天才司令塔を狂わせたレアル移籍の決断

　誰もが羨むほど多くのトロフィーを手にしたが、ゲッツェはドルトムント復帰時に「僕が望んでいたのは、ベストなフットボールを取り戻せるこの場所に戻ってくることだった」と語った。その言葉からは、ミュンヘンでの生活が、必ずしも順風満帆ではなかったことが窺える。心の何処かにドルトムントへの後ろめたさを感じている部分があったのかもしれない。

　推定市場価格を見ると、ゲッツェのピークはバイエルン加入後の5500万ユーロ（約63億2000万円）。そこから段々と値を下げていき、バイエルンを離れる直前に3500万ユーロ（約40億2000万円）、ドルトムントへ復帰してトップフォームに戻っていない現時点では2800万ユーロ（約32億2000万円）まで下落している。まだ24歳の天才MFには、再び飛躍を遂げる時間は十分に残っているはずだ。

　11年夏にレアル・マドリードへと移籍したトルコ代表MFヌリ・シャヒンは、数多くの生え抜き選手の中でも、ドルトムント最大の出世頭となるはずだった。2005年に16歳335日でブンデス史上最年少デビュー、17歳と34日というトルコ代表史上最年少デビューと2つの記録を打ち立て、早くから将来を嘱望されていた。

　フェイエノールトへのレンタル移籍を経験して頭角を現した司令塔は、正確無比なパスで攻撃陣を操り、10-11シーズンのリーグ優勝に大きく貢献した。そして6年という大型契約が物語る通り、大きな期待を背負って11年夏にスペインへ渡ったが、“白い巨人”では公式戦出場10試合のみと存在感は皆無に等しかった。翌シーズンにリバプールへ期限付き移籍も、ここでも同様にインパクトを残せなかったシャヒンはわずか半年後の13年1月にドルトムントへ復帰している。