森保Jの現在地「優秀な選手が揃っているが…」 日本代表OBが考察「改善がなければ首脳陣の責任だろう」
【専門家の目|金田喜稔】日本代表が取り組むチャレンジは「諸刃の剣」
森保一監督率いる日本代表は3月シリーズを1分1敗で終えた。「天才ドリブラー」として1970年代から80年代にかけて活躍し、解説者として長年にわたって日本代表を追い続ける金田喜稔氏は、新たな取り組みに理解を示しつつ、日本代表の“現在地”について考察している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)
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第2次森保体制の初陣となった3月24日のウルグアイ戦で1-1と引き分け、同28日のコロンビア戦で1-2と逆転負けを喫した。金田氏は2試合を振り返り、シュート数を1つの指標として挙げている。
「今、新たなビルドアップの形を模索している段階と考えれば、シュート数は分かりやすい指標の1つとなる。3月シリーズの2試合で、日本はシュート合計9本だった。ウルグアイ戦は4本(相手は8本)、コロンビア戦は5本(相手は11本)。深刻とは言わないが、日本が攻め切れているとは言えない。アタッキングサードに入る回数が少なく、相手ペナルティーエリアに迫る形を作れていないから、当然フィニッシュの回数も少なくなる。ビルドアップが拙く、危険な形でボールを奪われてカウンター攻撃を受けてしまっている。このあたりは諸刃の剣で、中途半端なビルドアップになっている」
3月シリーズの日本は2ゴールを挙げたものの、ビルドアップ面ではチーム内で迷いが見られ、選手たちも課題を口にしている。金田氏は「名波浩氏や前田遼一氏らをコーチとして招聘し、改善の一環としてビルドアップ強化にトライしている。まだまだチグハグ感は否めないが、新たな形を模索している段階だから当然、改善点も出てくるだろう」と、チャレンジに理解を示す。
「大前提として、三笘薫や伊東純也など、個の力で突破できる存在は極めて大きい。そんな選手が1人いるだけで戦術にもなり得るからだ。最大の問題は、優れた人材をどう生かすかに尽きる。片方のサイドで攻撃を組み立てながら逆サイドを効果的に生かす、あるいは両サイドを効果的に使って揺さぶりをかける、という形まで昇華できるかどうか。正直、今の段階では機能するか分からない」
現状を冷静に分析「日本代表という1つのチームになった時には課題も多い」
イングランド1部ブライトンで存在感を放つMF三笘薫、スペイン1部レアル・ソシエダで活躍するMF久保建英をはじめ、ドイツやフランスで活躍する選手も顔を並べる森保ジャパン。個々の能力を高く評価する金田氏は、その一方で冷静に日本の状況を分析する。
「日本代表クラスの能力に疑いの余地はない。実際、欧州の主要リーグで活躍している選手も多く、ワールドクラスと言えるスキルを有している選手もいる。個々の水準は間違いなく高いが、日本代表という1つのチームになった時には課題も多い。今の日本には優秀な選手たちが揃っている。だが、それなりの技術、フィジカル、スピード、戦術を有したチームに対して、まだまだ劣る部分もある。カタールW杯でドイツやスペインを撃破したとはいえ、これが日本代表の現在地だ」
3月シリーズを終えた日本は、6月15日(対戦国未定/豊田スタジアム)と同20日(対戦国未定/パナソニック・スタジアム)に2試合を予定。金田氏が「大切なのは、この3月シリーズの課題を抽出し、次の6月シリーズに生かすことだ。次シリーズで改善が見られれば前進を意味しているわけだし、一方で改善がなければそれは首脳陣の責任だろう」と語るとおり、6月シリーズのパフォーマンスに注目が集まりそうだ。
金田喜稔
かねだ・のぶとし/1958年生まれ、広島県出身。現役時代は天才ドリブラーとして知られ、中央大学在籍時の77年6月の韓国戦で日本代表にデビューし初ゴールも記録。「19歳119日」で決めたこのゴールは、今も国際Aマッチでの歴代最年少得点として破られていない。日産自動車(現・横浜FM)の黄金期を支え、91年に現役を引退。Jリーグ開幕以降は解説者として活躍。玄人好みの技術論に定評がある。