【月間表彰】3人かわして突き刺した衝撃のゴール 鳥栖・樺山諒乃介が取り戻した強気と自信

月間ベストゴールを受賞した樺山諒乃介【写真:(C) SAGAN DREAMS CO.,LTD.】
月間ベストゴールを受賞した樺山諒乃介【写真:(C) SAGAN DREAMS CO.,LTD.】

月間ベストゴールに輝いた2月25日・ガンバ大阪戦のスーパーゴール

 Jリーグは2023年シーズンも「明治安田生命J1リーグ KONAMI 月間ベストゴール」を選出。スポーツチャンネル「DAZN」とパートナーメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」の連動企画として、「FOOTBALL ZONE」では毎月、スーパーゴールを生んだ受賞者のインタビューをお届けする。2・3月度の月間ベストゴールに選出されたのは、サガン鳥栖のFW樺山諒乃介選手が2月25日・ガンバ大阪戦の後半19分に決めた一発だ。右足から放たれたシュートの背景に迫る。(文=藤井雅彦)

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 日本だけでなく世界に大きな衝撃を与えるゴールが決まった。

 J1リーグ第2節・ガンバ大阪戦の後半19分、相手ペナルティエリア内の右寄りで樺山諒乃介がボールを持つ。優しいボールタッチから左足のアウトサイドで持ち出して急加速。対峙したDFが必死にスライディングタックルを仕掛けてきたが、これを鋭い切り返しでかわす。次に、慌ててカバーに入ったDFの股を抜き、さらに身体をねじ込むようにして3人目のDFの前に入り、間髪入れずに右足を振り抜く。シュートは日本代表GK谷晃生が守るゴールマウスのニアハイに突き破った。

 今季からサガン鳥栖に加入した20歳の若武者は冷静に“見えていた”。

「最初は、左足でファーサイドに巻いたシュートを打とうと思いました。本気で狙っていたからこそ相手は食いついてスライディングを仕掛けてきたのが分かったので、切り返せば抜けるというのは見えました。そこは冷静にプレーを判断して、実行できたと思います」

 真骨頂は2人目、3人目をかわしたドリブルとフィニッシュだ。相手の対応すべてをあらかじめイメージするのは難しく、瞬時の判断と高い技術が必要になる。すべてをパーフェクトに行い、初めて生まれたスーパーゴールだろう。

「1人目をかわしたあとは、感覚というかノリというか(笑)。シュートもとりあえずゴールの枠に飛ばすことを意識していて、ニアサイドのコースが見えていたわけではありません。でも、股抜きの時はスローモーションに近い状態になって、シュートの瞬間も時間がゆっくりになって。決まった瞬間、ものすごい歓声と同時に時間の流れが普通に戻りました」

結果が出ずに自信をなくした2年「気持ちをへし折られました」

 開幕戦で敗れていた鳥栖に貴重な勝ち点1をもたらす得点は、自身にとってプロ3年目で決めた待望のJ1初ゴール。興国高校時代からポテンシャルを高く評価されていたアタッカーが、いよいよ覚醒したことを強く印象付けた。

「チームは勝てませんでしたけど、サッカー選手としての仕事はできたのかなと思います。今シーズンはリーグ戦とカップ戦で合わせて2桁得点を目指して、とにかく結果にこだわりたい。(賞金20万円は)洋服が好きなので、全部突っ込もうと思っています。これから夏に向けて暖かくなっていくので、いろいろな半袖Tシャツを集めて、あとは明るい色のスニーカーも集めていきたい」

 茶目っ気たっぷり笑った。その様子には「自信」の二文字がにじみ出ている。苦しい時期も少なからずあったプロ入りからの2年間を経て、彼の中に再び強気な姿勢や言葉が宿りつつある。

「高校時代に積み上げてきた技術は、ほかの選手に負けていないと思っています。だから、重要なのはメンタル。横浜F・マリノスでのプロ1年目は開幕デビューを飾れたけど、それから結果を残せなくて、だんだん試合にも絡めなくなって、やっているプレーが正しいのか自信をなくしている自分がいました。モンテディオ山形へ期限付き移籍して、自信を取り戻してマリノスに復帰した2年目も、トップレベルの選手との差が埋まっていなくて気持ちをへし折られました。

 でも、去年の後半に山形へもう一度期限付き移籍させてもらって、本気で山形をJ1に昇格させるためにプレーして、他のJ1クラブから声がかかるくらいのパフォーマンスを見せるという覚悟を持って戦いました。その時間が成長につながって自信が戻り、鳥栖でもキャンプから自分のプレーを出せている手応えがありました」

自らの姿に憧れてもらえたらと語る樺山【写真:(C) SAGAN DREAMS CO.,LTD.】
自らの姿に憧れてもらえたらと語る樺山【写真:(C) SAGAN DREAMS CO.,LTD.】

「憧れてもらえたら、ゴールを決めるよりも嬉しいかも」

 雌伏の日々を経て、再び本来持っている力を発揮できるようになってきたのは、自信という素地があるからこそだろう。インパクト大のゴールを決めたことで、周囲から向けられる目線が変わってきたのも感じている。

「あのゴールを決めたことで、自分がボールを持つと相手は2人来るようになりました。対峙する選手はなかなか飛び込んでこないですし、ドリブル突破も警戒されて、去年や一昨年とはまったく違うやりづらさがあります。でも、そこを乗り越えていく面白さもあるので、厳しい目や高い期待値をプレッシャーとは思わず楽しんでいきたい」

 目に見える結果は成功体験となり、次のステージに進む号砲でもある。J1という日本最高峰の舞台で継続的に数字を残すことで、道を切り拓ける。夢であるプレミアリーグ、そして日の丸での活躍にも近づいていく。そんな野心家の背中を見て、サッカーにのめり込む少年少女がいるかもしれない。

「今回のゴールを自分が少年だった頃に見ていたら、その選手を好きになっていたかもしれません。自分はセレッソ大阪のファンで、柿谷曜一朗選手(現・徳島ヴォルティス)や乾貴士選手(現・清水エスパルス)が決めたゴールに興奮して、公園でずっと真似していました。『樺山諒乃介みたいな選手になりたい』と憧れてもらえたら、もしかしたらゴールを決めるよりも嬉しいかもしれません」

 夢を与えるプレーヤーになる一歩目を踏み出した。「これからも毎月ベストゴールを決めていけるくらいの勢いで点を取っていきたい」と言い切るギラギラ感を武器に、樺山諒乃介はこれからも自分で決めた道を突っ走っていく。

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藤井雅彦

ふじい・まさひこ/1983年生まれ、神奈川県出身。日本ジャーナリスト専門学校在学中からボランティア形式でサッカー業界に携わり、卒業後にフリーランスとして活動開始。サッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊号から寄稿し、ドイツW杯取材を経て2006年から横浜F・マリノス担当に。12年からはウェブマガジン『ザ・ヨコハマ・エクスプレス』(https://www.targma.jp/yokohama-ex/)の責任編集として密着取材を続けている。著書に『横浜F・マリノス 変革のトリコロール秘史』、構成に『中村俊輔式 サッカー観戦術』『サッカー・J2論/松井大輔』『ゴールへの道は自分自身で切り拓くものだ/山瀬功治』(発行はすべてワニブックス)がある。

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