森保ジャパン敗戦後、カメラに写ったコントラスト 久保が肩を落とす姿に抱いた本音
【カメラマンの目】理想を追い求める日本の姿に抱く疑念
試合終了のホイッスルがヨドコウ桜スタジアムに響き渡ると、久保建英は膝に手を付くと俯き肩を落とした。久保の先にはファインセーブでピンチを救い、チームの勝利に貢献したコロンビア代表GKカミロ・ガルバスの喜ぶ姿があった。
日本代表はワールドカップ・カタール大会後、森保一監督の続投が決定し、仕切り直しとなって最初のシリーズを迎えた。24日の対ウルグアイ戦を引き分け、続く28日のコロンビア戦は開始3分に三笘薫の電撃ヘッドで先制したが、その後2失点を喫し逆転負け。シリーズを1分1敗とし第2次森保ジャパンの初勝利は次以降の試合へと持ち越された。
新監督を迎えるとチーム作りはゼロからのスタートとなるが、指揮官が続投すればこれまでのスタイルをベースにでき、さらに磨きをかけることによって、レベルアップの作業が容易になる利点がある。先の国立競技場の試合では伊東純也の前線へと一気に攻め上がる高速ドリブルは健在で、急速に力を付けてきた三笘と合わせて2人の個人能力による状況打開が新チームでも大きな武器となることが確認された。
これに加え、森保監督はポゼッションサッカーとの融合を目指しているようだ。だが、この試みはコロンビア戦を見る限り、前途は多難であると感じざるを得なかった。
その困難さはカメラのファインダー越しに見た、日本の選手たちのボールキープに表れていた。中盤から最終ラインの選手たちが突破口を開こうとボールをキープする。しかし、共通の戦術意識が低く連動性がないためボールの出しどころを見つけられず、コロンビア戦では横へと逃げるつなぎばかりで、結局はパックパスを繰り返すこととなった。
手数の多さとバックパスは当然、攻撃スピードの失速を意味し流れは停滞。これでは三笘と伊東も自慢のスピードを発揮することはできない。
チーム戦術としては個人に依存すると、その選手が欠場した場合、攻撃の武器を失うことになるリスクが伴う。しかし、指揮官がチーム全体として戦うスタイルを確立できないとなっては、なによりも三笘と伊東を活かすカウンターサッカーに賭けるのが最善の策と考えるのは当然の帰結である。
チームの進化をよりテクニカルで複雑なサッカーを実行することであると勘違いしてはいけない。いくつもの攻撃の手段を持っていることに越したことはないが、そうしたサッカーを展開するには選手たちの能力に加え、指揮官の指導力が大いに必要になる。無理な挑戦はチームに混乱を招くだけだ。
翻って単純なカウンターサッカーでもそのスタイルを追求し、ゴールという結果を生む確率を高めれば、強力な武器となるのだ。果断速攻。選手たちがボールを運ぶスピードを意識し、それを追求すれば相手の守備網が整う前に攻略へと着手し、ゴールのチャンスは広がる。シンプルでダイナミックなカウンター攻撃こそが日本の目指すサッカーだ。
新たなチーム構築はまだ始まったばかりだが、コロンビア戦で見せた試みは生みの苦しみというより、無謀で無意味な挑戦に思えてしまった。理想を追い求めることによって生じる、行き過ぎた戦術へ追求はチーム低迷へと転化させる危険をはらんでいることを指揮官は忘れてはならない。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。