古橋亨梧の“一見関係ない動き”…岡崎慎司も驚嘆「ゴールが取れる」 データ化しづらい貢献度の新基準「考慮されていい」【現地発】

セルティックで活躍の古橋に岡崎が言及【写真:Getty Images】
セルティックで活躍の古橋に岡崎が言及【写真:Getty Images】

【インタビュー】数値化されるプレーと数値化されないプレーで変わる選手の評価

 日本代表で長年活躍し、現在ベルギー1部シント=トロイデンに所属するFW岡崎慎司は、スコットランド1部セルティックでゴールを量産するFW古橋亨梧を引き合いに出し、「俺が一番ゴールを取れるなと思うのは、そういう動き」と、データ化しづらいプレーを高く評価する。「ボールに触らなくても攻撃に関わっている動きはもっと評価されていい」と語る理由とは――。岡崎の真意に迫る。(取材・文=中野吉之伴/全4回の2回目)

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「今日あの選手はボールタッチ数が80回もあった。かなりゲームに関わっていたよね」
「あの選手のボールタッチ数25回だけだよ。全然だめ」

 データは嘘をつかないなんて言葉がある。確かに数字として出されると説得力はあるのかもしれない。だが、それがサッカーのすべてを表すなんてことはない。

 冒頭で交わされたボールタッチ数にしても、それぞれがどんなボールタッチだったのかで試合への関与、選手への評価は全く変わってくる。どの時間帯で、どの局面に、どのように受けたボールだったのかで求められるプレーも変わってくるのがサッカーだ。

 元日本代表FWで、現在ベルギーのシント=トロイデンで活躍する岡崎もこんなことを言っていた。

「ボールタッチ数が少ないとそれだけで結構言われてしまう。でも今はもうそういう時代じゃないと思うんです。サッカーのリズムも変わってきている。ボールに触らなくても攻撃に関わっている動きのことはもっと考慮されて、評価されていいと思います」

 統計で出される数値やバリエーションはどんどん増えている。走行距離、1対1の競り合いの勝率、パス成功率、ダッシュの本数と頻度などは随時チェックが可能だ。ただ、選手が実際にどれだけゲームに関わっていたのか、どんな影響を及ぼしていたのかまでは、やはり可視化しづらい。

ボールタッチだけでなく「ボールに関わる時間」も算出する新たな試み

 よくある表現に「起点」というものがある。「〇〇のパスが得点の起点になった」「△△のパスカットは起点となる重要な動き」と表現されたりするわけだが、サッカーは常に動きのあるスポーツなのだから、極端な話、すべてのプレーが起点となり得る。どんなふうに「起点」となるプレーでチームにポジティブな作用を効果的にもたらしたのか。そして試合の流れにどんな影響を及ぼしたのか。そのあたりがもっと考慮された見方が必要なのだろう。

 アシストにしても、相手の動きの逆を見事に突いたスルーパスを通してゴールをお膳立てした場合、近くにいるフリーの仲間にパスして、その選手が物凄いゴールを決めてアシストになった場合、どちらも数字上は同じ1アシストだが、評価基準はやはり別にあるべきなのかもしれない。

 そうした点で選手のプレーをより明確に評価する基準データがあってもいい。実は今、ボールに関与しないプレーの貢献度を数値化する試みも行われている。昨年ドイツで開催された国際コーチ会議で、国際サッカー連盟(FIFA)のテクニカルチーム担当者によるレポートにとても興味深いものがあったのだ。

 現在ボールタッチ数というのは、ボールをコントロールした頻度とボールを保持した時間で計測されるようになっていることが多い。今はそれだけではなく、ボールに関わる動きの時間も考慮されたデータを測ろうとしているのだ。

 例えば味方がボールを持っている時に相手DFを引き付ける動きをしたり、大きく動いていなくてもボールをもらう準備をしていた場合、どちらも「ボールに関わる時間」として算出していく。

 まだ改良の余地は多いとされているし、一般化されるまでには少し時間が必要だろう。ただ、こうしたデータが一般化されるようになったら、味方のためにスペースを作る動きやゲームへの関与度合いがよりリアルに見えてくるかもしれない。

古橋の駆け引きに岡崎も注目「相手がうろうろされるとすごく嫌なところにいる」

 岡崎はスコットランドで結果を残す古橋に言及し、データ化しづらい動きの重要性を説く。

「例えばセルティックでプレーする古橋(亨梧)とかも見ていると、味方がボールを持っている時に一見関係ないところで動いたり、止まったりしている。俺が一番ゴールを取れるなと思うのは、そういう動き。要は、ビルドアップ時にいつもボールを受けに行きすぎちゃうと、サイドにいい形でパスが入った時、クロスが上がってくるタイミングで一番いいポジショニングを取ることが難しい。あと、相手DFがうろうろされるとすごく嫌なところにいる。そのままだったらオフサイドなんだけど、1つズレたらフリーでボールがもらえる。味方が抜け出したあとだと、そこからボールに関与することができる。そこにいるだけでなんか怖いと思わすことができるし、相手がケアして2人のDFを引き付けてくれたら、それで味方選手は相当有利にプレーできる」

 そうした表面化されにくい、でもサッカーというスポーツにおいて極めて重要な動きや駆け引きを、育成年代から子供たちがしっかりと認識して取り組めるようになったら、ゲームインテリジェンスの高い選手がこれからもっと生まれてくる下地になるだろう。

「味方のスペースを作り出すキング」というランキングも誕生したりするかもしれない。

※第3回へ続く

[プロフィール]
岡崎慎司(おかざき・しんじ)/1986年4月16日生まれ、兵庫県出身。宝塚ジュニアFC―けやき台中学校―滝川第二高校―清水エスパルス―シュツットガルト(ドイツ)―マインツ(ドイツ)―レスター・シティー(イングランド)―マラガ(スペイン)―ウエスカ(スペイン)―カルタヘナ(スペイン)―シント=トロイデン(ベルギー)。J1通算121試合42ゴール、日本代表通算119試合50ゴール。日本代表で長年活躍し、2010年W杯から3大会連続出場を果たした。09年にJリーグベストイレブンに選出され、11年1月に清水からシュツットガルトへ移籍。15-16シーズンにはレスターでリーグ戦36試合5ゴールをマークし、クラブ創設132年目のプレミアリーグ初優勝に大きく貢献した。スペインでは3クラブを渡り歩き、22年夏からシント=トロイデンでプレーしている。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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