。ラ・リーガの設定する基準を満たすためには大幅な人件費圧縮をしなければならないのは事実だが、この点でも比較的楽観的なモンフォール記者と否定的なデ・ロサス氏の間で見解が異なる。
モンフォール記者は「目安は1億8000万ユーロから2億ユーロ(約268億円~294億円)。簡単な金額ではなく当然難しい。それでもこれから選手放出の話は出てくる。例えばアンス・ファティやフェラン・トーレス、フランク・ケシエといった選手たちは欠かせない戦力ではあるが、他クラブから魅力的な提示があれば最終的には出て行くだろう」と見ている。
対して、メッシ加入は経営的に限りなく不可能と指摘するのがデ・ロサス記者だ。「サラリーキャップのハードルをクリアするために2億ユーロ。そこにメッシの年棒3000万ユーロ分(約44億1000万円)が上乗せされることになる。クラブとしてはメッシ加入によって新たに得られる広告収入を計算し、ベースの年棒を下げ、新たに得た分の何%かをその穴埋めとして考えているが、それをリーガが許すかどうかは別の問題」だとしている。
別の障害があるとすれば、バルセロナが審判から便宜を図ってもらう目的で審判協会の副会長へ長年に渡り多額の金銭を払っていたとされる「ネグレイラ事件」になる。デ・ロサス氏は「UEFAが制裁を科し、バルセロナが(UEFA)チャンピオンズリーグへ出場できなければその時点でメッシの復帰はなくなる」と断言する。一方、モンフォールト記者は「ラポルタ会長が敵視しているリーグ機構のハビエル・テバス会長との関係悪化のほうが危険。心証を悪くすれば移籍承認などで不利に働くことも考えられる。UEFAは最終的には処分を科すまでには至らないだろう」と予想している。
仮にメッシ復帰が実現したとしても弊害が出る恐れもある。デ・ロサス記者は自身の見解としてメッシ再獲得を否定する。
「バルセロナにいた時に彼はすべての権限を持っていた。(ヘラルド・)マルティーノが監督だった時『あなたが会長に電話し今日にも私をクビにすることができることは知っている。でもそれを毎日見せつけなくてもいい』とメッシに詰め寄ったのは有名な話。つまり彼は“独裁者”だった。今同じ状態で彼が戻ってくるとすれば間違い。彼がバルセロナを去った時、ファンはこれからどうなるんだと思った。しかし時間が経過し、ペドリやガビといった若手が出てきて、(マルク=アンドレ・)テア・シュテーゲンらがチームの中心選手になろうとしている。大差をつけてリーガ優勝しようとしているし、今の流れを止める必要はない。会長やシャビ監督、複数の選手やリーガ、何よりメッシ本人が復帰を望んでいるが、今は本の次のページをめくるように前へ進んでいくべきだろう」
涙ながらのバルセロナ退団会見からおよそ2年、ファンはかつての背番号10を追い続けた。カタール・ワールドカップ(W杯)では多くの人たちがアルゼンチン代表を応援し、同国の優勝を喜んだ最大の理由は、メッシにキャリア初のW杯を捧げたいとの思いにほかならない。誰からも愛されるメッシの古府バルセロナ復帰は実現するのか、それとも、一度別れた道が再び交わることはないのか——。早期決着が困難な大プロジェクトだけに、物語は今後もさまざま情報が出てくるたびに多くの人たちの感情を揺さぶり、さらに数か月続くことになる。
(島田 徹 / Toru Shimada)
島田 徹
1971年、山口市出身。地元紙記者を経て2001年渡西。04年からスペイン・マジョルカ在住。スポーツ紙通信員のほか、写真記者としてスペインリーグやスポーツ紙「マルカ」に写真提供、ウェブサイトの翻訳など、スペインサッカーに関わる仕事を行っている。