日本代表MF伊東の“PK取り消し”シーン、元主審・家本氏がVAR介入に疑問 「明白に判定を覆すだけの事象と言えるのか…」
【専門家の目|家本政明】ペナルティーエリア内に侵入した伊東が倒れPKと判定されるも、VARで覆される
森保一監督率いる日本代表は3月24日、キリンチャレンジカップ2023でウルグアイ代表と対戦し1-1のドロー決着となった。MF伊東純也(スタッド・ランス)がペナルティーエリア内で倒されて一度はペナルティーキック(PK)を獲得するも、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の介入で取り消しになったシーンに関して、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏は難解な判定に頭を悩ませている。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)
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前半に失点を許した日本は後半20分、FW上田綺世(セルクル・ブルージュ)と伊東でチャンスを作る。伊東からペナルティーエリア内でボールを受けた上田がキープし、上がってきた伊東へはたく。ドリブルで侵入した伊東が倒されてコ・ヒョンジ主審はPKと判定。しかし、VARが介入しオンフィールドレビュー(主審が直接映像を確認すること)を実施し、ノーファウルに判定が変わりPKが無効となった。
このシーンについて家本氏は「めちゃくちゃ難しい。スーパースローで見て、やっとウルグアイの選手が先にボールに触れたことが分かった」と所感を話したうえで「限りなくどちら(ファウルまたはノーファウル)とも言える」と審判目線での考察を展開している。
「ウルグアイ選手がボールに触れたあと、伊東選手のほうに相手の足が出る。ボール、ウルグアイの選手の足、伊東選手の足という順番。“伊東選手の進行方向に足を出した”と考えるとファウルと捉えられなくもないですが、一方で伊東選手の足がウルグアイの選手の方向に行ったとも捉えられる。ここが結構際どい」
稀に見る難しい判定だと家本氏は感じつつ、「それでも、僕はどちらかというとPKじゃない」と個人的な見解を示した。そのうえで、「VARがリコメンド(確認を要求)したことも意見が分かれると思う」とVARの介入条件についても照らし合わせて説明している。
VARが介入する事象は「はっきりとした明白な間違い」または「見逃された重大な事象」のどちらかでなければならない。また介入の条件として(1)得点か得点ではないか(2)PKかPKではないか(3)退場(2つ目の警告除く)(4)人間違いのどれかに当てはまらなければならないと定められている。これを踏まえ、家本氏は「明白に判定を覆すだけの事象と言えるのかが難しい。個人的には、判定はPKではないと思う一方、主審の判定が“明白に違う”とは言えないと思う」と持論を述べた。
日本からすると悔しい判定となった伊東の突破だったが、審判目線でも「肉眼で判断するのは不可能に近い。なかなか見ない本当に際どいプレー」と頭を悩ませるシーンだったようだ。
家本政明
いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。