鎌田大地、来季ステップアップ移籍は確実? ドイツ国内で「貴重な選手」と評される裏事情【現地発コラム】
ドイツ国内で評価され、移籍話が浮上した経緯を改めて考察
フランクフルトMF鎌田大地の来季去就動向が注目されている。ドイツの複数メディア上ではボルシア・ドルトムント入りへ急接近したと伝えられ、その後、イングランド・プレミアリーグ入りの可能性も浮上している。
そんな鎌田の去就動向に頭を巡らせる前に、そもそもなぜドイツ国内で評価され、ドルトムント移籍話が浮上したのかについて、改めてまとめてみたい。
鎌田はゲームのオーガナイザーとしてブンデスリーガトップレベルの選手とされている。中盤でボールをうまく収め、ストレスがかかる状況でも巧みなボールコントロールで状況を打開することができる。
長短織り交ぜたリズムカルなパスを使い分けて、相手のプレスを掻い潜る術を持っている。スペースへのコースとタイミングがばっちりあったスルーパスで攻撃を一気に加速させることができるのも魅力だ。
そして味方の特徴に合わせて、それぞれの長所を引き出せる局面をイメージしながら攻撃を組み立てる能力がとても高い。フランクフルトでは毎年のように前線の構成が変わっているが、異なる特徴を持つそれぞれの選手の才能をうまく引き出しつつ、自らの力も発揮しやすい状況を生み出しているのが素晴らしい。
例えば、セルビア代表MFフィリップ・コスティッチ(現ユベントス)が在籍時、彼の持つ爆発的な突破力とクロス精度を生かすために、前を向いてパスをもらえる状況ならすっとボールを預けてバイタルエリアへ移動するプレーが多かった。前線にボールを収めるFWが不在だった時期は、鎌田自身が守備ライン裏のスペースに頻繁に走りこむことでパスを引き出して、得点チャンスへとうまくつなげていた。
MFマリオ・ゲッツェが加入してからは、「ポジションもタイプも被るから鎌田はスタメンを追われる」という地元記者の予想に反して、ポジション1つ落としたボランチという新境地を開拓。攻守におけるインテンシティーの連続性が増し、鎌田のところでボールを奪取する頻度も少なくない。
トップ下、ボランチ、インサイドハーフ、両サイドのオフェンシブなポジションとフレキシブルにプレーができるし、どこで起用されても監督が期待するパフォーマンスを発揮してくれるのだから、貴重な選手だ。
ドルトムントにとって鎌田は“願ったりかなったりの人材”
特に移籍先として浮上しているドルトムントではここ数シーズン、オフェンス陣の負傷に悩みを抱えている。今季もMFマルコ・ロイス、MFジョバンニ・レイナ、MFユリアン・ブラント、FWユスファ・ムココといった選手が負傷で離脱し、それがチーム力低下の要因となっている。
そのため、中盤センターは補強ポイントとされている。元ドイツ代表MFマフムード・ダフードとの契約延長がされないことがすでに発表されており、加えてチームの主軸であるイングランド代表MFジュード・ベリンガムの去就も定かではない。残留の可能性はゼロではないが、いつビッグクラブへ移籍を果たしてもおかしくない逸材だけに残留ありきで考えるのは危険だろう。
そうした状況のドルトムントからしたら、中盤からゲームをコントロールし、試合の流れをオーガナイズでき、オフェンシブなポジションならどこでも高いレベルでプレーできる鎌田のような存在は、願ったりかなったりの人材。鎌田へのオファー額は、年俸にしてフランクフルトでの2倍以上となる550万ユーロ(約7億9000万円)から600万ユーロ(約8億6000万円)とも伝えられ、最大級の評価が下されたのも当然と言えるのかもしれない。
鎌田はイタリア1部ナポリとのUEFAチャンピオンズリーグ(CL)16強の第1戦(0-2)後に「もっとできるようになれたらいいなと思う。常にこういう舞台で試合に出続けたいなっていうのは思いました」と話し、「CLの舞台にずっと出続けたい」ということはよく口にしている。
これまでも「移籍が濃厚」という噂話が何度もありながら、最終的にはフランクフルトに残ってきた鎌田。契約延長→残留の可能性だってないわけではない。フランクフルトは現在、リーグ戦で6位に付けている。来季CL出場圏内となる4位以内でのフィニッシュの可能性も十分にあるが、果たして鎌田はどんな道を選ぶだろうか。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。